第47話「残ったもの」
放課後。
校舎を出たサクヤたちは、いつもの帰り道を歩いていた。
夕暮れの空。
人の声。
車の音。
昨日までなら、何も気に留めなかった日常。
けれど――
「……静かすぎねぇか?」
レオが足を止めた。
「そうか?」
レイが周囲を見渡す。
「……いや」
レイの表情が変わる。
「確かに妙だな」
人通りがある。
車も走っている。
なのに。
どこか音が遠い。
まるで、この場所だけ世界から切り離されているようだった。
雪が目を細める。
「……また歪み?」
「分からねぇ」
サクヤは答えながら、周囲を見る。
歪みは見えない。
だが――
胸の奥が、微かに熱い。
ドクン。
「……っ」
足が止まる。
「サクヤ?」
雪が振り返る。
「なんでもねぇ」
そう言った瞬間。
――ドクン。
今度は、はっきりと鳴った。
サクヤの影が揺れる。
「……!」
レイが刀に手をかける。
「構えろ」
短い声。
レオも大剣に手を伸ばす。
「また来やがったか」
雪も周囲に意識を向ける。
「……違う」
小さく呟いた。
「外じゃない」
サクヤが眉をひそめる。
「……またかよ」
胸の奥。
何かが動いている。
『……くく』
黒の欠片。
楽しそうな笑い声だけが響く。
(何がおかしい)
『別に』
(なら笑うな)
『残ってるぜ』
「……何が」
サクヤが思わず口に出す。
「え?」
レオが振り返る。
「いや……なんでもねぇ」
その直後。
サクヤの右手が、僅かに震えた。
黒い線が、手首から一瞬だけ浮かび上がる。
「……!」
サクヤはすぐに手を握り込む。
消える。
だが――
雪は見逃さなかった。
「サクヤ」
「……なんだよ」
「あんたの手……今」
「何もねぇ」
即答。
雪は黙る。
それ以上は追及しなかった。
だが、レイはサクヤの表情を見ていた。
「……何か残ってるんだな」
サクヤは答えない。
レオが大剣から手を離す。
「昨日の黒いヤツか?」
「……たぶんな」
サクヤは拳を見る。
自分の手。
自分の身体。
それなのに――
完全に自分だけのものではない。
『いいじゃねぇか』
黒が笑う。
『少しずつ分かってきたな』
(……何がだよ)
『俺たちはもう――』
一瞬。
声が途切れる。
『……いや』
黒はそれ以上言わなかった。
「おい」
サクヤが眉をひそめる。
(途中でやめんな)
『そのうち分かる』
くくっと笑う。
そして――
胸の奥の気配が薄れる。
「……チッ」
「何か言った?」
雪が聞く。
「独り言だ」
サクヤは歩き出す。
その後ろを、三人が続く。
だが。
誰も気づいていなかった。
サクヤの影が――
一瞬だけ。
四人分に伸びたことを。
夕暮れの道に、長く伸びる影。
その中で。
黒い影だけが、僅かに笑った。
――まだ、終わっていない。
それは敵の気配なのか。
それとも――
サクヤ自身の中で始まった、何かの変化なのか。
誰にも、まだ分からなかった。




