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救いのない世界で、私は笑い続けた  作者: ネコ雲


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3/3

救いのない世界で、私は笑い続けた


 私は森の奥へと進んでいた。


 両親を殺した魔物を見つけ出し、今度こそ決着をつける。そのために、私は町を出た。


 サラとコウタが私を忘れてしまう前に、呪いを解かなければならない。二人との思い出を、これ以上失いたくなかった。


「ミライ!」


 後ろから聞き慣れた声がした。


 振り返ると、サラとコウタがこちらへ走ってくる。


「どうして二人が……?」


「どうしてって、決まってるだろ。お前の両親の仇を討つためだよ」


 コウタはそう言って、私の頭に手を置いた。


「私たち、ずっと一緒に戦ってきたじゃない。ミライだけに行かせられないよ」


 サラも笑顔で頷いた。


 二人は、まだ私を覚えている。


 一緒に過ごしてきた時間も、交わした約束も、ちゃんと残っている。


「……ありがとう」


「何だよ、急に」


「ううん。何でもない」


 私は二人に笑い返した。


 まだ大丈夫。二人が覚えていてくれるなら、私は戦える。


 やがて、私たちは森の奥で魔物を見つけた。


 その姿を見た瞬間、五歳のあの日が脳裏によみがえる。


 血に染まった両親。倒れた二人の前に立つ魔物。そして、私に向けられた言葉。


 ――見つけた。


「お前が……私の両親を殺したんだ!」


 私は魔物を睨みつけた。


 もう逃げない。今度こそ、こいつを倒す。


「行くよ、二人とも!」


 私たちは一斉に魔物へと駆け出した。


 サラとコウタが攻撃を仕掛け、私もその隙を突いて攻める。三人で力を合わせて立ち向かったが、魔物は強かった。


 攻撃を受けるたびに傷が増え、息も荒くなっていく。それでも、私たちは必死に食らいついた。


 サラが攻撃を避け、コウタが反撃する。私も二人に続いて魔物へと向かった。


 傷つきながらも戦い続ける二人を見て、私は拳を握りしめた。


「まだ戦える……!」


 震える足に力を込め、二人を見つめる。


「三人なら、きっと勝てる!」


 二人と一緒なら大丈夫。今までも、三人で乗り越えてきたのだから。


 私は再び魔物へと向き直った。


 ――その瞬間、頭に激痛が走った。


「うっ……ああああっ!」


 頭を押さえ、その場に膝をつく。


 視界が歪み、身体に力が入らない。


 何度も味わった、あの痛み。


 でも、今は駄目だ。ここで倒れるわけにはいかない。


 二人と一緒に、魔物を倒さなければ。


「サラ……コウタ……」


 二人の名前を呼んだところで、私の意識は途切れた。


 目を覚ますと、周囲は静まり返っていた。


 身体を起こし、辺りを見回す。


「……サラ? コウタ?」


 二人の姿がない。


 さっきまで、確かに一緒に戦っていたはずなのに。


「二人は……どこに行ったの?」


 問いかけると、目の前の魔物が愉快そうに笑った。


「記憶をなくしてやったら、逃げ帰ったぞ」


「……え?」


 すぐには、言葉の意味を理解できなかった。


 記憶をなくした?


 サラも、コウタも?


「そんな……」


 私は周囲を見回した。どこにも二人はいない。


 足元には、三人でおそろいにしたブレスレットが落ちていた。


 手を伸ばし、拾い上げる。


 楽しかったキャンプ。交わした約束。一緒に笑い合った時間。


 私にとっては、どれも大切な思い出だった。


 なのに、二人はもう覚えていない。


「イヤ、イヤイヤ……二人に忘れられるなんて……!」


 ブレスレットを握りしめ、私は泣き崩れた。


「人間の記憶を操るなんて簡単なことだ」


 魔物の声が頭上から降ってくる。


 全ては、魔物に弄ばれていたの……。


 両親を殺したこいつを倒せば、すべてが終わると思っていた。呪いも解けて、サラとコウタも元に戻る。そう信じていたのに。


「もう、何もかも終わりだ……」


 力が抜け、その場に崩れ落ちる。


 魔物は私を見下ろし、告げた。


「お前と俺は、呪いで繋がっている。俺を殺したら、お前も死ぬ」


「……え?」


 言葉の意味が理解できず、私は顔を上げた。


 呪いで、繋がっている?


 だから、私はこいつの居場所を突き止められたのだろうか。


 両親の仇を討つことさえ、許されない。


 こいつを倒せば、私も死ぬ。けれど、倒さなければ、サラとコウタが私を思い出すことはないのかもしれない。


 どちらを選んでも、救いはなかった。


 魔物は背を向け、去っていこうとする。


「待って……!」


 私は声を振り絞って呼び止めた。


「あなたが思い出したら救われる」


 そう言い残し、魔物は森の奥へと消えていった。


 思い出す?


 いったい、何を?


 どうすれば、私たちは救われるの?


 答えはどこにもなかった。


 それから、私は何日森を彷徨っただろう。


 生きる気力を失い、ぼろぼろになった私は、ようやく町へ帰り着いた。


 町には、いつもと変わらない景色が広がっていた。


 人々が行き交い、誰かの笑い声が聞こえる。


 その中に、サラとコウタの姿があった。


 二人は手を繋いで歩いていた。


 私は思わず足を止めた。


 もしかしたら、二人は私を思い出してくれるかもしれない。


 そんな期待が、ほんの少しだけ胸をよぎった。


 けれど、二人は私を見ると、不審そうに顔を見合わせた。


「近寄らない方がいいよ。何かヤバそうだよ」


「そうだな。行こうか、サラ」


 二人は私の知らない人を見るような目を向け、そのまま手を繋いで去っていった。


 私は、その場に立ち尽くした。


 もう、私を覚えている人はいない。


 両親もいない。サラも、コウタもいない。


 帰ってきたはずなのに、私の居場所はどこにもなかった。


「あっははは……」


 涙が頬を伝う。


 それでも、私は笑った。


 救いのない世界で、私は笑い続けた。

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