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ロゼとユッカ~二人がおうちに帰るまで~  作者: 猫宮蒼
三章 それはさながらゲームのような

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入手失敗



「いやーーーーっっっっ!!」


 あーやっぱりなー、なんて思いながらユッカは耳を塞いでいた。

 助けを求める声の方へと進んでみれば案の定、そこにいたのは人ではなかった。


 一定の間隔、一定の声量、平淡な声音。

 ひたすら淡々とたすけてーと声をあげるそれは、一部人の形をしていると言えなくもなかったが、端的に申し上げてクリーチャーである。


 階段をのぼりながらも、ユッカは薄々、

(なんかあれだな、じいちゃんが遊んでたホラーゲームに似たようなのいたな……

 人の声を真似たゾンビみたいなやつ……)

 なんて思うようになっていた。もしその記憶がなければ、人が助けを求めていると素直に思ったかもしれない。


 だがまるで録音した音声を延々ループして流しているかのような救援要請は、そんなユッカの祖父との記憶を呼び起こしたのだ。

 ちなみにユッカはホラーゲームに関しては大半祖父のプレイを隣に座って眺める派である。何故って苦手なので。


 怖い物は嫌いではないが、アクション要素のあるゲームはあまり上手とは言えないので自分でプレイすると話の先が気になっても何度も死ぬのを繰り返し、先が気になる気持ちと上手くプレイできないストレスが溜まるのでアクションと謎解きが融合したタイプのゲームはもっぱら見る専門である。

 ホラーじゃないアクション要素があるゲームはそこまで苦手でもないのに、ホラーになるとてんで駄目だった。


 ともあれ、上のフロアに辿り着きユッカが見たものは、大きな鉢植えに刺さっている人らしきものだった。

 足はどこまであるのか不明だが、刺さっているのは太ももあたりからだ。

 鉢植えの大きさから多分膝のあたりまではありそうだが、その先についてはわからない。

 腕はなかった。そして首も。

 胴体部分だけが植えられている、と言えばわかりやすいが同時に悪趣味極まりない代物である。


 首がないのならどこから声を発しているのか。


 その答えは簡単だった。


 首から上の顔はない。だがしかし、首があったであろうそこに縦に裂けるようにして口があった。胴体の中心近くまであるその口は人とは異なる牙を生やしている。


 これまたホラーゲームに出てきそうなクリーチャーだな、という感想しかユッカには出てこない。


 そしてそれを見たフォリスはユッカの予想を裏切ることなく悲鳴を上げたのである。


 ただ、この一定間隔で淡々とたすけてーとのたまう化け物は鉢植えから出られないようだった。


「ロゼ」

「う、うんっ」


 ユッカが声をかければロゼは一瞬そのクリーチャーを見て慄いていた様子だったがすぐさま我に返り、魔法を発動させる。


 動けない化け物が助けを求めている。

 この化け物が人に対して友好的な存在であればまだしも、どこからどう見ても友好的そうな見た目ではない。

 首があったはずの部分から裂けるようにして存在している口はそのまま人の頭からパクッといきそうなものなのだ。赤ん坊くらいなら一口でいきそう。


 仮に鉢植えから抜け出て歩き出したとしても、手がないため転ばせる事ができれば多少の隙を確保できそうではあるけれど、凶悪としか言いようのない牙が生えた口以外にも危険がないとは限らないので、正直なところあまり近づきたいものではなかった。


 そんな化け物が動かず助けを求めているだけならば、あんまりよろしくないけれど、まだいいと言えなくもない。


 だが普通の人はこんなものを見た時点で、助けてあげなきゃ、と思うわけがないのだ。


 であるのなら。


 これに驚いているその隙を狙って、他の何かが襲ってくる可能性は充分にある。

 ホラーゲームのお約束みたいなものだ。


 だからユッカはロゼに声をかけた。

 我に返ったロゼの魔法は、まさに今、天井からユッカたちを急襲しようとしていたもう一体の化け物を吹っ飛ばしたのである。


「うわっ、まだいたんでスか!?」


 悲鳴を上げていたフォリスは上からやってきたもう一体の化け物には気付いていなかったようで、はわわ……とユッカにしがみついた。自分よりも大きな相手がしがみついてきた事で思わずよろけたが、ロゼがフォリスに肉球パンチをした事で解放されたのでどうにか踏みとどまる。


 上から襲ってきた化け物は、大層趣味の悪い見た目をしていた。

 いくつかの人の胴体を寄せ集めて丸めたところに、手や足を無作為に生やしているのだ。

 蜘蛛……に見えない事もないが、工作が苦手なこどもが無理矢理形を整えようとした結果失敗しました、としか言えないような見た目である。


「悪趣味ですね」


 最後にやってきたディオスがそれらを見て言い放つ。


「これを素敵とか思う感性の持ち主とは仲良くなれそうにないかな」


 むしろ目を輝かせて素敵! なんて言い出そうものならユッカはそっとそいつとは距離を取る。

 ロゼがそういった感性の持ち主じゃなくて良かったとすら思っていた。

 ロゼとは距離を取るわけにはいかないので。


「たすけてー」


 上から襲ってきた方はぶっ飛ばしたものの、鉢植えにいる方はそのままだった。


 だからこそ、ディオスはその声が聞こえたと同時に魔法を放つ。


「たす」


 言葉は最後まで言えなかった。


 ディオスの放った魔法は黒い球体の形をして、鉢植えの化け物に当たると同時に化け物を吸い込むようにして消失したからだ。


 上から襲ってきたやつ以外にもまだいないだろうな、と思ってユッカが周辺を見回すが、どうやらこのフロアにいたのはこの二体だけのようだ。


 下のフロアには一応食料があったものの、このフロアには化け物以外に何もない。


「どういう回収の仕方してんの……?」


 てっきり下のフロアに食料があったのなら、ここから上のフロアにはまだあると思っていたのに。


「ってか、もしかしてこの上にもまだいるかもしれない、って……こと?」

「可能性はゼロではないでしょうね」

「そこは嘘でも否定してほしかったなぁ」


 ディオスが即座に言うものだから、まぁ確かにゼロ以上にありそうなレベルの可能性だけどさぁ、とユッカも嘘でも否定はできそうにない。誰かに嘘でもいいから無いって言って、と言われてもちょっと難しいなと思っているのでユッカとしてはあくまでも気休め程度に望んでみただけなのだが。


「鉢植えにいた奴はさておき、こっちみたいなキモいクリーチャーが塔の中から出てこないって約束されてるならまだしも、そうじゃない可能性の方が高いよね?」

「寒冷地でのみ生息可能、とかでなければいずれは出るでしょうね」

「じゃあやっぱここで引き返すわけにもいかないか……」


 ユッカ的には引き返したい気持ちも勿論ある。

 あるけれど、そうして引き返して、その後どうするのかという話だ。


 一応少しだけゲットした食料を村に届ければ、ひとまず感謝はされるだろう。

 けれども、同時に塔の中で見たものについて聞かれるのは避けられない事態で。


 この一件をユッカが解決する必要はどこにもないが、だからといって中途半端なところで手を引く事になるのも後から気になってもやもやするのは間違いない。


「おのれ階段……こいつが一番の難敵なんだわ……」


 もしかしたらユッカがそれでもやっぱ戻ろうよぉ! なんて泣き言を漏らせばロゼやディオスは賛成してくれるとは思う。ただ、そうなるとフォリスが一人ここで上を目指す事になるのか、それとも一人は嫌でス! となって一緒に引き返す事になるのか。

 引き返した場合フォリスはグラヴィールの実が手に入らなかったという事実が残り、あそこで引き返すなんて言わなきゃさぁ……なんて思うかもしれない。


 仮に一人残ると言い出したとしても、危険度が高そうな場所に一人置いてきた、というのはユッカとしても後々心にもやもやしたものを残す事になるだろう。


 フォリスはロゼの弟子であるイシェルの友人という話だし、ここで彼との関係を悪くするのは得策ではない。

 この先がもっと危険で、皆がいても問題しかないくらいになればフォリスだって引き返す事に反対はしないだろうけれど、今の時点ではまだそこまで危険性を感じていないはずだ。


 ユッカだけなら間違いなくこんなところにいたら死ぬのが確定しているようなものだが、ロゼやディオスはそこまで危機感を抱いてすらいないのだ。

 ロゼが引き返そう、と言うのならユッカだって従うけれど、ロゼがそう言いだす様子は一切ない。


 いいんだね? 大丈夫なんだね? 信じてるよロゼ。


 そんな気持ちのまま、重く感じる足を階段に乗せていく。


 次のフロアにフォリスが求めているグラヴィールの実があれば、危険かもしれない更に上のフロアに行かずしてこの塔を脱出し、村の人たちには危険だから封鎖した方がいいと思う、なんて言えるかもしれないけれど。



「あっ、あっ、ちょっ、何して、あっ、あーっ!!」


 そうして階段をのぼり次のフロアに辿り着いたわけなのだが。


 そこにもやはりクリーチャーとしか言えない代物が存在していた。

 首が捻じれている人型の何か。背中側に顔がある。更に手が複数取り付けられており、正直に言ってとても気持ち悪い。


 そんな気持ちの悪い化け物が、凍った食材に手をつけている。


 手にして冷たいからか反射的に手から離すだけならまだいい。

 だが、冷たさに勢いよく投げ捨てるようにしているのだ。

 食べ物を思い切り粗末にしている。凍っているから大丈夫、というわけにもいかなかった。


 相当な力で叩きつけているのか、凍った食材が衝撃で割れたり砕けたりしている。


 そしてその中にどうやらフォリスが探していたグラヴィールの実があったのだが、それも化け物が手にして床に叩きつけていた。

 ばこっ、という固い音を立てて凍った実が粉々に砕ける。


 それだけなら、まだある程度の欠片を回収して綺麗に洗って解凍すればワンチャンあるかもしれなかったが……


 よりにもよってその化け物はそれら破片の上を力強いステップで動き回り、更に粉砕していったのである。


 化け物が手にしているのがグラヴィールの実だと気付いたフォリスはどうにかそいつから奪い取ろうと思ったようだったが、それよりも先に化け物は凍った実を叩きつけ粉々にした挙句上でどっすんばったん大騒ぎ状態なのである。


 下のフロアなどで上げていた悲鳴とはまた別の叫びがフォリスから上がり――


「ふざけんじゃないでス! 生きてることを後悔させてやりまスからね!」

 人差し指を化け物に向けると同時に、蒼い炎が浮かび上がった。


 バン! と引き金を引くようにフォリスが指を動かせば、蒼い炎は複数に分裂して化け物の手に飛んでいく。

 強制的に蒼い炎を握らされる事となった化け物は、凍った食材同様に炎も叩きつけて手から離そうと試みたようだが、炎は決して離れないままじわじわと温度を上げていったようで、化け物からキーと細い悲鳴が上がった。


 まるで紙でも燃やしたみたいな燃え方をして、化け物は徐々に燃えていく。

 こちらに向かって化け物が何かをするよりも燃え広がる方が圧倒的に早すぎて、ユッカが「うわ」とか言ってる間に化け物は焼失した。


 床には粉々になった食材の欠片が散らばっている。グラヴィールの実だけではない。他にもあった野菜や果物、肉に魚。それらが欠片となって散らばって、床の上で最悪なミックスをされていた。


「あっちゃぁ……これはあきまへんわ……」


 大阪のおばちゃんが宿ったかのような言葉がユッカの口から零れ出る。もしかしたら京都のおばちゃんかもしれないが、この際それはどうでもいい。


「ねぇこれ魔法でどうにかなったりする?」

「ちょっと無理かなぁ」

「そっかぁ」


 もうちょっと原型留めてればどうにかなったかもしれないけど、流石にここまで粉々にされたらちょっと、とロゼが言うので、折角見つかったグラヴィールの実は手に入れる事ができなかった。


 いや、仮に原型を留めていたとしても、化け物の手から奪ったやつを食べたいか、となると正直ユッカ的には遠慮したいのだけれども。

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