実質ソロパーティ
一応ね、護りの魔法がかけられてるから多少はどうにかなると思うんだけど。
そんな風にユッカが言うけれどフォリスはじゃあ大丈夫でスね、とは言えなかった。
(護りの魔法って言われてもな……それがどれくらい意味のあるものなのかもわかりませんし……
思い返してみれば確かに戦ってたのってディオスさんとかロゼだったな……なんでユッカさんが戦ってると思ってたんだろう……?
あ、そっかロゼが肩に乗ってたから……)
冷塔庫で化け物と戦っていた時、フォリスだって完全に冷静さを失っていたわけではない。
確かにグラヴィールの実が手に入ると思ったのに、それを目の前で台無しにされたも同然で頭に血が上ったのは否定しないが、それでも我を忘れて暴走するまではいっていなかった。
一応同行者であるユッカたちを巻き込まないように、と考えるくらいは冷静さも残っていたのだ。
立ち回りが上手いと思っていたユッカは、しかし単純に邪魔にならないような場所に移動していただけという事実。そうして安全な場所からロゼがユッカの肩から魔法を放ち攻撃していた。
ロゼの事を使い魔だとか言っていたので、フォリスはその時点でユッカが非戦闘員であるだなんて思いもしていなかったのだが。
「本当に、一切、これっぽっちも、戦えない、と……?」
「マジのガチのガチガチで戦えないんだわ」
精々石ころとか拾って投げるのが関の山かも、なんて言われてしまえば。
「な、るほど……? じゃあ相当気をつけて進まないといけないわけでスね」
「あ、一応足手纏いだから見捨てていくね、とはならないんだ」
「僕をなんだと思っているんでスか。言いませんよ流石に。
大体荒野に変わったのを一人で進めない僕に付き添ってくれた結果こうなったとも言えるわけでスし……」
「おっと、そういう認識なんだ」
けろっとした表情で言われて、ユッカの中では別の考えだったのだろうかと思うも。
(いえ、聞いたところであまり意味がないのかもしれない……)
結局こうして行動を共にしているのだ。その理由がどうであれ。
どのみちここで突っ立っているだけ、というわけにもいかない。
先程も言ったように、まずは上を目指して、最上階についても誰とも合流できなければ下りる、でいいだろう。
もし上にディオスやロゼがいれば、そして向こうが下りてくるのであればこちらと合流もできるし、仮に上に誰もいなかったとしても、最上階から下りていけば最終的に合流できるはずだ。
「魔力反応を探知する、とかができればわかったりするのかもしれないけど、私はそれすらできないので」
「それ以前にこの冷塔庫そのものに魔法がかかってるようなものだから、探知しようにも難しいでスね……外ならまだしも」
生憎、と言えるがフォリスはそこまで魔力探知が得意ではない。勘が鈍いわけではないので奇襲だとかは上手い具合にどうにかできているが、魔力探知は大雑把にしかできないので。
もっとそういうのが得意な相手であれば、こんな風に魔法がかけられているような場所でもどうにかできるかもしれないが、フォリスにはできない。それだけは確かな事実だった。
ともあれ階段を上がっていく。
歩きながら、どうしてこんな事になったのだろうか、なんて呟けばユッカがあのルシュカの仕業でしょ、と答えた。
「ルシュカ?」
「聞いてなかった? ほらあの、私がさ、頭おかしい芸術家気取りやめろって言った後」
「あぁ……突然発狂したアレでスね……」
「まぁ私も言葉が悪かったと思うけど、でも事実じゃん?
人殺してそのパーツバラシて気に入ったパーツ交換してってやってる時点で頭おかしい扱いするのは仕方なくない?」
「それはそうなんでスが……」
「で、なんか自分の芸風を否定された結果だと思うんだけど、沢山の人形を作るだとか、あの人に認めてもらうのはこのわたしルシュカだーって喚いてたわけ」
「それだけでスか?」
「その後なんか魔法が発動したっぽくて、気付いたら今ここ」
フォリスにとってはきぃきぃギャンギャンとしか表現できそうになかった音は、ユッカからすると一応言葉であったらしい。
思い出してみようとしても、耳が痛いなという事しか思い出せない。
「ってことはつまり……僕たちもその人形の部品扱いされるって事なんでスかねぇ……?」
「多分そうかも」
「戦えないって言ってるわりに切羽詰まってなくないでスか?」
「なんとかなれー! の気持ち」
「はぁ……」
「ま、フォリスと一緒なら多分大丈夫でしょ。あっちの冷塔庫で化け物相手に戦ってるの見た限り強いし」
「自分一人守るだけで精一杯かもしれないじゃないでスか」
「そうなったらその時は自分優先していいからね。私は……護りの魔法がどうにかしてくれる事を祈るしかない」
「そんな楽観的な……わ」
「なになに? どしたの?」
「動かないでそこで待っててください!」
戦えないユッカを先に行かせるつもりはなかったのでフォリスが先に階段を上っていたのだが、次のフロアに辿り着いた矢先に見てしまったものに対して、フォリスは思わず声を上げてしまっていた。
足を止めるだとか、何らかの反応をしてしまった時点でユッカが何かあったのだと気付くのはどうしようもないけれど、好奇心に駆られて後ろからフォリスを追い越すような真似をされるのは困る。
あちらの冷塔庫にもいた、なんとも言えない見た目の化け物が蠢いている。
明確にこちらを見て襲い掛かろうというような敵意はない。
けれどもだからといって好きにさせるわけにもいかない。
赤黒い肉の塊に指のようなものが複数ついていて、その指が足の代わりなのだろう。
なんだか芋虫みたいな動き方だな、なんて思った時には既にフォリスは攻撃を仕掛けていた。
狐火とも呼ばれるそれは、天狐族なら誰でも使えるものだ。
ただ本来ならばその炎は明るい色であるはずなのに対し、フォリスの炎は何をどうしたって蒼であるけれど。
嫌な臭いを発しながらも蠢いていたそれらは見事に焼ける。
「ねえ何そのにおい、なんか肉が焦げたのを滅茶苦茶嫌な方向に進化させたみたいなやつなんだけど」
「でしょうねぇ、生憎僕だってこんなの焼きたくなかったんですけど、そうするしかないもので」
「あー。もしかして向こうの塔にもいたような化け物いる?」
「いまスよ」
「最悪」
「本当に同感でス」
唯一マシだと思える点は、肉の塊に口はついていなかったようで、断末魔の叫びみたいなものはなかった事だ。
仮にあったらきっとさぞ嫌な音だっただろう。
床を蠢いていたものが全て焼かれ、悪臭だけを残して静かになる。
とても気は進まないが進むと、後ろからユッカもついてきた。
「んん? こっちってマジで食料保管庫って感じじゃないんだ」
「そのようでスね」
最初に訪れた冷塔庫も大概ではあったけれど、それでも一応食料が置かれていた、というのはわかるものだった。原型を留めていた物はほとんどないけれど、破片と思しき物があった事は確かなのだ。
だがこちらの冷塔庫にはそういった食料が置かれていた、という痕跡のようなものがほとんどない。
他のフロアに移動させられたのか、それともとっくに持ち去られた後なのか……
確認しようにも、この塔の外にいた住人だったはずの者から聞き出せる気はしないし、他の町や村へ移動してそちらに生存者がいる可能性に賭けるにしても……という話だ。
最初に入った冷塔庫の近くにあった村だって、ユッカたちが塔から出て戻った時には既に手遅れだった。
荒野化した場所は恐らくルシュカによって制圧されたものと見ていいだろう。
フォリスが過去何度かこの地区に訪れているとはいえ、基本的には森などに入っての果物採取がメインだ。
一応時々人里に立ち寄る事もあったとはいえ、そう詳しいわけでもない。
うろ覚えでも多分他の町や村に辿り着けるとは思うが、恐らくルシュカの方がこの地区に詳しいのだろう事を考えると、仮にまだ無事な町や村があったとしてもフォリスたちが辿り着く前にルシュカの魔の手に落ちている可能性の方が圧倒的に高い。
「多分だけど。
仮に、私たちを人形の新しいパーツにしようと目論んでるとして」
「高確率でそうでしょうね」
「さっきまでいたフロアとは別のフロアに飛ばしたって事はさ、この塔から出すつもりはない、って考えるべきなんだよね?」
「まぁ」
「最初から下に向かった方がルシュカか、その手下かはわかんないけど、まぁ待ち構えてると思っていいわけじゃん?」
「確かに」
「一応今上を目指してるとはいえ、ここがパーツ保管庫にされたっていうなら、上に行けば行くほどそういうのを見る機会があるわけで」
「考えるだけでイヤになってきまスね」
「それはそう。でもさ、じゃあついでにそのパーツとか蠢いてる化け物とか倒したら、あとはもうルシュカをどうにかすれば解決じゃん?」
「それはそうなんでスけど……」
「どっちにしてもそのうちお出ましになると思うわけ」
「遅かれ早かれ、でスね」
「うん。ロゼたちが上にいる可能性もあると信じて上に向かってるけど、下手したらルシュカが私たちをパーツとして分解しようとして、なんかそういう化け物差し向けてくる可能性あるんだけどさ」
「……その考えは合っているかと。ユッカさん、なるべく後ろにいて下さいね」
「おう……今から下に向かって逃げ出す、は無しだと思ってはいるけど……ロゼとディオスの無事も心配になってくるな……」
フォリスの耳は既にこちらに向かってくる足音を捉えていたし、嫌な想像をしていたユッカもフォリスの言葉から自分たちに訪れる今後の展開を察したのだろう。
あの化け物がくるよりもっと上にロゼたちがいる可能性もあるからなぁ……と結局逃げ出すという選択肢は消える事となってしまった。
重々しい足音と共に階段を下りてきたのは、フォリスの頭一つ分大きな化け物だった。
豚の頭の魔物の手は切り落とされ、そこに人が腕がわりにつけられている。人、というが既に意識はないようで化け物の意のままのようだった。人の腕の部分が刃物を手にしている。
化け物の本来の腕がどうなったかはわからないが、本来の腕であれば持つには少しばかり難しいかもしれない細身の武器は、新たな腕となった人の手が持っている。
「風邪ひいた時にみる悪夢だってもうちょいマシでは……?」
その化け物を目の当たりにしたユッカの感想に、
「どんな悪夢であれ夢は所詮夢でスから、起きてしまえばそれっきりでスよ。今起きてる分余計に性質が悪い」
いっそ悪夢の方がまだマシだと仄めかせば、ユッカもそれは確かにそう、なんて頷いていた。
それから小声で「がんばえー」と舌足らずな応援を始める。
「一人だったら絶対泣いてた」
そんな情けない事を言いつつも、しかしフォリスは逃げようとは思わない。後ろに戦えないユッカがいるからというわけでもない。確かにこの化け物はきっと強いのだろう。少なくともこの地区の住人からすれば。
だがフォリスにとっては、友人たちの方が余程厄介だと思えるものなので。
「手加減の心配がない分楽でスね……!」
ぼぼぼっと、音を立てて炎を出す。
「雑な埋葬で申し訳ありませんが、苦情は受け付けておりませんので!」
その言葉と同時に。
こちらに襲い掛かろうとしていた化け物は一瞬で燃え上がる。
けたたましい断末魔が響き渡り――
魔物であろう本体も、腕としてつけられていた人も何もかも。
あっという間に灰に変わっていた。




