第27話「届かない手」
——地面に、血が落ちた。
ぽたり、と。
「……っ……はぁ……」
レオは膝をついたまま、吐き出す。
赤が、地面を汚す。
腕が、上がらない。
呼吸が、うまくできない。
「……クソ……」
それでも、顔を上げる。
視線の先。
そこにいるのは——
「……サクヤ、かよ……」
もう、原形を保っているだけの“何か”だった。
黒が、まとわりつく。
空間そのものが、歪んでいる。
そして——
「——遅ぇよ」
その声。
聞き慣れているはずなのに、
まるで別人のように冷たい。
「……っ」
レオの奥歯が軋む。
(ふざけんなよ……)
ようやく、間に合ったと思ったのに。
助けに来たはずなのに。
目の前にいるのは——
もう“助けを求める側”じゃない。
「レオ、無理をするな」
後方から、レイの声。
振り返らずとも分かる。
あいつも、限界だ。
呼吸は浅い。
立っているのがやっと。
それでも。
「……無理しねぇと、終わるだろ」
レオは、無理やり立ち上がる。
膝が笑う。
視界が揺れる。
それでも、剣を握る。
「……あれ、見て言ってんのか」
顎で示す。
そこには——
倒れたリン。
そして、その上に立つ“サクヤ”。
「……時間がないな」
レイの声が、僅かに低くなる。
その瞬間。
——ドンッ!!
「がっ……!!」
レオの体が、再び吹き飛ぶ。
何も見えなかった。
ただ、気づいた時には——
地面を転がっていた。
「……っ、速ぇ……!」
血を吐きながら、無理やり起き上がる。
見えなかった。
反応すらできなかった。
「……完全に、別物だ」
レイが呟く。
だが。
「違う」
レオは、吐き捨てる。
「……あれは」
ゆっくりと、剣を構える。
腕は震えている。
今にも折れそうだ。
それでも。
「“奪われてる”んじゃねぇ」
一歩、踏み出す。
「“混ざってる”」
黒が、脈打つ。
サクヤの口元が、歪む。
「……へぇ」
興味を持ったような声。
「分かるのか」
その一言で、確信する。
まだいる。
奥で、潰れかけながらも——
サクヤは、確かに“いる”。
「……だからよ」
レオは、笑う。
血で濡れた口元で。
「ぶん殴ってでも、引きずり出す」
「……合理性に欠けるな」
レイが一歩、前に出る。
刀に、魔力が宿る。
「だが——否定はしない」
視線は、まっすぐ敵へ。
「最悪だが、最適だ」
「レオ」
「ああ」
一瞬の沈黙。
呼吸を合わせる。
限界同士の連携。
それでも——
「止めるぞ」
「殺すなよ」
「保証はしない」
次の瞬間。
二人が同時に踏み込む。
だが——
「——遅ぇよ」
黒が、先に動いた。
空間が、歪む。
視界が、裂ける。
そして——
戦場は、完全に崩壊した。
その中心で。
黒に沈みながら。
押し潰されそうな意識の奥で。
サクヤは——
まだ、抗っていた。




