第六話
気付くと、私は商店街の入り口に立っていた。
脇の方を見る。小さな喫茶店は閉じていた。
そうして、私は再び前を向き、歩き出す。
少しして見えてきた光景を見て、私は目を細めた。
「まあ、そうだよな」
途中、立ち止まる。商店街の店の全てはシャッターが閉じていた。
時刻は6時半過ぎ。当たり前だ、こんな時間に店など空いてる訳がない。
シャッターが閉じてる中には、もう何年も営業してない場所もあった。
おもちゃ屋はシャッターどころか、店そのものが崩れそうなくらい、ボロボロだ。
肉屋も半開きのシャッターの奥は、伽藍堂。
魚屋も、私達が最後に寄ったおやつ屋も、そもそも建物すらない。
「ああ、幻だ」
不思議な現象だった。
私は幻を見ていた。
この町が刻んでいた記憶を、私は幻として見ていた。
恐らくは寂れて変わりゆくこの町を、私が悲しんだから。そして………
「この町も、寂しかったのだろう?」
無人の商店街にそう語りかける。当然、答えは返ってこなかったが、それでいい。
ふと、携帯が震えた。どうやらメッセージを受信したらしい。
ロックを外して、メッセージの送り主の名前を見て、目を丸くして驚いて…………、微笑む。
(ああ、約束だもんな)
私は勝手に納得し、携帯を胸ポケットにしまってから、また歩き出す。
音は無い。心地よい静寂に身を預け、商店街の出口に立ち、振り返った。
「また、遊びに来るよ」
■
「………………先生」
全て聞き終えたオレは、あまりにも荒唐無稽な話を聞いて、やっと口を開く。
「ん?」
対して、先生はいつもの面持ち。だが、次にオレが何を言うか、手に取るように分かっているというような微笑を浮かべている。
「寝ぼけてた………とかじゃないんですか?」
なんとか、それだけを口にした。
だって、そうだろう。あり得ない、そんな事が現実に起きるはずがないじゃないか。
それを、先生は「かもな」とやっぱり気にすることなく言ってのけたのだ。
オレは、それでは止まらなかった。
「何処なんすか?」
「…………………」
「何処なんです、その神社と商店街。そんな場所あるなら、オレも行って――――――」
「内緒」
「はあ?!」
意地悪く笑って、こちらに背を向ける先生。だが………
「今はまだ、一人この胸に留めておきたい。そういう気分だ」
そう言った先生の言葉、その声音は、どこかひどく、そして清々しくも思えた。
その時の事を思い返し、今更ながらにオレは思う。
先生はきっと、本当にその不思議な空間にいて、その場所は会ったのだと。
そして、だからこそあの人は、あの町に戻る選択をしたのだろう。
自らも、町の記憶に在るために…………。
第一章・「睦月の幻〜Reunion and a Beginning〜」 完




