【第1話 才能の証明】
「――これより、適性測定を開始する」
重々しい声が、広い訓練場に響いた。
石造りの壁に囲まれた空間。
中央には測定用の魔導具と、武器を試すための広いフィールド。
ここは、“才能”を測る場所だった。
「まずはレオ」
呼ばれた名に、場の空気が少しだけざわめく。
「いけ、レオ!」 「見せてやれよ!」
周囲の声援を背に、レオは大剣を肩に担いで前に出た。
「んじゃ、軽くな」
振り上げられた大剣が、空気を裂く。
次の瞬間――
ドォンッ!!
地面が砕け、衝撃が波のように広がった。
「……は?」
試験官ですら、一瞬言葉を失う。
「威力、規格上限を突破……だと?」
どよめきが広がる。
「さすがレオだな……」 「やっぱり化け物かよ」
誇らしげに笑うレオ。
それは、誰が見ても“才能”だった。
「次、レイ」
静かに前へ出る。
刀を抜く音が、やけに澄んでいた。
――一閃。
何も起きていないように見えた。
だが。
数秒遅れて、標的が音もなく崩れ落ちる。
「斬撃……が遅れて顕現した……?」
試験官の声が震える。
「……美しい」 「次元が違うだろ」
それもまた、“才能”。
「リン」
リンは一歩前へ出ると、小さく詠唱した。
空気が震え、魔力が収束する。
「――フレア」
轟炎が一瞬で標的を飲み込んだ。
爆風と熱が、観客席にまで届く。
「魔力量、異常値……制御も完璧……」
「もう三人でパーティ組めよ……」 「英雄候補じゃん……」
称賛の声が飛び交う。
――そして。
「……次、サクヤ」
空気が、ほんの少しだけ変わった。
期待ではない。
“どうせ”という、諦めに近い視線。
(……分かってる)
サクヤはゆっくりと前に出る。
手にした剣は、軽い。
何度も握った、慣れたはずの重さ。
(今度こそ)
振る。
だが――
「……威力、なし」
乾いた声。
「魔力反応も確認できないな」
「やっぱりか」 「知ってた」
小さな笑いが、あちこちから漏れる。
レオが気まずそうに視線を逸らし、
レイは何も言わず、
リンはどこか申し訳なさそうに目を伏せた。
(……まただ)
胸の奥が、じわりと重くなる。
何度やっても同じ。
何をしても変わらない。
――“何もない”。
「以上で測定を終了する」
その言葉が、やけに遠く聞こえた。
場がざわつく中、サクヤは静かにその場を離れる。
背中に刺さる視線。
憐れみ、失望、無関心。
(……慣れてるはずなのに)
訓練場の外に出る。
人気のない通路。
「はぁ……」
深く息を吐く。
その時だった。
――ズレた。
「……?」
壁が、わずかに歪む。
いや、違う。
“空間そのもの”が、ほんの一瞬だけ歪んだ。
(また、これ……)
あの時と同じ感覚
同じ感覚が、今は少しだけ強くなっている。
無意識に、手を伸ばす。
触れるはずのない“何か”。
指先が、確かにそれを捉えた。
「……っ!?」
ぐにゃり、と。
世界が“曲がる”。
壁の一部が、音もなく内側へと歪んだ。
まるで粘土のように。
「な、に……これ……」
慌てて手を引く。
瞬間。
歪みは元に戻る。
何事もなかったかのように。
だが。
「……今の、絶対……」
心臓が早鐘のように鳴る。
恐怖と――
わずかな、期待。
(もしかして……)
その時、遠くから声が聞こえた。
「サクヤー! どこ行ったー?」
レオの声だ。
「……っ」
サクヤはとっさに手を握りしめる。
この感覚を、隠すように。
――まだ、分からない。
これは何なのか。
だが確かに。
“何もないはずの自分の中に”、何かがある。
それだけは、はっきりしていた。




