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ロゼとユッカ~二人がおうちに帰るまで~  作者: 猫宮蒼
三章 それはさながらゲームのような

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間違った使用法



 ワンフロアの天井が高いという事は何を意味しているか。


 次の階に行くまでの階段の段数もその分多いという事だ。


「おのれ……どうしてエレベーターやエスカレーターがないのか……どいつもこいつも健脚アピールか……おのれ……」

 壁に手をつきながら、一歩一歩ゆっくりとのぼっていく。

 ユッカは他と違い戦闘に参加しているわけでもないので、体力的な意味ではそこまで消耗していないけれど、だからといって元気いっぱい階段を駆け上がれるかと言われると無理だ。

 既に膝あたりに重さを感じている。


「ああいったものは動力源の確保ができないと設置したところで意味がありませんからね」

「そうなんだけど! そうなんだけどぉ!」


 先を行くディオスがそんな風に言うものだから、あっ、この世界にも一応あるにはあるんだ……と内心で感心する。正直今の今まで足を運んだ地区でそんな文明の利器みたいなものは見かけなかったので、もしかしたら無い可能性を口に出してから「あっ」と思ってしまったので。

 存在が不明な物を口に出せば、それなぁに? と聞かれるだろう事は、想像に容易い。

 折角この世界の住人の一人を装おうとしているのに化けの皮が早々に剥がれるのは流石に問題である。

 既にディオスにはユッカがソルシエルロスではないと見抜かれているだけに、余計に。


 けれどもユッカにはこの世界の事などほんの少ししかわからないので、多分この先も知らずにボロを出すのだろう。ロゼのフォロー力に期待したいが、彼女も彼女で若干世間知らずな一面がある。

(いっそ空想と現実の区別がつかないお花畑キャラに転向するべきか……!?)

 疲れているからかどうでもいい事を考えてしまう。


(いやでも、偽装天然か電波キャラを装うのも大概なんだよね。表面上を一時的にさらっと、くらいならどうにかなりそうだけど、ずっとそのキャラ続けろって言われたら私には無理だ)

「ユッカ、どうかしたの?」

「あぁ、いや、なんでもない。今己の演技力と相談してた」

「演技力?」

「割とどうでもいい事だからホント気にしないで」


 階段をのぼっているだけだが、表情がコロコロ変わるユッカに何か気になる事でもあるのだろうか、と思ったロゼが問いかけるも、ユッカの返事はなんでもない一択である。

 大体今からキャラチェンしようと思うんだ、とかロゼだって言われたところで困るだろう。


 どうにか長い階段をのぼって、次のフロアへと到着する。


「うーわ」


 次のフロアにも、いくつかの死体が置かれていた。


「いやもうこれよくよく考えたら食料保管庫扱いだけど、死体があるって時点で食料保管してるのヤバくない? なんか変な病原菌とか付着したりしてない? そんな食べ物持ち帰って大丈夫? 気持ち的に私だったら食べたくないんだけど」


 最早落ち着いて考えるまでもなく、思った事が口から素直に飛び出てしまう。

 塔の中はひんやりとした温度なので、外と比べればまぁ、食料を保存するのは大丈夫そうだなぁ、とは思った。ここに足を踏み入れた時点でちょっと寒いな、とも思ったが死体が動き出した事で寒いだのなんだのという気持ちは遠い彼方へすっ飛んでしまったのだ。

 その後にロゼが魔法を新たにかけてくれて、温度調整されたのか今のユッカは寒いとも何とも感じていない。


 なのでこの塔においての敵は階段くらいなものなのだが、それはそれとして食料がある所に死体はどうなのと思うわけで。


 以前にもここから食料を調達していったのか、このフロアにも食料らしきものは存在していない。


 ただ、下のフロアと違い死体は並んでいるには並んでいるが、立っていた。


 下のフロアにあった死体はいかにも死んでいますよとばかりに寝かされた状態で並んでいたというのに、ここのフロアの死体はマネキンか何かのように立っているのだ。


 ここの死体も身体の一部が欠損したものが多い。

 けれども死臭というようなものはなかったし、血も滴り落ちているわけではない。


 そのせいで余計にホラー映画か何かに使う大道具のように見えてしまっていた。

 現実味があまりになさすぎたのだ。


「ねぇこれも動くとかなんじゃないの……ほらやっぱりー!」


 下の寝かされて並べられていた死体ですら動いたのだから、ここのもきっとそうなんだろうと思って口に出せば、正解おめでとう! とばかりに死体は一斉に動き出した。

 一人だったら絶対泣いてた。けれどもユッカが泣きわめくよりも先に、フォリスがまたもや悲鳴をあげて炎でもって焼き払ってしまったので、ユッカが驚いたのはほんの一瞬で済んだ。


 ホラー展開のはずなのに容易くクラッシュされてしまっているが、ユッカとしては別にホラー体験がしたいわけではないので無問題である。


「うわやだもー、なんでこんなところで動く死体量産されてんのマジ意味わからん」

「まったくもって同意でスね。動く死体が怖いんじゃないでスよ、突然動いて脅かしてくるのがイヤなんでス」


 こちらも早々に倒し終わったが、一足先にフォリスは離脱しユッカを包む障壁の中にお邪魔していた。


「入れるんだ」

「敵とみなしてないからね」

「そっかー。

 じゃあもしここでフォリスが豹変して敵対したらどうなんの?」

「弾き飛ばされるよ」

「へー」


 味方の振りして敵だったパターンだったらこの障壁意味なくない? なんて思って質問すれば、ロゼは事も無げにあっさりと答えた。

 なぁんだ、じゃあ安心……かな?


 なんて思っていれば、

「しませんからね!?」

 と、フォリスも敵対するつもりはないとばかりに叫ぶ。


 なんだったら自分で自分を抱きしめるようにして叫んでいる。


「一見すれば柔い障壁に見えまスけど、この障壁相当でスよ!?

 冗談でもそんな事した時点で大怪我必至じゃないでスか!」


 しないよ!? しないからね!? と念を押すように言ってくるので、ユッカはパッと見頼りない障壁だけど大丈夫なのかなぁ……なんて思っていたのを少しだけ反省した。

 見た目は頼りなさそうに見えてもその実相当だとフォリスが言うのだから、相当なんだろう。そんな雑さで納得した。


「見たとこさぁ、死体のほとんどはなんかさっきの村の人たちみたいな感じだったよね」

「えー、あんまり思い出したくありませんが、まぁ確かにそうだったのかも」

「もしかして他の町や村がある場所も突然荒野になったりしてたとか? そのせいで食料の確保が難しくなって、塔まできた」

「その考え方はそれなりに自然かな」

「そうでスねぇ……たとえ自分が住んでる場所がもう駄目だ、ってなったとしてもその駄目度合によっては同じ地区の他の町や村に移動するだけで済むのか、はたまた今住んでる地区を出て他の地区へ行かないとダメなのか……

 明らかな天変地異でもあったなら地区から逃げるでしょうけれど、周辺がちょっと荒野に変わっただけ、であるのなら他の町や村に移動するくらいで何とかなると考えただろうし、そうでなくとも冷塔庫があるなら食料問題はどうにかなると思われている。


 であれば、そこまで危機的状況だと思わず留まる事を選ぶでしょうね」

「崩落の予兆があったとかなら出てっただろうけどね」


 すっかり動く死体はなくなったが、何やらディオスがあれこれ調べているようなのでそれを眺めつつユッカたちは現状について状況確認ついでに話し合う。

 話し合う、と言っても何がどうなってこんな事になったのかまではわかっていない。全部ただの推測だ。


 それでも思い切り外れていると言う感じはしていない。


「地区にある町とか村って基本的に自給自足なわけ?」

「そういうところが大半でスが、地区内の町や村での商売などは普通にありまスよ」

「別の地区とのやりとりは?」

「あまり密接ではないでスねぇ……そもそもいつ移動するかもわかりませんから。勿論、それを承知の上で様々な地区を移動する商人などもおりまスが」


「基本的にその地区で生まれ育った者の大半は他の地区へ行く事なく生涯を終えたりしますからね」


 何やら調べていたディオスが会話に入ってくる。

 なんかわかった? とユッカが聞いてみるものの、ディオスはそっと首を横に振る。


「わかった事、というか……ここにいる者たちは死体というよりパーツになっている……というくらいでしょうか」

「パーツ?」

「えぇ、身体の一部がとられているにも関わらず血が出ていないのは時間経過によるものもありますが、既に変質しているから、というのもありますね」

「だからにおいがしなかった、って事でスか?」

「それもあります。というか、いくらここが冷塔庫と呼ばれて外と比べて涼しい場所とはいえ、死体を置くには不十分でしょう」

「それは確かに」


 安置所みたいに一時的に、というのならまだしも村の人たちの話ではそこそこ前に出ていって戻ってきていない者もいるのだ。その『前』にここに向かった者がやってきてすぐ死んだとして、であればいくら涼しい場所だからといっても腐敗は免れない。


「あとはそうですね……この塔に流れている魔力も探ってみましたが、上に行くにつれて温度は下がっているようです」

「言い得て妙って事ね冷塔庫」


 今くらいの温度なら冷蔵庫くらいかな、と思えるが、上に行けば行くほど冷えるというのなら、冷凍された食料が保管されているのだな、とユッカだってそれくらいは理解できる。


「えっ、寒さに耐えきれるかな……」

「そこは魔法でどうにかできるから心配しないで」

「助かる」


 ロゼがいなかったら今頃もう死んでるんじゃないだろうか。割と真面目にそう思えてくる。


「じゃあ……あんまり気が進まないけど上に行くしかないって事ね」

「流石に全部の階死体ばかり、って事にはならないと思いたいんでスが……」

「周辺の町や村からどれだけの人がここに来たかによる、けど……まぁ、そんだけ大量に戻ってこないとかだと流石にもっと大きなニュースになってるか……」


 ここに来る道中、村の人から色々と話を聞いた結果、冷塔庫で何かがあったというよりは、途中で魔物に遭遇して命を落とした可能性も考えられていた。

 それ以前に周辺を荒野に変えた魔女の存在もある。


「こういう時情報伝達の拙さが痛いですな……」

「伝達魔法自体あるにはあるけど、万能ってものでもないからね」

「そっかぁ……」


 なんかわかんないけど、携帯電話が普及する前の固定電話しかなかった頃くらいの感じかな? そんな風に思うも、口にしたところでロゼが肯定してくれるかはわからないし、そもそも否定される以前に電話ってなぁに? とか言われても詳しい説明はできないので。

 ユッカはなんとも言えない表情のまま頷くだけだった。

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