第57話「頼る相手」
森の中。
サクヤは歪みを見つめていた。
何度目か分からない。
観測する。
線を探す。
触れようとする。
――消える。
「……またか」
拳を握る。
成果は出ている。
以前より歪みは鮮明に見える。
黒い線も見えるようになった。
それでも――
壊せない。
『くくっ』
胸の奥から笑い声。
「……」
『まだ分かんねぇのか?』
「……」
『随分と長いことやってんな』
「……うるせぇ」
『ガルドの言うことは真面目に聞くのに、俺の言うことは聞かねぇんだな』
「お前を信用する理由がねぇ」
『正解』
即答。
サクヤが眉をひそめる。
『俺だって、お前を信用してねぇしな』
「……」
しばらく沈黙。
サクヤは歪みを見る。
そして――
「……なぁ」
『ん?』
言葉が止まる。
「……お前」
サクヤは目を逸らさない。
「これ……分かるのか?」
『何が?』
「歪みのことだよ」
『さぁな』
「……」
サクヤは拳を握る。
言いたくない。
こんな奴に頼りたくない。
それでも――
「……お前なら、どうする」
少しの沈黙。
ノクスが笑う。
『俺に聞くのか?』
「……」
『あれだけ嫌ってたのによ』
「……今回だけだ」
『へぇ』
ノクスは楽しそうに笑う。
『じゃあ教えてやるよ』
サクヤが僅かに顔を上げる。
『――自分で考えろ』
「……は?」
『俺が知るかよ』
「……」
『そもそも俺は観測者じゃねぇ』
「……クソが」
『くくっ』
サクヤは顔をしかめる。
「……無理か」
『何が?』
「お前に頼るの」
『最初からそう言ってんだろ』
「……」
サクヤは歪みに向き直る。
結局。
自分でやるしかない。
だが――
『一つだけ言っとく』
「……何だよ」
『お前、見えてるものばっか追ってる』
「……」
『たまには、見えてねぇ方を見ろ』
「……は?」
それだけ言って、ノクスは黙った。
「……」
サクヤは歪みを見る。
見えているもの。
見えていないもの。
その言葉を頭の中で繰り返す。
だが、まだ意味は分からない。
「……やっぱ分かんねぇ」
サクヤは小さく呟く。
そして――
再び歪みに向き直った。
頼っても無駄だった。
だからこそ。
自分で掴むしかない。
その背後で。
ガルドは黙ってサクヤを見ていた。
何も言わない。
ただ――
僅かに口元を緩めていた。




