第59話「届かない強さ」
――サクヤが森へ向かってから、しばらく。
同じ頃。
レオ、レイ、雪もまた、それぞれの師匠のもとで修行を続けていた。
だが――
その修行は、三人が想像していたものより遥かに厳しかった。
* * *
「――遅い!!」
――ドンッ!!
レオの身体が吹き飛ぶ。
「ぐっ……!」
地面を転がりながら、レオは大剣を支えに立ち上がった。
目の前にいるのは、バルガス。
「もう一度だ」
「……何回やらせんだよ」
「お前が一度も届いていないからだ」
「……!」
レオは歯を食いしばる。
学園では負けたことなんて、ほとんどなかった。
大剣を振れば相手は退く。
直感で動けば、敵の攻撃をかわして反撃できる。
それが自分の強さだと思っていた。
だが――
「……行くぞ!!」
レオが踏み込む。
大剣を横薙ぎに振る。
バルガスは避ける。
続けて二撃目。
それも避ける。
「そこだ!」
三撃目。
――ガキィン!!
大剣同士がぶつかる。
レオが力を込める。
「うおおおおっ!!」
だが――
バルガスの大剣が僅かに動く。
レオの身体が押し返される。
「……くそっ!」
「力は十分だ」
バルガスが言う。
「だが、お前の攻撃には始まりがある」
「……?」
「その瞬間を読めばいい」
レオは黙った。
自分の攻撃が、見抜かれている。
「……もう一回だ」
* * *
レイもまた、苦戦していた。
――キンッ!
刀が弾かれる。
レイは距離を取る。
「……」
シオンを観察する。
呼吸。
足の位置。
視線。
肩の動き。
どこから来る。
どう動く。
分析する。
「――そこだ」
レイが踏み込む。
しかし――
木刀が、すでに目の前にあった。
「……!」
――ドンッ!
胸を打たれる。
レイは後退する。
「また考えたな」
「……」
「お前は考えることで強くなった」
シオンが静かに言う。
「だが、それが今のお前の限界でもある」
レイは黙る。
「相手を分析している間に――」
シオンが構える。
「相手はもう次へ進んでいる」
レイの目が細くなる。
「……なら」
刀を構える。
「考えなければいい」
「それも違う」
「……」
「捨てるんじゃない」
シオンが一歩踏み込む。
「超えろ」
レイはその言葉を噛み締める。
そして――
「……もう一度」
* * *
雪は、さらに厳しい修行を受けていた。
「――集中して」
セレナの声。
「……っ」
雪は目を閉じている。
周囲には大量の魔力が漂っていた。
木。
土。
風。
生き物。
そして――
セレナが意図的に放った魔力。
「……多すぎる」
雪の額に汗が浮かぶ。
「だから言ったでしょう」
セレナは淡々と言う。
「全部感じようとしないで」
「……分かってます」
「分かっているなら、選びなさい」
雪は集中する。
だが――
「……!」
魔力が一気に膨れ上がる。
無数の気配が重なる。
「分からない……!」
雪が目を開く。
セレナは何も言わない。
雪は悔しそうに拳を握る。
「……私、感知が得意なはずなのに」
「得意だから苦しんでいるのよ」
「……」
「感じ取れるものが多い人ほど、必要なものを選ぶのが難しい」
雪は再び目を閉じる。
「……もう一度」
「ええ」
* * *
夕方。
三人はそれぞれの場所で、何度も倒されていた。
レオは何度振っても届かない。
レイは何度読んでも先を取られる。
雪は何度感じても必要なものを絞れない。
三人とも――
自分の得意分野で壁にぶつかっていた。
それでも。
誰一人、諦めなかった。
レオは大剣を握る。
「……俺は、まだ強くなれる」
レイは刀を構える。
「……この程度で止まるつもりはない」
雪は目を閉じる。
「……サクヤに追いつく」
それぞれの場所。
それぞれの修行。
そして――
それぞれの壁。
三人はまだ知らない。
この厳しい修行が。
自分たちの強さを、さらに一段上へ引き上げることを。
今はただ。
届かない。
だからこそ――
三人は、また立ち上がった。




