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ロゼとユッカ~二人がおうちに帰るまで~  作者: 猫宮蒼
三章 それはさながらゲームのような

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単純作業



「あぁあ、ユッカ大丈夫かなぁ……なぁんであの時肩から下りちゃったんだろ……」


 しょぼーん、という音が聞こえてきそうな勢いで落ち込むロゼではあるが、魔法を発動させるのだけは忘れていない。

 あははうふふと甲高く耳障りな笑い声をあげる化け物を無力化しつつ、床の上をうろうろと移動している。


「無事でいると信じる他ないでしょう」

「もし一人きりで飛ばされてたら……いや、護りの魔法があるからなんとかなるとは思うけど、でもあれも万能ってわけじゃないし……」


 右へ行き。左へ行き。


 うろうろ。うろうろ。


 どちらへ進むべきかもわからないような動き方をして、そうこうしているうちに――


「にゃっ!?」


「猫のくせにどんくさいですよね」

「余計なお世話だよぉ!」


 足がもつれてバランスを崩したロゼに、あまりにも無情な突っ込みをディオスがいれる。


「それにボクは本当は」

「ロゼ」

「あっ」


 ユッカのようにディオスが名を呼べば、ロゼは慌てて口を噤んだ。


(あっぶなぁ……危うくボクは猫じゃない、本当は魔女だー! なんて言っちゃうところだった……!)


 折角色々と隠そうとしているのに、それを自らバラすところだとか笑うに笑えない展開である。


「ユッカさんはあれでああ見えて一応気を付けているようですが、貴方、あまりに迂闊では?」

「うぅ……否定できない……ッ」


 元々人とあまり関わらなかったから、というのもあるが、それにしたって……と内心でロゼが思っている事をディオスが知る由もないけれど、それにしたって……とはディオスだって思っている。


 ユッカがソルシエルロスではないと指摘したのはこの地区に来たばかりの頃だ。

 あの時だってユッカはどうにか誤魔化せないかと考えを巡らせていたようだというのに、ロゼがあっさり態度に出した事でどうにもできなくなってしまった。


 ユッカはソルシエルロスの事を一切知らない様子であったし、であればソルシエルロスであると思わせるようにしたのはロゼか、それとも別の存在か……とディオスは考えている。

 何らかの事情持ちであるのは間違いないが、ディオスだってわざわざ人様の抱えている秘密を暴こうとはこれっぽっちも思っていない。

 大体そういうのは暴いた時点で面倒事に巻き込まれると相場が決まっているので。


(まぁ、種族を偽るというのなら、少数の希少とされる種族である可能性が高いと思うのが普通ではありますが……あえてそう思わせてそういった相手を狙う誰かをおびき出そうという目論見も……とはいえ、囮とするにも確証がない。

 囮であるというよりは単純に種族を誤魔化したいだけでしょう)


 なんの種族であるのか、はディオスにとってどうでもいい。

 興味が無いと言ってしまえばそれまでだし、既にいるはずのない人間であるだなんて事もないだろうし。

 それ以外の希少種だとしてもそちらについては本当にディオスにとってはどうでもよかった。


「普段からユッカさんの肩に乗って動かないから余計に動きが鈍くなるのでは?」

「そんな事ないよぉ! ボクの軽やかな動きを見てなかったのかい!? こんなにも身軽に動けるというのに」


 思考が明後日の方向へ飛びそうになったのでディオスは適当に思った事を口から出した。

 いつもユッカの肩にちょこんと乗っている状態なので、ロゼが活発に動き回るのを見る機会は案外少ないように思う。

 ……いや、別行動をする時もあるので全く動かないわけではないとわかってはいるのだけれど。


(まがりなりにもクークラの城でこの猫クークラとサシでやりあってたようではありますし……)


 ただの猫だと思ってはいないが、しかし使い魔と見るにも不自然さがある。


(隠すつもりがあるのだかないのだか……傍から見ている分には面白いのですが)


 そのうち本当にボロを出しそうだな、と思いはすれどディオスはそこまで指摘しなかった。

 今言ったところで、ロゼが一時的に気を引き締めはするだろうけれど、多分そのうちどこかで油断してぽろっとやらかしそうな予感しかしないのだ。

 それならばもう少し放置して、ギリギリで忠告した方がいいだろう。


 なんて考えている事など当然ロゼがわかるはずもない。


 化け物を倒して、ぴくりとも動かなくなったそれに更に魔法をかけて跡形もなく消す。

 元は生きていた人だった。だがしかし死んで――殺されて――そこからバラバラにされて新たにツギハギになって、そうして新たな形に作り替えられて動いているのだ。

 生きている、とはとてもじゃないが思えなかったが、しかしそれでも。

 人としての生は終わったと言うのに動いているのなら、動かなくなったからと安心するのは気が早い。


 元々の命とは違う理が作動して動いているのだ。

 であれば、倒して動かなくなったからこれで安心とはとてもじゃないが言えない。


 本当なら、きちんと弔ってやるのがいいのかもしれない。

 だがバラバラになった状態で、ディオスにはどれが誰の身体だったのかなどわかるはずもないのだ。

 土葬は以ての外だし火葬にしたって皆纏めて灰にする事になる以上、魔法で跡形もなく消した方がマシですらある。


(先程のルシュカ、でしたか。彼女は違うにしても、繋がりはありそうなのがなんとも……)


 ユッカたちにこの地区を勧めたのはディオスだ。

 だがまさかこんな展開に見舞われるなど想定すらしていなかった。


 最初に来たばかりの頃、広がる草原地帯だった時はこんな事になるなんて誰が想像しただろう。

 ルボワール地区にククルビタ地区と、なんだか慌ただしい状況になってしまったからこそ、ディオスとしてもユッカたちに何らかの目的があるのは承知の上で、それでも少しくらいのんびりできそうな場所を勧めたつもりだったのに。


(人形がどうとか言っていたので、恐らくアレはドロシーと繋がりがあるのだろうな……まったく、なんて厄介な)


 クークラをああしたのもドロシーだと言うし、ルシュカもドロシーと関わりがあるのならきっと他にも関わりがある者がいてもおかしくはない。


(そうだ。彼女はいつだってそうしてきた)


 かつて――ディオスが知っていた頃のドロシーはおとなしく控えめで、表立って自分から何かをするようには見えない少女だった。内気で、大きな声で喋るのを好まない、あまり目立たぬように……と身を縮こめていた姿は今でも思い出せる。

 自分から動くのではなく、それとなく人を使う事の方が多かった。


 それが現在こうなっているのだから、それについては驚くようなものでもない。

 あぁ、手駒が増えたのだなという感想が浮かぶだけだ。


 今までは名前をどこかの地区で聞く事もなかったが、その時はきっと色々と暗躍していたのだろう。他の者たちと同じように。

 自ら動くような相手であれば、名前だけは聞く事もあったけれどドロシーはそうではなかったため。


 きっとどこかで大人しくひっそりと生活しているのだろうとも、ほんの少しだけ思ったりもしたけれど。


 どうやらその考えは間違っていたらしい。


(と言う事はほぼ全員ってわけですか……まぁ薄々想像はしていました)


 最悪の可能性として一応考えてはいたのでそうなったとしても今更驚く事はない。

 ただ面倒だなとは思うけれど。


「それで、ここからどちらに行きますか?」


 化け物を消して、まだ落ち着きなく尻尾をびったんびったん床に叩きつけているロゼに声をかける。


 冷塔庫の恐らくは上の階に飛ばされたのはわかるけれど、階段がどちらにもあるために下に行くか上に進むかの二択だ。最上階に飛んでいたのなら下りるだけだが中途半端な階層に飛ばされたのであれば、どちらに進むかでユッカたちと合流できるまでの時間にも関わってくる。


「うーん、上、と言いたいけど下かなぁ」

「その心は」

「階段のぼるの辛いって言ってたユッカに重力軽減魔法をかけてはいるけど、どっちかっていったら下りる方を選ぶだろうし、それに……ここ完全にさっきのルシュカが私物化してるみたいだったから。

 ここ食料保管庫扱いになってないでしょ」

「それは確かに」


 どこを見ても食料らしきものが置かれている様子はないし、仮にあったとしても最初に立ち寄った冷塔庫のように化け物が滅茶苦茶にしている可能性もある。


「フォリスがグラヴィールの実を諦めきれてないから上に確認に行くかもしれないけど、でもボクたちが追い付くまでに向こうが充分に上を確認できるかもわからない」

「こういった化け物が存在しているので戦闘になるのでは」

「うん、でもそれ、ユッカは大丈夫だから。フォリスが大丈夫じゃなさそうだなってなったら流石に撤退すると思う」

「護りの魔法は万能ではないのでは」

「うん、万全じゃないから守れないケースもあるけど、でもここでそういう可能性はなさそうだからね。魔物なり化け物なりが襲ってきてもユッカが安全であるってところだけは言えるよ」


「であればフォリスさんが身の危険を感じて撤退を選べば問題はない、と」

「うん、あれでフォリスも慎重な方だから無茶はしないと思うんだ。だったらここから下りて、確実に下で合流するのがいいかなって」


「そうですか。わかりました」


 ロゼの言葉に頷いてディオスは階段を下りる事にした。

 魔力探知でフォリスの居場所を探ろうにも、そもそもこの冷塔庫全体に魔法がかけられているせいで探知は難しい。

 頑張ればできなくもない……と思いたいが集中力も使うし時間もかかるだろう。

 移動しながらやるのは最悪自分の周囲への注意が散漫になってしまうので、うっかり化け物と遭遇した時対処が遅れる可能性もある。そのせいで怪我をするのも馬鹿らしい。


 なのであえて無茶をしてまでやろう……とは思わなかった。

 ユッカは魔法が使えないそうなので、ロゼが離れて慌てていても無茶をしてでも魔力探知を……とならない事もディオスが無理をおしてまで……と思わない理由の一つだ。


 途中で合流できなくとも、どのみちこの塔から離脱するとなれば一階に戻らなければならないのだ。


 であればそちらで待っていた方が確実である。


 そう判断してディオスは足を止める事なく階段を下りていったし、ロゼもその後ろから軽やかに追いかけてくる。


 階下でも再びできそこないの人形みたいな見た目が最悪としか言いようのない化け物がいて即座に戦闘になったけれど。


「正直な話、見た目のインパクトが強いだけですねぇ……」


 あ、なんかいるな、と思った時点で魔法を放てば大体倒せる。


「うーん、普通ならあの見た目で一瞬躊躇というか警戒というか、動きか思考のどっちかは固まると思うんだけどなぁ」

「既にあちらの冷塔庫で似たようなのと遭遇してきたじゃありませんか。じゃあもうそろそろ慣れる頃合いでしょう」

「そうかなぁ……あっちにいたのとこっちとではなんか系統違うからさぁ、慣れるってそんな簡単に言われても……って思うよ」


 戦う手段を持たないような人であればそうなるのかもしれないが、ロゼもディオスもそうではない。

 つまりはそういう事でしょう、とディオスに言われてしまえば、それもそうかとロゼはあっさりと納得した。


 下りて、そのフロアにいる化け物を倒す。

 この作業を何度か繰り返して、そうしてようやく一階に戻ってきたのだが。


 そこには当然のようにルシュカが待ち構えていたのである。

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