「プロローグ:違和感」
――才能が、すべてだった。
剣を振れば大地を裂くレオ。
流れるような太刀筋で敵を圧倒するレイ。
そして、詠唱ひとつで空気すら従わせるリン。
三人は、誰が見ても“特別”だった。
同じ場所で生まれ、同じ時間を過ごしてきたはずなのに。
気づけば、その背中は遠く離れていた。
「すげぇな、レオ……」 「当たり前だろ。俺だぞ?」
豪快に笑うレオの隣で、レイは静かに刀を収める。
リンは小さく息を吐き、魔法の余韻を消した。
――完璧だった。
その輪の中に、自分もいるはずなのに。
「サクヤは……まあ、その……頑張れ」
軽く叩かれた肩。
悪意はない。分かっている。
分かっているからこそ、胸の奥がざらついた。
(……まただ)
剣を握っても、何も起きない。
魔法を試しても、反応すらない。
何度繰り返しても、結果は同じだった。
――“何もない”。
「……はは」
乾いた笑いが漏れる。
置いていかれている。
同じ場所にいるのに、自分だけが違う世界にいるみたいだった。
いつからだろう。
三人の隣に立つのが、少しだけ怖くなったのは。
その時だった。
ふと、視界の端で“何か”が揺れた。
(……?)
空気が、歪む。
ほんの一瞬。
本当に一瞬だけ。
まるで、この世界の“形”そのものが、わずかにズレたような感覚。
「今の……」
誰も気づいていない。
レオも、レイも、リンも。
サクヤだけが、それを見ていた。
そして――
無意識に伸ばした指先が、何もない空間に触れる。
その瞬間。
“世界が、音を立てて軋んだ。”
「……え?」
それは、誰にも理解できない現象だった。
形のない何かが、確かにそこに存在していて。
触れたはずのないものに、触れてしまった感触だけが残る。
だが次の瞬間には、すべて消えていた。
まるで、最初から何もなかったかのように。
「……気のせい、か」
そう呟きながらも、胸の奥に残る違和感は消えない。
――その力は。
あまりにも異質で。
あまりにも規格外で。
“才能”としてすら、誰にも認識されていなかった。
これは、まだ誰も知らない。
“無能”と呼ばれた少年が――
世界そのものを、書き換える存在になることを。




