第十三話
「ねえ……」
下校時刻。誰かが、誰かを呼び止めようとする声が廊下に響いた。
まだ廊下を下校してない生徒が疎らにいるが、別に関係のないことだと、俺は階段へ向かう。
「ねえ、君だよ。■■くん!」
「―――――え?」
名前を呼ばれ、思わず変な声が漏れた。
呼ばれる事など教室以外では教師くらいなものだし、その教師ですらあまり自分の事を呼ぶことはない。
俺は、自分を呼び止めた生徒を見た。
肩までかかる程の長さの亜麻色の髪の少女が少し、むっとしたような顔でこちらを見ていた。
記憶を思い返すも、その顔に覚えはない。クラスでも見たことはないし、別のクラス、学年だろうか?
「やっとこっち向いてくれた。無視するなんてひどくない?」
「……………誰だ?」
思わず、そして素直にその言葉が出た。
ふざけているわけでもなく、本気で分からない。
中学の終わりと同時にこちらへ越してきたが、生憎と親しい女子などいない。
てっきり怒られるか?そう身構えるが、相手は呆れたように、けれど「そりゃそうか……」と言いたげな顔で溜め息を吐く。
「天城、覚えてない?」
「天、城……………去年、クラスにいたような……」
「いたような、じゃなくいたの!たしかに話したのなんて一、二回程度だけど、そこまで忘れる?」
「すまん……」
思わず、目を逸らした。
そのまま天城――というらしい少女――は何やら一人、聞こえないくらいの声量で何か言っていたが、それも落ち着くと、やがて彼女は意を決した様に口を聞いた。
「私の絵を描いてくれない?」
それが、天城と私の間に起きた、せいぜい一ヶ月あるかないの出来事だった。
そうして私はこの絵を完成させ、彼女も私の前から姿を消した。




