第52話「三人の導き」
サクヤが森へ向かってから、数日。
放課後。
三人は、いつもの場所に集まっていた。
だが――
いつもとは違う。
「……静かだな」
レオが呟く。
隣にサクヤはいない。
いつもなら何かしら言い合いになっている時間だった。
「慣れるまで時間がかかりそうだ」
レイが静かに言う。
雪は何も言わず、空を見上げていた。
「……でも」
雪が小さく呟く。
「私たちも、止まってるわけにはいかないよね」
「ああ」
レオが大剣を背負い直す。
「サクヤが一人で修行してんだ」
「俺たちだってやる」
レイも頷く。
「今の自分たちで満足しているわけにはいかない」
三人は、それぞれの武器と力を見つめる。
最強。
そう呼ばれてきた。
けれど――
サクヤが、自分たちの知らない場所へ進もうとしている。
なら。
追いつく。
そのために、三人も動く。
* * *
「まずは俺からだ!」
レオが大剣を振り抜く。
――ズドンッ!!
地面が揺れる。
目の前の木が大きく削れる。
「……悪くない」
レオが息を吐く。
「でも、まだだ」
もう一度、大剣を構える。
その時。
「――振りが大きすぎる」
「……!」
知らない声。
レオが振り返る。
そこには、一人の男が立っていた。
年齢は分からない。
長いコート。
そして――
巨大な剣を背負っている。
「誰だ、あんた」
「お前より強い奴だ」
「……は?」
レオの眉が動く。
男は地面を見る。
「今の一撃」
「威力はある」
男がレオを見る。
「だが、次の一撃が遅い」
「……」
「前線でそれは致命的だ」
レオは大剣を見る。
「だったら?」
「直せ」
男はそれだけ言った。
レオが笑う。
「……面白ぇ」
大剣を握り直す。
「教えてくれよ」
男は僅かに口元を上げた。
「その意気だ」
* * *
同じ頃。
レイは一人、刀を振っていた。
一振り。
止まる。
次の一振り。
また止まる。
無駄がない。
それでも――
「……遅い」
「……!」
レイが振り返る。
そこには、一人の老人が立っていた。
「今の動き」
老人はレイを見る。
「相手を見すぎている」
「……どういう意味だ?」
「お前は分析する」
老人が歩く。
「相手の動き。
呼吸。
視線。
筋肉の動き。
すべてを見る」
レイは黙って聞く。
「だが――」
老人が突然、石を投げる。
レイは反射的に刀を抜く。
――キンッ!
石が弾かれる。
「今のは?」
「考える前に動いたな」
「……」
「それがお前に足りない」
レイは目を細める。
「……直感か」
「違う」
老人が笑う。
「分析の先だ」
レイは刀を見つめる。
「……興味深い」
* * *
そして――
雪。
彼女は一人で魔法の練習をしていた。
小さな魔法陣が浮かぶ。
だが。
「……違う」
雪が魔法を消す。
「また……」
少しだけ眉をひそめる。
その時。
「魔力を使いすぎてる」
「……え?」
雪が振り返る。
そこには、一人の女性が立っていた。
白い髪。
静かな雰囲気。
雪は警戒する。
「誰……?」
「あなた、魔力を感じることより、魔力を動かすことを優先してる」
「……」
「だから見えているものを見落としてる」
雪の表情が変わる。
「……私が、見落としてる?」
「そう」
女性は雪の目を見る。
「あなたは、他の人には見えないものを感じ取れる」
「……!」
「だったら、もっと耳を澄ませなさい」
雪は黙る。
周囲を見る。
風。
木々。
空気。
魔力。
そして――
「……何かいる」
女性が微笑む。
「やっと気づいた」
雪は振り返る。
だが、そこには何もいない。
「……どこ?」
「もう消えた」
「……」
雪は少し悔しそうに唇を噛む。
「……もっと知りたい」
「なら、来なさい」
女性が背を向ける。
「あなたには、まだ見えていないものが多すぎる」
雪はその背中を見る。
そして――
「……分かった」
歩き出した。
* * *
夕方。
三人は、それぞれ違う場所にいた。
それぞれ違う人物と向き合っている。
レオは大剣を握る。
レイは刀を構える。
雪は目を閉じる。
誰も知らない。
サクヤが森で修行していることも。
三人の前に現れた者たちが、何者なのかも。
ただ一つだけ。
三人の目的は同じだった。
「……サクヤ」
レオが笑う。
「待ってろよ」
レイは静かに目を閉じる。
「次に会う時は――」
雪も小さく笑う。
「私たちも、今のままじゃないから」
それぞれの場所で。
三人の修行が始まった。




