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ロゼとユッカ~二人がおうちに帰るまで~  作者: 猫宮蒼
三章 それはさながらゲームのような

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反撃の一歩



 俄然やる気になってきたフォリスと共に階段を下りて、ようやく一階に辿り着いて。

 そこにロゼもディオスもいなかったものの、しかし扉がかすかに開いていたのもあって、あぁなんだ、外で待ってるんだな、と思ったのは言うまでもない。この時床に引きずられた跡のようなものがあったけれど、それをこの場で調べるよりも外に出ればわかる事だと思ったからかそれについてはあまり気にも留めていなかった。


 外が燃えるような暑さだとかならここで待っていた可能性もあるけれど、別にそういうわけでもないのだ。

 むしろ塔の中の方が僅かばかりに気温が低いのもあって、荒野になってしまった外の方が少しだけマシに思える。


 途中から化け物も何もいないフロアが続いていたので二人の足取りは軽かった。

 そのまま外に出て、まずはロゼやディオスと合流して、それからどうなったのか、どうしようか、そんな風に話し合いをしようと思っていたのだが。


 いざ塔の外に出てみれば、やけに大人びたルシュカ――よりにもよって腕が四本ある――にかなり無茶な体勢で蹴り飛ばされたロゼが見えた。


 人型の魔女の状態であったならロゼだってそんな簡単に蹴られても宙を飛びはしなかっただろう。

 しかし今のロゼはユッカの肩に乗っても問題ない程度の大きさしかない猫ちゃんの姿である。


 サーブをミスって体育館の天井に挟まったバレーボールのような高さでロゼは宙に放り出されているのだ。


 いくら猫の姿をしているとはいえ、あの高さから落ちればタダでは済まない。


 ユッカは冷塔庫の中を移動するのにまた階段を延々のぼっていかなきゃならないという事実にうんざりし、事前にロゼに重力を軽くする魔法をかけてもらっていた。

 いつものユッカならロゼが落ちるまでにその地点に移動して華麗に受け止めるなんて無理だったかもしれないが、今のユッカは移動に関してとても軽やかに動けるという自覚があった。


 ぽーん、と軽やかに一歩を踏み出して、そのままロゼの方へと駆けていく。

 名前を呼んでもロゼの反応はなかった。少しだけ動いたように見えたけれど、気のせいかもしれない。

 あれだけの高さに蹴り飛ばされたなら、魔法を使ってどうにか宙に浮くとか、着地に関してなんとかしてそうではあるものの、そんな気配も何もないのだ。


 手を前に出して、ロゼを受け止めるべくユッカは更に駆け、少しでも早くロゼを受け止めるために力いっぱい地面を蹴った。そうしていつもなら絶対に届かないような高さに跳んで、そこでどうにかロゼを抱きとめる。

「ロゼ、ロゼ!? 大丈夫!? 生きてはいるな……え、ちょっとホントに大丈夫なの……?」

「……うん、ユッカ、だいじょうぶ、ごめん」


 ユッカの声に一拍どころか三拍程遅れてから、ロゼがどうにか声を絞り出す。

「ごめんよ、ボクじゃ手も足も出なかった……」

「手も足も出た結果第二形態じゃないの?」

「なぁにそれ……」


 ユッカはそもそもどうしてこんな状況になっているのかを知らない。

 さっきまで冷塔庫をフォリスと二人で一階を目指して下りていただけなのだ。

 それがいざ外に出てみれば、ユッカたちを分断させたルシュカの姿が変わった状態で戦闘中。

 ははーん、ボス戦で言うところの第二形態ってやつか、と納得するよりも先にロゼがそれはもう高く飛ばされたものだから、一体何があったの? なんて聞ける余裕はどこにもなかった。


 ぽぅっと淡い光がロゼを包む。

「けほっ、思った以上に痛かった……っ」

「そりゃまぁ今のロゼは猫ちゃんだから人くらいのサイズの生き物に蹴飛ばされたら痛かろうよ」

 人以外のロゼより大きな生き物ならもうそれ全部大ダメージ、くらいの認識でいいと思う。

 治癒魔法を発動させたからどうにかなっているが、そうじゃなければ今もまだマトモに話をするのも難しかっただろう。


「うん、普通の猫だったら死んでた」

「やっば」


 ユッカも思った以上に高く跳んでいたのもあって、着地が不安なところだったがルシュカがこちらに更に追撃を仕掛けてこようとしなかったのもあって、余計な邪魔が入る事もなくマトモに着地できた。


「で、一体どういう展開?」

「うん、実は……」


 ユッカの腕の中でロゼは手短に先程までの事を説明する。


「えっ、つまり一撃で仕留めないといけないのに相手が硬すぎて攻撃がマトモに入らない挙句、素早さもあって命中させようにも回避されたり弾かれて通らないし、仮に通っても即耐性を得てますます攻撃が通らないって事?

 何その無理ゲー」


 反則じゃん、と思わず言うのも当然だった。


 見ればルシュカはディオスに狙いを定めているのもあって、今現在もディオスは攻撃を回避するのに専念している。


「うん、わからん」


 速すぎてユッカの目では何をしているのかもさっぱりだった。

 なんか残像見えるんだけどぉ……? あれホントに残像かなぁ……? 残像だとしたらそんなん初めて見たわ……

 あんな速度の攻撃がユッカに向かったら何が起きたかもわからないままご臨終確定である。


 異世界怖……近寄らんとこ……なんて考えたところで既にその異世界にいる時点でどうしようもない。


 フォリスがディオスから少し離れたところでどうにか手助けできないかと割り込む隙を窺っている様子ではあったが、そんな隙はどこにもないのか現状すぐに行動に移るような感じではない。


「なんでディオスが狙われてんの?」


 塔の中で別々に飛ばされた時、ルシュカの怒りを買ったのは紛れもなくユッカだ。

 余計な発言だと思ったが、それでも頭のおかしい芸術家気取りという言葉を撤回する気はない。

 そのせいで攻撃がこちらに向いたならわかるのだが、ユッカ以上に酷い事をディオスが言ったのだろうか?


 そんな疑問を口に出せば、ロゼはそっと首を振った。

「見た目はルシュカだけど今のアレはどうやらドロシーらしいんだよね。本体じゃないらしいけど」

「情報量が多い」

「なんか勧誘しようとしてるっぽいけど、ディオスがそれを断った結果、かなぁ……?」

「勧誘!?」


 話を聞いてもさっぱりわからない。


「でも誘われてるのを断るにしても、それであんなんなる!?」

「なる? って言われてもなっちゃってるし」

「それはそうなんだけど」


 割って入って止めようにもあんな目に見えない速度での攻防をしているところに行け、というのは難易度が高すぎる。


「えぇ~? これもう私らに出来る事なくない?」

「それは……そう、なんだけど」


 ユッカの言葉にロゼとしてもそう言うしかない。

 ロゼがやった事は、攻撃を当ててルシュカの――ドロシーの耐性を上げただけだ。中途半端に強化する形になってしまっている。


「ここからじっくりなんかこう……凄い魔法とかタイミング見て放てるようにするにしても、こっちに攻撃向けられたらアウトだよね」

「それはそう」


 先程まではディオスの肩にいたからまだしも、今のロゼがルシュカの攻撃を回避できるかとなるととても難しい。

 ユッカもいる以上、彼女を守らなければならないのだ。

 護りの魔法があるけれど、それとて攻撃を防いではくれるだろうけれどそれだけだと思われる。


 むしろロゼは今、ユッカに対して護りの魔法を更に重ね掛けしている真っ最中であった。


 ユッカを無事に元の世界に戻す事ができなくなるのがロゼにとって一番困るので、自分の攻撃魔法があまり通じないのであれば徹底的に護りに回るしかない。


「うーん……そもそもの話、ルシュカが既に死んでるっていうのが痛いかな。生きてたらまだ他に方法がありそうだけど、死んでるのをドロシーが遠隔操作してるようなものでしょ? 本体直接叩きにいくにしても、ここにいない相手じゃどうしようもないし」


 ユッカの言葉に、ロゼは改めて現状がとても厄介であると確認する。

 ダミアンのように隠れていても同じ地区にいる、というのが確定しているのならまだしも、別の地区にいる可能性の方が高い相手となれば今から他の地区を探し回るにしても見つかる可能性の方が低い。

 しかもロゼはドロシーの本体とも呼べる姿を知らないのだ。

 本体ではない、とディオスが言っていたところから見た目はきっと異なるはずで、であればどこにいるかも定かではない相手を探すのはかなり難しくなってくる。


「……って、アレ?」


 事態は思った以上に深刻だぞ……とロゼが一生懸命状況をどうにかするための手段を考えている中で、何かあったらしくユッカのちょっと戸惑ったような声がする。


 物事を考えていくうちに俯き加減になっていたロゼはその声につられるようにして首を上げた。



「えっ? フォリス!?」


 ディオスが攻撃を回避するので精一杯な状況下で、そこにフォリスが割り込んでいた。

 武器を手にしているルシュカ相手に丸腰で割り込むとか正気か!? と叫びたいが、どうしようもないくらい事実である。


 フォリスはルシュカが手にしている武器を恐らく障壁でもって弾いていた。障壁、と断定できないのはロゼの使う障壁と異なる様子であるからだ。


 ロゼの作り出す障壁は淡い光で対象を包むように発動するが、フォリスが使っている障壁らしき魔法はルシュカの攻撃が命中した時だけ蒼い光を放っている。

 恐らくは全体を守るのではなく、一部分だけに集中して守りを重ねているのだろう。ルシュカの攻撃はロゼの魔法も弾くくらいには強烈だったので、柔い守りでは簡単に障壁を貫くのは言うまでもなく、そしてフォリスの魔法的な実力はロゼよりも下だったとロゼ自身記憶している。

 イシェルもフォリスの魔法が凄いような事を言っていた事がないので、そこは間違っていないはずだ。


(でもあんなのちょっとでもタイミングがずれたら守る意味もないくらいギリギリのやつじゃないか!)


 声を上げそうになるが、どうにか飲み込む。下手に叫んでルシュカがこっちに狙いをつける可能性は今の時点では低いけれど、ディオスやフォリスの意識をこちらに向けて集中力を散らすのもよろしくない。


「死体相手じゃ毒でじわじわ、なんてのも難しいし……うーん、とりあえずフォリスが健闘してるっぽいし、様子見するくらいしかできないかな」

 がんばえーと小さな声で応援し始めるユッカに、いやそんな呑気な……! とは思ったけれど。


 だがしかし実際に今のロゼに出来そうな事は何もないのだ。

 下手に手を出して逆にフォリスたちを窮地に追い込むような事にもなりかねない。


「てかさ、死体っていうならあれ今動く死体みたいなものなわけで。

 なんかゾンビとかそういうの浄化して消すような魔法とかないの?」

「……ある!」


 重く鋭い音が両者の間で響いているので、ユッカがふとそんな風に漏らした言葉を恐らく向こうは聞いちゃいないだろう。

 言われてみれば盲点だった、と言わざるを得ない。

「そうだよ、そうだった。なんで思いつかなかったんだろ」

「そりゃ普段から死体相手に戦ったりしないからじゃない? さっきまでの化け物も死体の寄せ集めっちゃそうだけど、あっちは普通に魔法で対応できてたからそれ専門みたいなのが思い浮かばなくても当然っちゃ当然なんじゃない?」


 今までの方法が最初から通用しなくてそれ専門の方法に至ったならまだしも、他の魔物と同じような対処法でどうにかできてしまっていたのだ。ロゼの中ではそのまま他の魔物と同じ認識で来てしまって、今更あれが死体であるなどという当たり前すぎる点に焦点を当てる事にならなかったとしても、仕方のない話と言えなくもない。


 考え方をすぐさま変えるのは通常時だって少し難しい場合があるというのに、切羽詰まった状況なら余計にすぐさま思い浮かべるのは難しいだろう。


「まぁ、その表面上を覆ってる? ドロシーに通用はしないんじゃないかなぁとは思うけど。

 でも内側のルシュカには通じる可能性があるって事でしょ?」

「うん。やってみる!

 ……ユッカ、ここで待ってて。ボクだけ行くよ」

「えっ、ここからだとダメなの?」

「ちょっと距離があるかな。その分魔力を消耗するし、やろうとしてる事に気付かれてこっちに攻撃が向くとユッカが危ない」

「ロゼだって危ないでしょ」

「でも、ボク一人だけならなんとかできるから」


 先程思い切り蹴飛ばされて宙をぽーんと飛んだ事はさておいて。


 ロゼは音も立てずにルシュカの方へと距離を詰めた。



 ユッカはそんなロゼを見送るしかない。とりあえずルシュカの注意がこちらに向かないように、ひっそりこっそり身を隠せそうな場所がないかと周囲を見回した。

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