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睦月の幻  作者: 時計屋
第三章「Flowers and Girl」
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第十六話


「それからも、私は彼女の絵を描き続けた。そのやり取りがあった数日後くらいか……。それが、あの絵というわけだ」

「………その人は、じゃあ」

「行ってしまったよ、翌月にな。彼女は最後までいつも通りで、別れは…………いや、言うまい」


懐かしむように、先生は壁の絵に視線を投げた。

「お前が期待するようなことは何もないよ」と言いながら……。


「じゃあ、今も海外に?」

「かもしれんし、違うかもしれん。暫くは連絡を取り合っていたが、それも段々と無くなった。今は何処でなにをしているのか………」


絵を見つめたまま、先生の口調は当時を懐かしむようにその目を細めた。


「聞かなかったんですか?」

「………ん?」

「その、どうして先生の事を好きだったとか」

「………………………」


オレの質問に先生は黙り込んでしまった。


別に野暮な事を聞きたいとか、そういうわけじゃない。


知りたかったんだ。

一緒にいても、結局全てを教えてはくれないこの人の事を、どんな事でもいいから知りたかった。


答えるべきか、否か………。

先生は一度、サイドテーブルの煙草に手を伸ばしかけて、止めた。


「……………?」


一瞬、何か違和感を覚える。

先生が煙草を吸おうとして止めるのは、何か話そうとしてくれる時の癖で、今に始まったことじゃない。


けれど――今のそれは何かが違った。


「せん――――――」

「そうだな。たしかに、していた」


意図してか、偶々か………先生はオレの言葉を遮りながら、若干、気恥ずかしそうにしながらも当時のことを思い起こしていた。


「私の性格はあの頃から変わっていなくてね。一人を好んで、静かに過ごしているかと思えば、時折、何かを望んでいるかのような視線が気に入った………ということらしい」

「何かを……望む……」

「本当に、大したことではないさ。大人になってから、その望みは叶えたわけだしな」


そう言って、先生はオレの方を見て微笑を浮かべた。


「先生は、その……教えてくれたらでいいんですけど」

「何を望んだか、知りたい?」

「………………」


頷くオレ。先生は水を一口。

青い花びらとともに、眠る少女の前で先生はその『望み』を教えてくれた。


「私の望みはな――――――」


◆第三章「Flowers and Girl」 完



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