第30話「崩壊」
——黒が、脈打つ。
一度、止まったはずのそれが。
「……なんだ……これ……」
レオの声が、震える。
空気が変わった。
重いとか、強いとか、そういう次元じゃない。
——“異質”。
「……下がれ」
レイの声。
低く、鋭い。
だが。
その判断よりも早く——
「——遅い」
黒が、弾けた。
視界が、消える。
衝撃。
「がっ……!?」
レイの体が吹き飛ぶ。
受けたはずのない一撃。
それでも、骨の奥まで砕かれるような圧。
「レイ!!」
リンが叫ぶ。
だが次の瞬間。
「——っ!!」
目の前に、“いる”。
動きが見えない。
存在だけが、突然現れる。
「さっきまでは遊びだったが」
“サクヤ”が、言う。
声が、重なる。
二つ。
いや——
もっと。
「ここからは違う」
黒が、身体から溢れ出す。
地面が、軋む。
空間が、歪む。
「……ふざけんな」
レオが、立つ。
もう、まともに立てていない。
それでも。
剣を、構える。
「まだ……終わってねぇだろ」
足が震える。
視界も霞む。
だが。
前を見る。
「……いいな」
“それ”が、笑う。
その笑みは——
もう、人じゃない。
一歩。
踏み出しただけで。
「ぐっ……!!」
レオの体が、地面に叩きつけられる。
見えない圧。
押し潰される。
「……が……ぁ……!」
呼吸ができない。
骨が軋む。
それでも。
手を、離さない。
「レオやめて!!」
リンが駆ける。
だが。
「来るな!!」
叫び。
血と一緒に吐き出される。
「来たら……死ぬ……!」
それは、事実だった。
今の“あれ”に触れたら——終わる。
「……判断は正しい」
レイが、膝をつきながら立つ。
刀を支えに。
血が流れている。
それでも。
目は死んでいない。
「だが——」
視線を上げる。
「それでも止める」
踏み込む。
限界を超えた動き。
「——斬る」
一閃。
今までで、最速。
最も研ぎ澄まされた斬撃。
だが。
「軽い」
止められる。
指先で。
「っ……!!」
レイの目が見開く。
そのまま——
「邪魔だ」
振り払われる。
「——がはっ!!」
血が、舞う。
レイの体が、地面を転がる。
完全に、崩れた。
「……あ……」
リンの声が、震える。
足が、動かない。
目の前で——
二人が、倒れた。
「……残りは、お前か」
ゆっくりと。
“サクヤ”が、近づく。
逃げられない。
足がすくむ。
それでも。
「……やだ……」
声が、漏れる。
涙が、こぼれる。
「こんなの……やだよ……」
「意味はない」
冷たい声。
手が、伸びる。
その瞬間。
——ピタリと、止まる。
「……チッ」
“それ”が舌打ちする。
頭を押さえる。
「……まだかよ……」
黒が、不安定に揺れる。
——内側。
「……ぐっ……!」
サクヤが、膝をつく。
さっきの一撃。
確かに届いた。
だが。
「まだ……足りねぇか……」
息が荒い。
体が、保たない。
「言っただろ」
“それ”が、歪んだ顔で笑う。
「差があるって」
黒が、膨れ上がる。
「外は終わりだ」
囁く。
「仲間は全員潰れた」
「……っ……」
見える。
倒れたレオ。
動かないレイ。
立ち尽くすリン。
「選べよ」
手を広げる。
「全部俺に任せるか」
一歩、近づく。
「それとも——」
目が、光る。
「全部失うか」
サクヤの拳が、震える。
——外。
リンが、震えている。
目の前で。
全てが、崩れた。
それでも。
「……サクヤ……」
声を、絞り出す。
小さく。
弱く。
それでも。
「……帰ってきてよ……」
黒が、静かに揺れた。




