第15話「見えてはいけないもの」
ドクン。
胸の奥が、脈打つ。
サクヤは一歩、前に出た。
目の前には、無数の“手”。
空間の裂け目から、次々と伸びてくる。
「……来るぞ!」
レイが低く言い、踏み込む。
――シュンッ!
刀が閃く。
最小の動きで、“手”を断ち切る。
だが。
斬ったはずのそれは、形を歪めながら再び伸びる。
「チッ……実体が曖昧か」
「下がって、数が多い!」
リンの声。
直後――
バンッ!!
光が弾ける。
広範囲の魔法が“手”をまとめて吹き飛ばす。
空間ごと焼き払うような一撃。
「一時的には抑えられるけど……!」
リンが歯を食いしばる。
「キリがない!」
「十分だ」
レイが短く返す。
「道は作る」
再び踏み込む。
前を切り開くように、正確に、無駄なく。
――それがレイの戦い方。
そして。
「……」
サクヤは、その後ろを歩いていた。
戦っている。
はずなのに。
どこか、遠い。
目の前の“手”を見ていない。
もっと奥。
その先。
裂け目の、向こう側を。
――見ている。
「サクヤ!ぼーっとすんな!」
レイの声で、わずかに視線が戻る。
だが。
「……違う」
「は?」
「これ……違う」
小さく、呟く。
次の瞬間。
サクヤが、踏み出した。
「おい、待て!」
レイの制止。
だが、止まらない。
一直線に、“裂け目”へ向かう。
「サクヤ!!」
伸びる“手”を、避けるでもなく。
触れる直前――
ズレた。
「――っ!?」
レイの目が見開かれる。
当たるはずの軌道。
なのに、“手”が空を切った。
まるで――
そこにいなかったかのように。
「今の……」
リンの声が震える。
「位置が……ズレた……?」
違う。
そうじゃない。
サクヤが、“世界の方から外れている”。
ドクン。
鼓動が、強くなる。
視界が、歪む。
いや――
“正しくなる”。
「……見える」
ぽつり、と。
サクヤが呟いた。
その目は。
誰も見ていない“奥”を捉えている。
裂け目の先。
そこにある“何か”。
「サクヤ……?」
リンが一歩下がる。
本能が告げていた。
――近づいちゃダメだ。
「これじゃ……」
サクヤが、ゆっくりと手を伸ばす。
“手”ではない。
その奥へ。
「この程度じゃ……足りない」
ドクン。
脈が、加速する。
空気が、変わる。
いや。
変わったのは――サクヤだ。
「やめて……サクヤ」
リンの声。
だが届かない。
「まだ……足りない」
その瞬間。
ビキッ――
空間の裂け目が、さらに広がった。
「なっ……!?」
レイが息を呑む。
明らかに、規模が変わる。
“手”の数が増える。
いや。
それだけじゃない。
裂け目の奥から――
“何か”が、こちらを見た。
「――っ」
リンが息を止める。
本能的な恐怖。
理解してはいけない存在。
「サクヤ、下がれ!!」
レイが叫ぶ。
踏み込もうとする。
だが。
間に合わない。
サクヤはすでに――
一歩、踏み出していた。
その“向こう側”へ。




