第51話「導く者」
――ドンッ!!
「……クソッ!」
また壊れない。
サクヤは荒い息を吐く。
「なんでだ……!」
焦りが出ていた。
早く強くならなければ。
レオたちに追いつかれる。
いや――違う。
置いていかれる。
そんな焦りが、知らず知らずのうちに動きを鈍らせていた。
もう一度、拳を構える。
『……焦ってんな』
「うるせぇ」
黒の欠片の声すら、今は鬱陶しい。
「俺は……もっと……!」
「――そんなに焦って、何を壊したい?」
「……!」
知らない声。
サクヤの動きが止まる。
森の奥。
いつからそこにいたのか。
一人の男が立っていた。
木にもたれながら、こちらを見ている。
敵意はない。
だが――隙もない。
「……誰だ、お前」
サクヤが構える。
男は答えない。
ただ、歪みを見る。
「なるほど」
そして、小さく笑った。
「それじゃあ壊せないな」
「……何?」
「お前は、歪みを見ている」
男の視線がサクヤへ向く。
「だが――理解しようとしていない」
サクヤの表情が固まる。
「……」
「力が足りないんじゃない」
一歩。
男が歩み寄る。
「お前には、順番が足りない」
サクヤは拳を握る。
「……だったら」
男を睨む。
「教えろよ」
男が初めて、少しだけ笑った。
「その目だ」
そして――
「まずは、その焦りから捨てろ」
森に風が吹く。
サクヤは男を睨み続ける。
胸の奥で。
黒の欠片が――
『……面白ぇのが来たな』
小さく笑った。
――修行は、ここから本当の意味で始まる。




