第43話「壊し方」
空気が張り詰める。
歪みが、揺れている。
さっきよりも数が多い。
そして、速い。
「チッ……」
レオが歯を食いしばる。
「キリがねぇぞこれ!」
実際、その通りだった。
壊しても戻る。
戻って、また増える。
終わらない。
サクヤは動かない。
目だけが、歪みを捉えている。
(……壊してる)
自分の拳を見る。
(でも、壊しきれてねぇ)
頭の奥で声がする。
『またその程度かよ』
「……黙ってろ」
小さく吐き捨てる。
「は?」
レオが怪訝な顔をする。
だが、構わない。
視線は逸らさない。
歪みを、見る。
よく見る。
ただの塊じゃない。
揺れている。
流れている。
細い“線”のようなものが、内部を走っている。
繋がっている。
(……あれか)
思い出す。
壊したはずなのに戻った理由。
あれが残ってるからだ。
『全部壊せば終わるだろ』
黒の声。
確かに、それが一番早い。
全部消せば、繋がるものもない。
終わる。
でも――
「……それじゃ意味ねぇだろ」
低く言う。
視線を上げる。
歪みが迫る。
逃げない。
「サクヤ!!」
レイの声。
「来るぞ!」
分かってる。
サクヤは踏み込んだ。
一直線。
拳を振りかぶる。
だが――止める。
一瞬。
ほんの一瞬だけ。
歪みの奥を見る。
流れ。
繋がり。
中心。
「……そこだ」
拳が、動く。
振り抜かない。
“叩き込む”。
一点に。
ピシッ、と音がした。
何かが割れる。
歪みの内部。
線が、断ち切れる。
次の瞬間。
歪みが崩れた。
さっきまでと違う。
戻らない。
そのまま、静かに消える。
「……は?」
レオが目を見開く。
「今の……」
レイも言葉を失う。
サクヤは手を引いた。
息が荒い。
だが、確信がある。
「……そういうことかよ」
低く呟く。
残っている歪みを見る。
まだいる。
でも。
やることは同じだ。
『中途半端なんだよ』
黒が笑う。
『全部壊せば楽だろ?』
「楽な方なんか選ばねぇよ」
即答だった。
「必要なとこだけでいい」
拳を握る。
「全部壊す必要はねぇ」
その瞬間。
空気が震えた。
残っていた歪みが、一斉に反応する。
ざわり、と。
まるで警戒するように。
「おい……」
レオが一歩引く。
「なんか、今のマズくねぇか?」
「……認識されたな」
レイが低く言う。
雪は静かに頷いた。
「壊し方が変わったから」
短い説明。
でも十分だった。
サクヤは前を見る。
歪みが、こちらを“見ている”。
さっきとは違う。
敵として、認識された。
「上等だ」
口元がわずかに歪む。
「やることは変わんねぇ」
一歩、踏み出す。
「全部ぶっ壊すんじゃねぇ」
構える。
「“繋がってるとこだけ”潰す」
歪みが動く。
今度は速い。
だが――見える。
流れが。
中心が。
サクヤは迷わない。
一直線に踏み込む。
拳が、閃く。
――ピシッ
一つ。
――バキッ
二つ。
確実に、壊れる。
戻らない。
「マジかよ……」
レオが呟く。
「やっと終わりが見えたな!」
レイが声を上げる。
だが。
雪だけが、目を細めていた。
「……まだ」
小さく言う。
その瞬間。
空気が、沈んだ。
全ての歪みが、止まる。
ぴたりと。
動かない。
「……なんだ?」
レオが警戒する。
次の瞬間。
歪みが――
収束する。
一点に。
集まっていく。
「おい、嘘だろ……」
レイの声が震える。
圧が増す。
密度が上がる。
さっきまでとは別物。
明らかに“強い”。
そして。
形を成す。
人のような輪郭。
だが歪んでいる。
「……チッ」
サクヤが舌打ちする。
「進化しやがったか」
拳を握る。
壊し方は分かった。
だが。
(通じるか……?)
黒の声が、また囁く。
『だから言っただろ』
『全部壊せってな』
サクヤは目を細める。
「……うるせぇよ」
一歩、前へ。
逃げない。
「まだ試してねぇだけだ」
構える。
新しい敵。
新しい段階。
それでも。
「壊せるもんは、壊す」
その一言だけで、十分だった。
戦いは、次の段階へ。




