第54話「それぞれの師」
放課後。
レオは大剣を構えていた。
目の前に立つ男は、腕を組んだまま動かない。
「……もう一度だ」
男が言う。
レオは踏み込む。
「おおおおっ!!」
――ズドンッ!!
大剣が振り下ろされる。
だが。
男は僅かに身体をずらしただけだった。
「遅い」
「……!」
「力はある」
男はレオの大剣を見る。
「だが、お前は力に頼りすぎている」
レオは歯を食いしばる。
「……まだだ」
「その意気だ」
男が初めて笑った。
「俺はバルガスだ」
「バルガス……」
「覚えておけ」
男は大剣を構える。
「これから嫌というほど聞く名前になる」
レオがニヤリと笑う。
「望むところだ」
* * *
その頃。
レイは刀を構えていた。
向かいに立つ老人は、静かにレイを見ている。
「来い」
「……」
レイが踏み込む。
刀が閃く。
――キンッ!
老人の木刀が、それを受け止めた。
レイはすぐに距離を取る。
次の動き。
相手の肩。
足。
呼吸。
視線。
すべてを見る。
「……そこだ」
再び踏み込む。
だが――
木刀が、レイの喉元で止まった。
「……」
「また考えたな」
老人が言う。
「相手の動きを読むことは悪くない」
「だが――」
木刀が下がる。
「読み終わってから動いていては遅い」
レイは黙って自分の刀を見る。
「……難しいな」
「だから面白い」
老人は僅かに笑った。
「俺はシオンだ」
「シオン……」
「覚えておけ」
レイは静かに頷く。
「よろしく頼む」
* * *
そして――
雪。
静かな森の中で、雪は目を閉じていた。
「……」
周囲の音を聞く。
風。
木々。
鳥の声。
魔力。
その全てを感じ取ろうとする。
「まだ雑ね」
背後から声。
雪が目を開く。
「……先生」
「まだ先生じゃないわ」
女性が小さく笑う。
「私はセレナ」
雪を見る。
「あなたがこれから学ぶ相手よ」
「……セレナさん」
「雪」
「はい」
「あなたには、普通の魔法使いとは違うものがある」
雪の表情が少し変わる。
「……私に?」
「ええ」
セレナが雪の目を見る。
「あなたは、見えないものを感じる」
「……少しだけです」
「それでいい」
セレナは微笑む。
「少し見えるからこそ、その先が気になるんでしょう?」
「……」
雪は答えなかった。
けれど、その言葉は胸に残った。
「もっと知りたいです」
セレナが頷く。
「なら、目を閉じなさい」
雪は再び目を閉じる。
「今度は、魔力を探すんじゃない」
「……?」
「向こうから来るものを感じなさい」
雪は集中する。
――風が吹いた。
木々が揺れる。
その奥。
ほんの僅かに――
「……いた」
雪が目を開く。
セレナが笑った。
「そう。それでいい」
* * *
三人。
それぞれ違う場所。
それぞれ違う師。
それぞれ違う修行。
レオは、大剣を握る。
「もっとだ!」
バルガスへ向かって踏み込む。
レイは、刀を構える。
「次は読ませない」
シオンが静かに笑う。
雪は目を閉じる。
「……感じる」
セレナが見守る。
そして――
三人はまだ知らない。
遠く離れた森で。
サクヤもまた、別の男のもとで修行を始めていることを。
四人はそれぞれの場所で。
それぞれの壁に挑んでいた。
いつか再び――
四人で並んで立つ、その日まで。




