第58話「それぞれの道」
――サクヤが森へ向かってから、しばらく。
同じ頃。
レオ、レイ、雪もまた、それぞれの場所で修行を続けていた。
* * *
「――遅ぇ!!」
――ズドンッ!!
大剣が地面を叩く。
土が大きく跳ねる。
「……っ!」
レオはすぐに大剣を引き戻す。
だが、その瞬間。
――ドンッ!!
腹に衝撃が入った。
「ぐっ……!」
身体が後ろへ吹き飛ぶ。
地面を転がり、レオは何とか立ち上がる。
「……くそ」
目の前にいるのは、師匠――バルガス。
巨大な身体。
その手には、レオと同じ大剣。
「力はある」
バルガスが言う。
「だが、お前は敵を見てから動いている」
「……それが普通だろ」
「違う」
バルガスが大剣を構える。
「前線に立つなら、敵が動く前に動け」
「……!」
次の瞬間。
バルガスが消えた。
「な――」
レオが反応するより早く――
――ドンッ!!
また吹き飛ばされる。
「……っ!」
悔しさに歯を食いしばる。
それでも、レオは立ち上がった。
「もう一回だ」
大剣を構える。
バルガスは僅かに笑った。
「そうこなくてはな」
* * *
その頃。
レイもまた、刀を構えていた。
向かいに立つのはシオン。
老人とは思えないほど、隙がない。
「来い」
短い言葉。
レイが踏み込む。
刀を振る。
――キンッ!
受けられる。
次。
――キンッ!
また受けられる。
レイは相手を見る。
肩。
足。
呼吸。
視線。
動きを読む。
次の瞬間――
レイが踏み込む。
だが。
刀が届く前に、シオンの木刀がレイの肩へ触れた。
「……」
レイは止まる。
「また考えたな」
シオンが言う。
「……読んだつもりだった」
「そうだろうな」
「だが、間に合わない」
「その通りだ」
レイは刀を下ろす。
「……なら、どうする?」
「考えるな」
「……?」
「一瞬だけでいい」
シオンが構える。
「感じろ」
レイは黙る。
そして再び刀を構えた。
今度は――
考えない。
ただ、相手を見る。
* * *
そして雪。
静かな森。
雪は目を閉じていた。
「……」
周囲の魔力。
木々。
風。
地面。
生き物。
あまりにも多くのものが感じられる。
「……多すぎる」
雪が目を開く。
セレナが少し離れた場所に立っている。
「だから全部感じようとしなくていいの」
「……でも、感じ取れるなら」
「それが落とし穴」
セレナが言う。
「あなたは感知能力が高い」
「だからこそ、必要なものだけを選ぶの」
雪は再び目を閉じる。
「……一つだけ」
「そう」
「必要なものだけ」
集中する。
魔力の波。
風。
木々。
その中から――
ほんの僅かな違和感。
「……」
雪の眉が動く。
「……そこ」
目を開く。
セレナが笑った。
「見つけたわね」
「……今までより、はっきりしました」
「それが成長よ」
雪は自分の手を見る。
「……もう少し」
「ええ」
セレナが頷く。
「まだ始まったばかりよ」
* * *
三人。
三つの場所。
三つの修行。
レオは力の先へ。
レイは分析の先へ。
雪は感知の先へ。
まだ誰も、完成には程遠い。
それでも――
確実に前へ進んでいた。
レオが大剣を握り直す。
「……サクヤ」
レイも刀を構える。
「次に会う時までに」
雪は静かに目を閉じる。
「……私たちも強くなる」
三人の想いは同じだった。
追いつく。
ただ、それだけ。
そして――
それぞれの場所で。
新たな一歩が始まった。




