表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
睦月の幻  作者: 時計屋
第二章・「Who are you?」
10/17

第十話


「さて、ここまで半分」

「…………へ?」

「半分、と言ったんだ。ここからが本題だ。といっても、その本題とは散歩であのアパートの前を通った時、私が気になった事だ」

「何が気になったんすか?」

「『彼は誰だったんだろうか?』と」

「…………は?」


思わず変な声が出た。誰だった?

一瞬、思考が停止した。この人は何を言ってるのか、と。


「どういう事っすか?遊んでたんすよね、その子と。家でも遊んだって…………」

「ああ」

「それなのに分からないんすか?」

「正確には、どういう子ども、どういう家族だったのか分からなかったんだ。名前は教えてもらった、年齢は………聞いてなかったか。彼の母親にも遊ぶ過程でよく会っていた。だがな、それ以上の事は知らないんだ。松波」

「は、はい」

「当たり前のことすぎて当時の私は聞かなかっただけなんだろうが………。一つ訪ねるが、お前は六、七歳の頃、何をしていた?私は話した通り、学校に通っていた」

「そりゃあ、オレもそうですよ。学校行って、一応勉強して、友達と遊んで………」


何となく、先生の『気になった事』とやらの答えが分かり、言葉が詰まる。

先生もそれを察して、「そのまさかだよ」と答える。


「そう、私は彼から一切、そういう話を聞いた事がない。遊んでいれば、一つ二つは出そうな話なのに、だ。彼がほかの友達と遊ぶという話もした事はないし、学校などの行事があるから、と断られた事もなかった。いや、そもそも、彼は小学生だったのか、幼稚園児だったのか……」

「学校に通ってない…………」

「気になる事はもう一つ。彼らが引っ越した期間だ。最初に話した内容を覚えているか?」

「二ヶ月…………」

「こう言ってはなんだが、何度も引っ越しを繰り返せるほど裕福な家庭にも見えなかった。だというのに短期間で引っ越しを繰り返し、もしかすれば学校、または幼稚園にも通っていないかもしれない彼……。いや、もしかすれば、私が最初に彼と会った時も、祖父のアパートでそれまで会ったことがなかったのではなく、越してきてすぐだったのではないだろうか?」


ひとしきり喋り終え、窓の外へと視線を移す先生。

短い時間で引っ越して消えてしまった先生の幼少期の友達……。

まるで、何処に行ったのか探すように遠くを眺めていた。しかし………。


「と、まあ……、その程度の話だ」

「………へ?」


何でもないかのように、先生は薄い笑みを浮かべ、再びこちらを向いた。


「言ったろう?大した話ではないと。所詮は子どもの頃の話だ。私からはそう見えただけで、本当は違うのかもしれない。たまたま通りかかって思い返してみたら存外、気になっただけだよ。まあ、お前は気になって仕方ないみたいだが?」

「そりゃあ、そうっすよ。先生の話通りなら、大人になって考えてみると大分不思議な話じゃないすか。短い期間で引っ越し繰り返して、最後には何も言わずに消えるなんて」

「まあ、そうだな。だが、もう過ぎた事だ。今更、調べようのない話でもあるんだからな」


「何処にでもある話だよ」と、それだけ付け加えると、先生はこの話は終わりだと言わんばかりに、すっかり温くなったコーヒーを一気に飲み干した。



第二章「Who are you?」 完



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ