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ロゼとユッカ~二人がおうちに帰るまで~  作者: 猫宮蒼
四章 かろうじての休息

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話術スキルは低いもので



 ロゼの結界をアヴィオンがぶち破る、というような事にはならなかった。

 おかげでユッカは朝すっきりと目覚めて、そうして借りていた部屋から出ようとしたのだが。


 ゴン、という音と衝撃がしてドアは少ししか開かなかった。


「えっ」


 少しだけ開いたドアの隙間からそっと覗いてみれば、そこにはごめん寝状態のアヴィオンの姿が。


「うぅ、マジで酷い……」

「えっ、なんかごめん……?」


 ユッカ的にはドアをぶつけてしまった事への謝罪であって決して抱き枕になってあげなかった謝罪ではない。

「俺だって猫なのに……猫なのに……ッ」

「まだ言うんだ、それ。っていうかそこで一晩過ごしたの?」


 嘘だろまさか。


 そんな気持ちで問いかければ、アヴィオンはかすかに頷いたようだった。

「そんなところで粘らないで素直にベッドで寝た方が良かったんじゃ……」

「それで寝れたら苦労はしねぇよ……」


 言いながらもふらりと起き上がって、アヴィオンは首からゴキュ、と音を発しながらも回してみる。

 ユッカのそこまで鋭くない聴覚は、なんだか肩凝りがとんでもなく酷い人が肩を回した時のような音を確かに捉えていた。

 目の下の隈は相変わらず。それどころかマトモに眠れていなかったのか、立ち上がったアヴィオンは若干ふらついている。お酒に酔って千鳥足状態の酔っぱらいよりはマシだと思うが、あくまでもマシであって健康な状態の人と比べるとなると相当酷い。


「いつもそんな寝れてないってヤバくない?」

「そうだよヤバイんだよ。よっぽどになったらダチが睡眠薬調合してくるからギリ死んでないってだけで」

「うわぁ……」

「普段から薬に頼るのはいざという時困るしよぉ……」

「そだね、効果ないからって勝手にどんどん服用量増やしたらそのままうっかりオーバードーズどころか永眠なんてオチもあるかもわからんし……」


 それに関してはユッカの世界でもたまに聞く話だ。


 そう聞くと、なんだかちょっとだけ悪い事をしたような気がしてくる。

 気がしてくるだけで本当に悪い事をしたとは思っていない。


「そういえばフォリスは?」

「あいつならそろそろ起きてんじゃねぇの?」


 アヴィオンの言い方からして、どこかの部屋で休んでいるらしい。

 ディオスはユッカが借りた部屋の二つ隣くらいに入っていった記憶があるので、じゃあとりあえず支度して町の方見てこようかなぁ……と思い立つ。


「うーん、でもアレかな。なんかここに急に住民増えるからって家建ててるんだよね?

 じゃあ食料とかも買いに行くとなると不足がちとか……?」


 露店がいっぱい並んでいたから品薄とはいかないと思いたいが、それでも売れている物とそうでない物との差はありそうだ。


「それは多分大丈夫なんじゃね? 他のとっから避難してきた連中、魔女の助けを借りて荷物はそこそこ運んできたみたいだしな」

「魔女?」


 思わず目をぱちくりさせて聞き返せば、アヴィオンは「おう」と事もなげに頷く。


 魔女、と言われてついロゼを見る。

 ユッカとしてはまだ魔女という存在に馴染みがないのだ。ロゼ以外だとサリエナ地区でルシュカがそう呼ばれていたようではあるが、アレが本当に魔女だったのかもわからない。

 別種の化け物をあの地区の住人が便宜上そう呼んでいるといった方がしっくりきた。


「えっと、じゃあなんか暴れまわってた魔獣を倒したっていうのもその魔女が?」

「いやそれは俺」

「えっ!?」


 魔獣は既に退治されたとは聞いていたものの、まさかその倒した張本人が目の前にいるとは思わずユッカは目を見開いてアヴィウォンを凝視してしまっていた。


 いや、確かに戦えるかどうかの判定を下せって言われたら、戦えそうな人ではある。

 実際昨夜はフォリスと殴り合いをしたのか単なる言い争いで済んだのかはわからないが、ともあれ外で何やらやらかしていたようだし、一切戦えないわけではないだろう。


「い、言われてみると喧嘩慣れしてそうではある……のかな……?」


 イメージだけで物を言えとなるとステゴロとかとても得意そう。


 口より先に拳が飛んできたってなんらおかしくはないイメージもある。


 ただまぁ猫を自称しているので、パワータイプというよりはスピードタイプか。


「ん? って事は私が連れ去られた時目撃者が特に人攫いを目撃したみたいな感じじゃなかったのって……」

「英雄補正とかじゃね? 知らんけど」

「多分それかぁ……」


 多分あの時ユッカが見た目撃者は魔獣を倒した人が何やら人を抱えて移動してるけど、犯罪とかではなく何らかの事情があるに違いないとか思ったクチなのだろう。


 実際この城にやってきたフォリスの話を聞く限り、目撃者からの情報とも言っていたし、もしかしなくても魔獣を倒したヒーローが合意の上で女連れて家に帰ってったくらいの認識だったのかもしれない。


 あの時もっと全力で悲鳴を上げていたら話は違ったって事か……と思うも、あんなアクションアニメでしかやらかさないような屋根の上ひゅんひゅん移動されたら口など開けるはずもない。無理に何かを言おうとしても舌を噛んでめちゃんこ痛い目を見るのがわかりきっていたのだから。


「あの時私がブブゼラを咥えていれば……!」


 そしたら大音量で無駄に注目を集める事はできていた。

 そんな風に思って、後でリュックの中確認してみよ……と思い直す。


 仮にホイッスルが入っていたところで、いざという時に吹けるかは微妙なところだ。


「それに最近他の地区から行商人がそこそこ流れてきたっぽいからな、物に関して不足してるって事はないんじゃないか?

 あくまでもこの辺一帯に建物が無いってだけで」

「そっか……そうか……じゃあちょっと見てくる」

「おう。じゃあ俺もついてく」

「えっ?」

「俺がいれば少なくともごろつきが手を出してくる事はない」

「いや逆に強い奴と戦いたい系の相手が挑んでくるのでは?」

「そいつらはもうノした」


「お、おぅ……」


 それ以上何を言えというのか。

 言葉が出てこなかったのでユッカはとりあえず頷く事にした。そっか、その手のイベントはもう終了済みか……いや、直に見たいわけではないんだけども。そっか……という気持ちである。


 本来なら朝食の準備をするべきなのかもしれないが、食料の残りも微妙な感じがするしそうでなくとも人様の城。家ならまだしも城である。

 ユッカは流石に城の厨房を勝手に使っていいよと言われたところで使える自信がない。


 であれば、屋台とかあったような気がするしそっちで何か買って食べればいいかと思ったのである。


「ディオスやフォリスは?」


 ロゼが誘わないの? とばかりに言うが、ディオスの部屋はともかくフォリスがどこの部屋を使っているのかは知らない。


「起きてる?」


 なのでアヴィオンに聞いてみたが、知らんとあっさり返された。


 聞くだけ無駄だったか……と思いながらも一先ずユッカはディオスが昨夜入って言った部屋のドアをノックしてみるも、反応はない。


「ディオス? 開けるよ?」


 言いながらそっとドアを少しだけ押し開く。いきなり全開にして中で着替えてる真っ最中とかそういうハプニングイベントを回避するためだ。


「いないねぇ」

「えっ、そうなの?」


 ロゼがその隙間から覗いたようだが、既にディオスは部屋の中にいないらしい。


「お、なんか書いてあるぞ」


 どうやらメモが残されているらしく、ずかずかと部屋に入ったアヴィオンがメモを片手に戻ってきた。


「フォリスさんを連れて屋台で朝食を済ませてきます」

「なんだボクたちと同じような事を考えてたんだね。起こしてくれたらよかったのに……いや、起こせなかったのか」


 そのメモを読み上げたユッカに、ロゼが拍子抜けしたような声を出したが、直後に思い直す。


 ユッカを起こすためには部屋の前にいたアヴィオンをどうにかしないといけない。

 まだ眠っているであろうユッカを起こすためにアヴィオンをどうにかしようとすると、それだけで無駄に騒がしくなると判断した結果二人は一足先に出たのだろう。


 ユッカは自然に目が覚めて爽やかに朝を迎えたが、もしドアの外から聞こえる騒ぎで起こされていたら間違いなく機嫌が悪かっただろう。なんだったらガラ悪く舌打ちの一つもしていたかもしれない。


 ユッカの後ろをついてくるアヴィオンに関して、ユッカはあまり気にしない事にした。

 後ろからいきなり羽交い絞めにしてきて枕にしようとかしてきたなら話は別だが、そういった感じでもなかったので。適当にぶらついてくうちに疲れて戻ってきたら眠気が……なんて可能性に賭ける事にしたとも言う。



 この城に来た時はアヴィオンに抱えられて運ばれていたので、マトモに道を通ってきたわけではない。

 なので城の外に出たはいいものの、少し行ってすぐにどっちの道を通れば屋台があるところに着くのかがわからなかった。


 困ったように立ち止まってロゼに「場所わかる?」なんて聞いてみたが、ロゼもロゼで「どっちだっけ?」とあまりわかっていない。

 ロゼも昨日はフォリスの肩に乗って移動していたし、フォリスも行き先を特に告げるでもないまま城へ来たのでロゼも道を覚える以前の話だったのだ。

 ユッカのいる場所がある程度絞り込めて、その上で城に向かっている、とかであれば覚えたとは思うのだが……まぁそれも言うだけ今更だろう。


「あぁ、こっちだ」


 そんな二人――この場合一人と一匹なのかもしれない――を見てアヴィオンはユッカの後ろから追い越すようにして歩き出す。


 どうやら案内してくれるらしい、と理解して今度はユッカがアヴィオンの後ろをついて歩く。



「そういやさ、フォリスとは知り合い?」

「まぁそうだな。ダチではない」

「まぁ昨日のアレを見る限りではねぇ……仲悪いの?」

「良い悪いとかではないんじゃないか? 互いに見知った程度だろ」


 その割に昨日のあの様子からすると仲がよろしいとは言えない感じだったし大分気安かったけど……とは言わなかった。


「お前らはあいつと友人なのかよ?」

「うーん、どうだろ? 知り合って間もないから友人って言っていいのかちょっと悩むね」


 サリエナ地区にいた時に行動を共にした仲間、と言えるが友人と言えるかと問われると正直微妙である。


 問いかけておいてなんだけど、もしかしたらユッカのそういう微妙な気持ちに近いのかもしれないな、アヴィオンとフォリスは、なんて思っている。


 そのままちらっと肩に乗っているロゼを見た。


 フォリスはロゼの弟子のイシェルの友人らしいとロゼから聞いてはいるけれど、結局フォリスの口からイシェルの事を聞き出せたりはしていない。

 ロゼはアヴィオンの事を知っているのだろうか、と思って視線を向けてみたが、ロゼの態度を見る限り、フォリスと最初出会った時のような感じではない。


 ユッカの視線に気が付いて、ロゼはそっと首を振った。どうやらアヴィオンに関してロゼは知らないらしい。


 まぁ、知り合いの交友関係何もかも把握してるかって言われたら流石に全把握はないよな……とユッカだって思うので、それは別におかしな話でもない。


 沈黙したままついていくのも気まずくて、とりあえず適当に何か質問しようと思っても中々踏み込んだ内容は聞けないまま、本当に当たり障りのない事をぽつぽつと話しながら移動して。


 そうして朝から元気いっぱい威勢のいい呼び込みが聞こえる屋台が立ち並ぶ区画へと到着した。

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