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ロゼとユッカ~二人がおうちに帰るまで~  作者: 猫宮蒼
三章 それはさながらゲームのような

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途方に暮れる



 冷塔庫を地上から見上げた時、まさか最上階まで行く事になるとは思ってはいなかった。


 ……いや、最上階まで行く事はないだろうな、と思いたかったと言うべきか。


 途中のフロアである程度食料を確保して、そのついでにグラヴィールの実もゲットして、そうして何事もなく引き返す。

 それがユッカが想像した一番無難で何事もない展開である。


 だがしかし、そもそも塔の入口付近に死体があった時点で、更に一階に死体が並べられていた時点で、そんな何事もなく無難に終わる展開などあるはずがなかったのだ。


(そうだよね、ゲームだったらここってある種ダンジョンみたいな扱いになってると思うし。じゃあ最上階まで行かないと目当ての品とか手に入らなかったりするよね。

 ダンジョンだったら敵も出てくるし。そう考えればここの現状はそこまでおかしくないなって思えなくもないんだよ。ゲームだったら)


 最上階に辿り着いて、ユッカはとりあえずそうやって自分自身に内心で言い聞かせるようにしていた。


 だがしかし生憎ここはゲームの中ではなく異世界である。

 いくらダンジョンめいていても、ここは村の人たちにとっての食料保管庫で本来魔物が入るわけでもなく、またあのような動く死体だとか人体を使ったであろう最悪の工作が自由に動き回る最低の展示法がされていたわけでもなかった。


 ゲームだったら最上階にはボスがいたかもしれない。

 確かに化け物はいた。

 多分元は人だったんだろうなぁ……と思わなくもない肌色をした、形は既に人ではなくなってしまった物体。


 村の人たちを早々に帰しておいて良かったとすら思う。

 下のフロアで並べられていた死体にももしかしたら知り合いがいたかもしれないが、そっちはまだ原型を大体留めていただけマシである。

 上に一緒に進むにつれて、村の人たちの正気度がぶち壊される結果になっていたかもしれない。


 ゲームだったらボス戦があったはずだが、実際ここにいた化け物はフォリスによって早々に倒された。


 死体を使って作られているのなら、防腐処理をしているかどうかはさておきここは確かに置いておくには丁度いい場所なのだろう。安置所的な意味でも。

 フォリスが操る蒼い炎は周囲の気温をぶち上げるような事にはなっていないが、明確に敵とみなした相手を燃やし尽くすもので。


(要するに、相性は悪くなかった。弱点属性とかそういう意味で。うん、だからここに来るまでに大怪我をするだとか、そういう事もなかった。それは素直に良かったと思う)


 ユッカもロゼもディオスもフォリスも、皆無事だ。

 それについては本当に喜ばしい事だと思う。


 だが、良い点はそれくらいだった。


 最上階にいた化け物は別にボスみたいなものではなかったようだし、最上階に辿り着くまでのフロアに保存されていたであろう食料はほとんど駄目にされていた。

 粉々、とまではいかなくとも化け物が噛り付いたりしたらしく、中途半端に食べかけな状態で床にぶちまけられていた。可食部分が残っているとはいえ、流石にそれを拾って村の人たちにお届けするのは嫌すぎる。

 真実を知らない村の人たちだって、明らかに何かが齧ったであろう形跡のあるものを渡されても困るだろうし、それをやらかしたのがネズミどころか化け物だとなれば、なんでそんな物持ってきたんだとなるだろう。

 ユッカだったら間違いなくキレる。お前はそれ食べられると思って持ってきたって事? ちょっと毒見ってか味見してみてくれる? とか持ってきた相手に言う。

 その上で持ってきた相手が食べるのを拒否るなら、当然ユッカだって食べるわけがない。仮に相手が食べたとしても、食欲失せたからやっぱ食べない、となるだろうけれど。


 ここが気温の低い場所だからまだしも、下手に外に持ち出したら常温になった途端になんかヤバイ菌が増殖したりしないだろうか、とすら思っているのだ。

 いくらリュックの中に保管できるとはいえ、リュックから出して相手に渡そうとしたところでウイルス的なものが活動をしないとも限らないので。


 そう考えると、何故だか途中のフロアに残されていた一部が無事な食料も本当に大丈夫かこれ……という気がするのだけれども。


 ボスを倒して事件解決、というわけにもいかなかったし、何より最上階に来ても食料はほぼ全滅。フォリスが求めていたグラヴィールの実も手に入らなかったという事実。


 つまりは。


 無駄足である。


「…………っ!」


 最上階にいた化け物を倒したフォリスが膝から崩れ落ちて、そのまま右の拳を床に叩きつける。

 まぁそうだろう。そうしたくもなる。

 本来あったはずの採取場所は荒野になり、そのせいで木もなくなってしまった。

 村の人に冷塔庫の中にもあったはずと言われて、あったら持ってっていいと言われて期待をして。

 確かにあったけれど、しかしそれらは台無しにされたのだ。


 それでもあった、という事実にまだ上の方にもあるかもしれないと期待を抱いてのぼってきたというのに。


 全滅。グラヴィールの実だけではなく、ほとんどの食料が無惨な事になってしまっているのだ。


 期待をしていただけに、その反動でガッカリ度合も相当なものだろう。


 まだあるかどうかもわからない、くらいの段階だったならこうはならなかったはずだ。


 この冷塔庫の中に一つもグラヴィールの実がなかった、というのなら。

 最上階に行けばもしかしたらあるかも……なんて思いながらも、しかし途中の階層にもなかったのであれば、上にもないかもなぁ、くらいに期待半分諦め半分くらいだったかもしれない。

 だが、あったという事実が余計に。


 フォリスを絶望に叩き落としたとしても不思議ではなかった。


「まだでス」

「えっ」

「冷塔庫はここだけじゃない。という事は他を探せばもしかしたら……!」

「一体何が貴方をそうさせるの……」


 グラヴィールの実ってそんなに美味しいの?

 とは聞けなかった。その疑問を口に出したところで、どういう答えが返ってくるかなど、わかりきった事なので。


 ゆらりとまるで陽炎のように立ち上がったフォリスは、立ち上がった時の不安定さとは正反対のしっかりした足取りで階段を下りていった。

 ユッカたちも長居をするつもりはないので同じく階段を下りていく。


 行きと違い帰りは化け物も何もいないため、移動はとてもスムーズだった。


「とりあえず一度村に戻って、何があったか説明するくらいはしておいた方がいいよね」

「そうだね。信じてもらえるかは……まぁ、信じるか」

「死体がずらっと並んでるのは見たもんね」


 何も目撃していなければ嘘だと思われたかもしれないが、既に死体があるという事実だけは認識されている。

 その上にまさか化け物がいた、とはすぐに信じられなくとも。


 村の人たちはこの冷塔庫に行くのに徒歩だった。

 つまり、この近くに転移装置は存在しない。


「……ところでロゼ、この重力軽減魔法って通常ずっとかけっぱだったらやっぱ問題ある?」

「え? うーん、そもそもそんなに使わない魔法だから長期間使用についてはわかんないけど……」

「筋力が衰えるとか」

「あるかもねぇ」

「そっか。じゃあ地上に戻ったら魔法は解除か……」


 ユッカの身体は時間が停止された状態なので、そもそも衰えるも何もないのでは? とユッカとしては思いたかったが、しかし重力が軽い事が当たり前だと認識するようになると後が大変なのも理解している。

 身体が衰える事がなかったとしても、心がそちらが当たり前だと認識した結果、普通の状態に戻ってもそれが異常であると見なしてしまうかもしれない。


(やっぱ楽ってそう簡単にできないようになってるものなのかも)


 まぁ今回は膝が死ぬような目に遭っていないので良しとしよう。

 そう考えて納得する事にした。


 行きと違い帰りはあっという間だった。そもそも戦闘がない。移動もユッカがひぃひぃ言いながら階段を上がる事もなく下りるだけだったのでワンフロアの滞在時間は行きと比べると圧倒的に短い。

 呆気ないくらいあっさりと一階に辿り着いて、そうして外に出た。


「…………え」

「うわぁ……」

「おやおやこれは……」


「わーーーーっ!?」


 そして少しもいかないうちに目の前に広がっていた光景に、ユッカたちは早々に足を止めていた。

 悲鳴をあげたのは言うまでもなくフォリスである。


 ここまで一緒に来はしたものの、冷塔庫の中が危険である可能性が高いため、村に戻ってユッカたちを待っていて、と言って帰したはずの男たちがバラバラにされて転がっていたのだ。


 ユッカたちが冷塔庫の中に入ってすぐの事だったのかもしれない。

 大地には血の跡が広がっていて、しかし既にその血は乾きかけていた。


 転がっている男たちの目は恐怖に見開かれている者もいれば、何が起きたのかわかっていないようなものもあった。


 言えるのは、抵抗する間もなかった、という事くらいだろうか。


 先程まで怒りに燃えていたはずのフォリスは転がる死体に驚いて叫び、そのままの勢いで近くにいたユッカにひっしとしがみつく形となった。


「ななな、なんっ、なんで……!?」

「こっちのセリフねそれ」


 ユッカも目の前の光景に唖然として、一拍遅れて恐怖に陥りそうだったもののフォリスが先に取り乱してくれたせいで、すんっと冷静さがログインしてしまった。

 いやまぁ、ここでユッカとフォリスが二人でわーわーパニクったとしてもロゼとディオスがいるから大丈夫だとは思うのだけれども。


「えっ、これ、村に戻ってなんて言えばいいんだろ……」


 ユッカたちが殺した、と思われるとは思いたくないがその可能性もゼロではない。

「う、うーん、一応こっそり戻って村の様子確認した方がいいのかな……」

「こっそりなんでスか?」

「だって戻ってなんて説明すんの? 下手したら私たちが殺したみたいに思われたりするかもしれないし、そうじゃないにしても八つ当たり食らうかもしれないじゃん」

「あぁ……言われてみれば、確かに」


 自分たちではないけれど、残された側からすれば怒りの矛先がそこしかない。

 そうなればまぁ、どうして一緒に塔に行かなかったのだとか、そんな風に言われるかもしれないわけで。


 危険だと判断して安全そうな方にしたのにその結果が死だなんて、ユッカだってその時点で思うわけがない。


(いやでも、こういう展開も映画とかであったような気がするしなぁ……あの時は思わなかったけど今にして思えば……ってなると……結局どうするのが正解だったのかなんてわかるはずもないし)


 仮にあの時一緒に塔の中に入ったとして、化け物相手にやられていた可能性はある。

 ユッカはそもそもロゼに守られているだけで正直何ができるでもない。

 精々隙を見て一度くらい背後から奇襲をしかけるだとかができるかもしれないが、その一撃で相手を葬るような事になるか……と言われるとまぁ無理だろう。

 武器と呼べそうな物を持ったまま外を歩いたら犯罪になるような平和な世界で生まれ育った一般女子高生に高火力な攻撃力を求めるのは間違っている。


 そうなると仮に彼らと共に塔の中に入ったとして、彼らを守る事になるのはフォリスやディオス、ロゼも多少は……といったところだがフォリスは何かあるたび悲鳴を上げたりしていたし、途中からは怒りに任せて突き進んでいたので彼に人を守りながらという行動を望むのは難しいところだっただろう。


 そうなれば残るはディオスだが……

 荒事が苦手であると自称している以上、こちらも万が一の事があった場合、守り切れない可能性は普通に存在している。


 考えてみれば、怪我をするくらいはしても死にはしなかったかもしれない。


 だがそんなのは、今だから思えるだけで。


 考えたところでこれが正解だ、なんて答えが出てくるわけでもない。


 ともあれ、ユッカたちは一度来た道を引き返して村に戻ってみる事にした。

 あくまでこっそりと。



「……いや、あの、さぁ?

 まさか村の方も全滅してるとか思わないじゃん……?


 どーすんのこれ……」


 そうして戻った先の村で見た光景は。


 血の海の中で身体の一部が欠損した状態で事切れている村の人たちであった……

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