第61話「届かない強さ」
――ドンッ!!
「ぐっ……!」
サクヤの身体が地面を転がる。
何度目かなんて、もう分からない。
立ち上がる。
構える。
そして――また倒される。
「……はぁ……はぁ……」
息が荒い。
身体は重い。
それでも、目だけは死んでいなかった。
「もう一度」
ガルドは何も言わない。
ただ、構える。
「来い」
サクヤが踏み込む。
拳を振る。
ガルドが避ける。
蹴り。
避けられる。
続けて拳。
――空を切る。
「……!」
ガルドの拳が迫る。
サクヤは反射的に身体を捻った。
――ヒュッ。
拳が頬を掠める。
「……!」
いつもなら、当たっていた。
だが――
今回は違った。
サクヤは、拳が来るより少し前に動いていた。
「……今の」
サクヤ自身が驚く。
ガルドも僅かに目を細めた。
「……ほう」
『やっとか』
胸の奥からノクスの声。
『遅ぇけどな』
「……」
サクヤはガルドを見る。
さっきの動きを思い返す。
拳そのものを見ていたわけじゃない。
肩。
重心。
空気の揺れ。
ほんの僅かな変化。
それが――
「……分かった」
小さく呟く。
「攻撃を見てから避けるんじゃない」
サクヤが構える。
「その前を見る……」
ガルドが僅かに笑う。
「そうだ」
短い言葉。
それだけだった。
『やっと一つ拾ったな』
「……まだ一つだ」
『分かってんじゃねぇか』
「うるせぇ」
サクヤは再び構える。
「もう一回」
ガルドが頷く。
次の瞬間――
踏み込む。
拳が迫る。
サクヤは、今度もほんの僅かに身体をずらした。
――ヒュッ。
避けた。
だが――
その直後。
ガルドの足がサクヤの腹へ入る。
「ぐっ……!」
――ドンッ!!
また吹き飛ぶ。
地面に転がる。
『くくっ』
「……笑うな」
『一個分かっただけで、勝てると思ったか?』
「……思ってねぇよ」
サクヤは立ち上がる。
痛みを堪えながら、拳を握る。
「でも――」
ガルドを見る。
「さっきよりは、見える」
ガルドは静かに頷いた。
「それでいい」
まだ勝てない。
まだ遠い。
それでも――
初めて。
サクヤは、ガルドとの距離をほんの僅かに縮めた。
* * *
同じ頃。
レオもまた、大剣を握っていた。
何度倒されても立ち上がる。
「……まだだ!」
バルガスが笑う。
「いい目になってきたな」
* * *
レイは刀を構える。
「……考えるな」
シオンの言葉を思い出す。
次の瞬間。
身体が僅かに先に動いた。
「……!」
シオンの木刀が空を切る。
「今のだ」
* * *
雪は目を閉じる。
無数の魔力の中。
一つだけを選ぶ。
「……そこ」
セレナが頷く。
「少しずつね」
* * *
四人とも。
まだまだ未熟だった。
けれど――
確実に。
何かを掴み始めていた。
サクヤは拳を握る。
「……もっとだ」
ノクスが胸の奥で笑う。
『そうこなくちゃな』
森に、再び拳の音が響いた。




