第十四話
「それじゃあ、準備するから適当に座ってて。道具はそこにあるの使っていいし、今飲み物持ってくるから」
「やるとはひと言も言ってないんだがな。それよりも………」
言われるがまま、誰も使ってないという部屋に通された俺は呆れ返りながらぼやくと、戻ってきた天城は「ん、なに?」と不思議そうに首を傾げる。
「なに?じゃない。普通、男を簡単に家に上げたりしないだろう」
「別に変な事するわけじゃないからいいでしょ?この部屋も好きに使っていいってお母さんに許可もらってるし」
「……分かった。それで、どう描けばいい」
飲み物をこちらに渡しながらけろりとした調子で答える天城に軽い頭痛を覚えつつも、俺は椅子に腰掛け、イーゼルに下塗りを終えたキャンバスを置いてから返す。
こうなれば望み通りのものを描いて、早く終わらせてしまおう。そう思ったからだ。
「これと………ここ」
「花びらに、ベッド………」
小道具である青い造花の入ったケース。
それを手渡すと、天城はベッドに腰掛け、笑う。
「綺麗に描かないと、怒るから」
◆◆◆
それから一時間後。花びらの散ったベッド。シーツにくるまり、肩から上と、片腕だけを出して瞼を閉ざす彼女の姿を下書きとして落とし込んでいた。
カリカリと、鉛筆の音と、時計の音がする中で、天城がおもむろに口を開いた。
「下書き、どれくらいで終わる?」
「あと少し」
「眠くなってきたー」
「お前が突然、俺の前で上を脱ぎ始めなければ数分早く終わったよ」
「ぐっ、まだ言うか………」
不満を混ぜてそう言うと、天城はそれだけ言ってから黙ってしまった。
この構図がいいと、いきなり上を脱ぎだすから俺は焦って転んだ挙げ句、飲み物をこぼして掃除をしなければならなかったのだ。
これくらいの文句は言っても許されるだろう。
再びの沈黙が訪れる。しかし、それも一瞬、下書きを終えた俺は鉛筆を置いて、立ち上がって伸びをした。
「今日はこれで終わりだな」
「え、もうそんな時間?」
「ああ」
ベッドから起き上がろうとする天城に背を向け、帰り支度を始める。
学校が終わってからの天城の家まで来ての作業。できる時間など限られている。
別に門限などないが、あまり遅いと彼女の親にも迷惑だろう。
暫くして、玄関を出る俺を天城は出迎えてくれた。
「今日はありがと。明日………ううん、暫くよろしくね」
「ああ、またな」
軽く手を振って別れると、天城はどういう訳か、少しだけ寂しそうに微笑んでいた。




