麻布警察署託外勤警部
明治21年(1888年)には麻布警察署託外勤警部となり東京の治安を守る警官として、五郎は警部にまで昇進した。
「私ももう44歳か。」
「警官なんざ辞めて仏門にでもくだれ。」
「仏門にくだる気はないが長男の勉は陸軍士官学校を卒業し、正式な大日本帝国陸軍軍人となった。次男の剛も三男の龍雄ももう自分の事は親の手を借りずに済むところまで成長した。妻の時尾にはとても感謝している。」
「警部殿は警察を辞める気は?」
「もう数年は頑張って見ようと思っています。」
「立派だね?」
「そんな大したものではありません。鬼神丸国重も扱えない様な軟弱な時代に何を望めとおっしゃるのですか?勉の話じゃ内乱を収めたかと思えば、今度は清や露との戦争の準備に入っていると聞く。」
「懲りないね〜。」
「まぁ、日本は未だかつて対外戦争で負けた事は無いからね。自信はあるのだろう。」
「とは言え、欧米列強からはかなり遅れているからな。それを取り戻すには戦争やむなしと言ったところか。」
「公安(警視庁)の方でも一応、内通者がいないか早急に調査をしろと言われている。」
「国内のスパイは警視庁の仕事なのか?ご苦労な事だな。」
「まぁ、元々はその任務が主で警視庁に入庁したんですからね。警察署の託外警部など窓際係長に等しい扱いですな。」
「警部は警部だろう?」
「それはそうなんですが…。」
「ワシはもうお主がこの組織に存在する意味は全くないと思っている。」
「それは自分も同意です。生活を支える方法などいくらでもありますからね。」
「それでもまだ数年は様子が見たいのか?」
「新選組時代より遥かに長く世話になった組織です。いる意味が無いからと、はいじゃあ辞めますとも言えませんし。」
「それは理解するに値する考えではあるが、それで給与が増える訳でもあるまい。」
「警視庁入庁当時世話になった大警視川路利良氏もとっくに引退している。」
「薩長のキャリア達が扱いに困っているのが目に見えているな。」
「扱い次第では命すら狙われかねない男だからな。貴様の場合。」
「そんな気力などとうに失っているのですがね。」
と、慣れない交番勤務をしては杉村(永倉)の所へ行っていた五郎であった。東京に転居して20数年。辛い事の方が多かったかも知れない。それでも一家の屋台骨として必死で頑張って来た。お世辞にも高くない給与を稼ぎ出す為に。家族や自分の為に。子育ては妻任せだったが、それでも子供達からは立派な父親であり、尊敬に値する父親でいられた事を誇らしく思っていた。心が折れそうな時もあったが、そこは流石元新選組3番隊組長でありしぶとかった。




