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睦月の幻  作者: 時計屋
第三章「Flowers and Girl」
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第十三話


「ねえ……」


下校時刻。誰かが、誰かを呼び止めようとする声が廊下に響いた。

まだ廊下を下校してない生徒が疎らにいるが、別に関係のないことだと、俺は階段へ向かう。


「ねえ、君だよ。■■くん!」

「―――――え?」


名前を呼ばれ、思わず変な声が漏れた。

呼ばれる事など教室以外では教師くらいなものだし、その教師ですらあまり自分の事を呼ぶことはない。

俺は、自分を呼び止めた生徒を見た。

肩までかかる程の長さの亜麻色の髪の少女が少し、むっとしたような顔でこちらを見ていた。

記憶を思い返すも、その顔に覚えはない。クラスでも見たことはないし、別のクラス、学年だろうか?


「やっとこっち向いてくれた。無視するなんてひどくない?」

「……………誰だ?」


思わず、そして素直にその言葉が出た。

ふざけているわけでもなく、本気で分からない。

中学の終わりと同時にこちらへ越してきたが、生憎と親しい女子などいない。

てっきり怒られるか?そう身構えるが、相手は呆れたように、けれど「そりゃそうか……」と言いたげな顔で溜め息を吐く。


「天城、覚えてない?」

「天、城……………去年、クラスにいたような……」

「いたような、じゃなくいたの!たしかに話したのなんて一、二回程度だけど、そこまで忘れる?」

「すまん……」



思わず、目を逸らした。

そのまま天城――というらしい少女――は何やら一人、聞こえないくらいの声量で何か言っていたが、それも落ち着くと、やがて彼女は意を決した様に口を聞いた。


「私の絵を描いてくれない?」


それが、天城と私の間に起きた、せいぜい一ヶ月あるかないの出来事だった。

そうして私はこの絵を完成させ、彼女も私の前から姿を消した。


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