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睦月の幻  作者: 時計屋
第一章「睦月の幻〜Reunion and a Beginning〜」
5/17

第五話


二人の旧友と、私は商店街を歩く。


八百屋の店頭で店主を呼び込みをしていた。

小さな病院を、親子が入るのを眺めながら通り過ぎた。


おもちゃ屋の爺さんは相変わらず無愛想だったが、置いてあるものはあの頃と変わらないレトロな物ばかりで、思わず手を伸ばしそうになった。


肉屋で旧友はコロッケを買ってお金を渡していた。

あの頃行かなかった、店の中を入って眺めてみた。小さな店ばかりで、大人が三人で並ぶと中々狭い物だと笑い合った。

そんな様子を、店主はおかしそうに笑っている。


あの頃と変わらない景色でありながら、時間は深夜と、初めて見る商店街の顔に、私は心底楽しんだ。

道中の会話の全てを覚えていないほどに……。

ひとしきり回り、時計を見ると、不思議な事にもう明け方近くになっていた。

空も少しだけ、明るみを増している。


「いやー、お茶屋もそうだけど、あの店に入ったの初めてだよ」

「当たり前だろ。婦人服の店なんて、着れねえだろ」

「親だって入ってるとこ見たことないしな。お前んとこは?」

「ん?………ああ、うちも母さんは使ったことないよ。買うとしたら、駅のほうだ」

「そんな場所に入る男三人」

「ホントだよ、正月に何やってんだよ、俺達は」


最後に立ち寄ったおやつ屋。ベンチに三人で座り、盛大に笑う。

二人はおでんやポテトを摘んでいたが、私は彼らの会話を聞くだけで、何も飲み食いしなかった。

二人は何かを話している。が、近くにいるのに聞き取れない。


今に始まったことではない。

二人と再会し、商店街を回ることになった、その時からだった。

私はこの旧友と話した内容を、何一つ覚えていない。

否、この二人に限らず、商店街の人々と交わした会話の内容、何一つ覚えていなかった。


「…………いいや」


一人呟く。が、旧友達は反応しない。

そう、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

会話してる様に思っているのも、過去に実際に話した会話の一部を、頭が補完してるだけ。

それも当然だ。この商店街には、私しかいない。

何かを買ったり、飲み食いしないのも、そこに無いから。


「この光景は、()だ」


その言葉に、旧友二人はこちらを向く。


あれほど楽しく騒いでいた二人は、無言だ。表情は分からないが、恐らくは無表情ではないだろうか。

いつの間にかの静寂に気付くと、景色に変わりはないが、周りに人はいなかった。

それでも、不思議と恐怖はない。

それも、当然と言えば当然なのかもしれない。何故なら………


「楽しかったか?」


旧友が、仲は良かったが喧嘩の数も多かった弟の方が聞いてくる。

私は、微笑む。


「ああ、とても……楽しかった」


そう、単純な話だ。

この不思議な時間、長いようでとても短い幻が、私はとても懐かしくて、楽しかったのだ。

寂れて、あの頃と変わっていく町に寂しさを、悲しさを覚えた。そんな心が暖かく満たされる程に楽しくて仕方なかった。


そう答えると、一番親しかった兄の方が答える。


「そっか。なら、また遊びに来いよ?もしかしたら、俺達ともまた会えるかもだ」


目の前の二人が薄れていく。消えゆく彼らの、影の底に覗く口許を見て、私はしっかりと……


「ああ、約束するよ」


そう、返した。


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