第29話「交差」
——黒が、軋む。
「……来るぞ!!」
レイの声。
その瞬間——
“サクヤ”が消えた。
「っ!?」
視界から消失。
次に現れたのは——
「ぐっ……!」
レオの目の前。
——ドゴォッ!!
衝撃。
だが。
「……っらぁ!!」
レオは、踏みとどまった。
血を吐きながら、腕を振り抜く。
剣が——
初めて、“黒”を捉える。
「……当たった……!?」
リンが息を呑む。
だが。
浅い。
止まらない。
「——いいな」
“それ”が、笑う。
「その顔」
次の瞬間。
レオの体が、宙を舞う。
「がっ……!」
地面に叩きつけられる。
もう、限界だった。
「レオ!!」
リンが駆け出す。
止める声はない。
止めても止まらない。
「……サクヤ!!」
叫ぶ。
届くかどうかも分からない。
それでも。
「戻ってきてよ!!」
その瞬間——
黒が、揺れた。
——内側。
「……今の、聞こえたか?」
“それ”が眉をひそめる。
サクヤは、顔を上げていた。
「……ああ」
はっきりと。
「聞こえた」
足取りは重い。
それでも、確実に前へ。
「……うるせぇんだよ」
拳を握る。
「俺の外で、勝手に暴れんな」
「は?」
“それ”の表情が歪む。
「ここは俺の中だろ」
一歩。
距離を詰める。
「なら——」
目を、真っ直ぐ向ける。
「主導権は、俺が握る」
——外。
「……反応した」
レイの目が細くなる。
確信。
今、確実に“何か”が変わった。
「リン!」
「……っ!」
「そのまま呼び続けろ!」
短い指示。
だが意味は分かる。
「内側に届いている可能性がある!」
「……分かった!!」
涙を拭う。
そして。
もう一度、叫ぶ。
「サクヤ!!」
「……やらせるかよ」
“サクヤ”の黒が、膨れ上がる。
空間が悲鳴を上げる。
「まとめて潰す」
腕が、振り上がる。
——その瞬間。
「遅ぇんだよ」
レオが、立っていた。
ふらつきながら。
それでも、前に。
「……は?」
「一回当たったんだ」
血を吐きながら、笑う。
「なら——」
剣を、構える。
「次は、通す」
「無茶を……!」
レイが舌打ちする。
だが。
その無茶が、時間を作る。
なら——
「利用するまでだ」
踏み込む。
今度は、同時じゃない。
ズラす。
“隙”を作るための連携。
——内側。
黒が、荒れる。
「調子に乗るな!!」
“それ”が叫ぶ。
空間ごと押し潰そうとする圧力。
だが。
「……効かねぇよ」
サクヤは、立っていた。
さっきよりも、はっきりと。
輪郭が、戻っている。
「外で、あいつらが戦ってる」
拳を握る。
「なら、俺も戦う」
一歩踏み込む。
今度は——
すり抜けない。
「なっ——」
拳が、“それ”を捉える。
——外。
「——今だ!!」
レイの斬撃が走る。
黒が、裂ける。
その一瞬。
「らあああああああ!!!」
レオの一撃が、叩き込まれる。
黒が、砕けた。
「……ぐっ……!」
“サクヤ”の体が、大きく揺れる。
動きが、止まる。
完全にではない。
だが——
確実な“隙”。
「……サクヤ……!」
リンが、手を伸ばす。
あと、少し。
届く距離。
——内側。
“それ”が、後退する。
初めてのことだった。
「……ありえねぇ」
サクヤが、息を吐く。
「ありえなくねぇよ」
まっすぐ見る。
「一人じゃねぇからな」
黒が、さらに大きく揺れた。




