第19話「主人公が消えた世界」
サクヤが消えてから、三日が経った。
空は変わらず青く、風もいつもと同じように吹いている。
世界は、何も変わっていないように見えた。
——ただ一人を除いて。
「……いない」
小さく、リンは呟いた。
その声は、自分でも驚くほど掠れていた。
目の前には、いつも通りの景色。
だがそこに、“いるはずの存在”だけが抜け落ちている。
それだけで、こんなにも世界は歪むのかと、思い知らされる。
「サクヤ……」
呼んでも、返事はない。
分かっている。
もう、どこにもいないことくらい。
あの日、すべてを壊して——消えたのだから。
リンは強く唇を噛んだ。
血の味が広がる。
それでも、現実は変わらない。
「……なんで」
ぽつりと零れた言葉。
それは問いかけではなく、ただの感情だった。
——あの時。
サクヤの“脈”が、明らかにおかしくなった瞬間。
あれに気づいていたのは、自分だけだった。
最初に力を使った時も。
誰にも言わず、二人だけの秘密にした時も。
全部、自分だけが知っていた。
なのに。
「……止められなかった」
拳を握る。
震えが止まらない。
悔しさか、恐怖か、それとも——
「……違う」
リンは首を振った。
目を閉じ、深く息を吸う。
「まだ、終わってない」
あれが“終わり”なはずがない。
サクヤは、あんな形で消えるようなやつじゃない。
——そう、信じたいだけかもしれない。
それでも。
「探す」
その一言に、迷いはなかった。
その時だった。
——ゾワッ
空気が、揺れた。
いや、“歪んだ”。
「……っ!?」
リンは反射的に振り向く。
何もない空間。
だが確かに、“そこ”に何かがある。
見えない。
触れられない。
だが——
「……いる」
確信だった。
次の瞬間。
——ドクン
心臓が、大きく脈打つ。
違う。
これは、自分の鼓動じゃない。
「……サクヤ?」
呼んだ瞬間。
空間が、わずかに裂けた。
黒。
深淵のような、底の見えない“何か”。
そこから——
ゆっくりと、“手”が伸びてきた。
「……っ!」
リンの身体が硬直する。
逃げるべきか。
それとも——
その手は、迷うように宙を彷徨い。
そして。
まるで、“何かを確かめるように”。
リンの方へ、伸びた。
「サクヤ……なの?」
震える声。
返事はない。
だが、その手は——
確かに、“彼女を認識していた”。
——その瞬間。
世界が、わずかに“軋んだ”。




