第14話「外側の異変」
――重い音が、響いた。
ドゴォン!!
大剣が地面を叩き、衝撃が広がる。
「……こんなもんか」
レオは肩で息をしながら、大剣を担ぎ直した。
外周訓練場。
誰もいない広い空間で、ただひたすら剣を振るう。
それが日課だった。
「やっぱ一人だとつまんねぇな……」
ぼやいた、その時。
ピタリ、と動きが止まる。
「……なんだ今の」
違和感。
音じゃない。
気配でもない。
もっと“奥”に触れるような何か。
胸の奥が、わずかにざわついた。
「……気のせい、か?」
再び剣を振り上げる。
だが――
振り下ろす直前。
視界の端が、歪んだ。
「……は?」
あり得ない光景だった。
何もないはずの空間が、ぐにゃりと曲がる。
そして。
ぬるり、と。
黒い“手”が、そこから伸びてきた。
「……なんだそれ」
一歩下がる。
直感が告げていた。
――ヤバい。
ただの魔物じゃない。
その瞬間。
ビュンッ!!
“手”が伸びる。
槍のように鋭く変形し、レオの首元を狙う。
「チッ!」
反射で動く。
ガキンッ!!
大剣で弾く。
重い。
ただの質量じゃない、“抵抗”がある。
「……気持ち悪ぃな」
吐き捨てる。
だが、それで終わらない。
もう一本。
さらにもう一本。
空間が裂けるように歪み、“手”が増えていく。
「増えるのかよ……!」
数が多い。
だが――
レオは笑った。
「上等だ」
大剣を構える。
「まとめて来い」
一歩踏み込む。
そして。
――振り抜いた。
ドゴォン!!
衝撃が爆ぜる。
複数の“手”がまとめて吹き飛ぶ。
だが。
完全には壊れていない。
歪みながら、再生するように動いている。
「……再生か?いや……違うな」
目を細める。
「そもそも“壊れてねぇ”のか」
感触がおかしい。
斬ったはずなのに、手応えが曖昧。
まるで――
“本体じゃないもの”を殴っているみたいだ。
「……チッ、面倒くせぇタイプだな」
舌打ちする。
だが、その時。
ズン――
地面が、わずかに震えた。
「……っ」
顔を上げる。
遠く。
建物のある方向。
「今の……」
ただの揺れじゃない。
もっと“深いところ”から来た衝撃。
そして同時に。
胸の奥が、もう一度ざわつく。
「……サクヤか?」
確信はない。
だが、妙に引っかかる。
この違和感。
この気配。
偶然とは思えなかった。
「……中で何か起きてやがるな」
再び“手”が襲いかかる。
ビュンッ!!
空間を裂いて迫る。
「邪魔だ」
ドンッ!!
大剣で叩き潰す。
今度は地面ごと砕くように。
“手”が弾け飛ぶ。
だが――
また現れる。
「クソが……キリがねぇ」
歯噛みする。
行きたい。
中へ。
だが、このまま放置すれば――
「外まで広がるな、これ」
判断は一瞬だった。
大剣を握り直す。
「……しゃーねぇ」
肩に担ぐ。
「こっちは俺が止める」
視線を、建物の方へ向ける。
「サクヤ」
小さく呟く。
「死ぬなよ」
次の瞬間。
ドゴォン!!
レオは再び踏み込んだ。
外側で、暴れる異変を叩き潰すために。
――その頃。
中では。
ドクン。
サクヤの胸が、大きく脈打っていた。
そして。
無数の“手”を前に。
静かに、一歩踏み出す。




