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ロゼとユッカ~二人がおうちに帰るまで~  作者: 猫宮蒼
三章 それはさながらゲームのような

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どっかいって不穏さ



 ユッカとて好き好んで巻き込まれにいっているわけではない。

 ただ現状、元の世界に帰るために必要なアイテムを手に入れないといけないわけだが、その必要なアイテムの入手は未だゼロ。どこに行けば入手できるか、という場所がわかっているものもあるけれど、しかしどこで手に入れられるかわからない物もあるとなれば、ゲームのお使いイベントの如く、様々な事に首を突っ込んだ方が見つかるかもしれないと考えているのだ。


 ストーリーの本筋に関係ないイベントとかで何気に重要アイテムをゲット、なんて事もゲームなら割とよくある事だし。

 ……ここがゲームではない事はわかっているが、そういう風に考えないとやってられない。何故ならここが異世界であるが故に。


 入手場所がハッキリわかっている地区まで行くにしても、今ユッカたちがいる場所から転移装置を使ってもすぐに行けそうな距離にはないようなので、であれば当面は適当に色んな地区を移動するしかないわけだ。


 冷塔庫なんて別にユッカは行かなくてもよさそうではあるけれど、食料と一緒にそれ以外の物も保管されてたりするかもしれない。その、それ以外の物、にもしかしたらユッカが必要としている物があるかもしれない。


 ……普通にないだろうなとは思っているが、可能性はゼロじゃないので思うだけならタダである。あったらむしろ飛び跳ねて驚くつもりですらいる。


 村の男衆と共に移動して、道中にいくつかの話を聞かせてもらう。


 かつてこの地区には大きな人が住んでいたのだと言う。

 巨人? とユッカが問えば、流石にそこまでではない、とからりと笑われてしまった。


 男たちの背丈は低い者でもユッカよりは高く、一番背が高い者はフォリスと同じくらいだろうか。ディオスよりは少しばかり高い者もいたけれど、そんな彼らが自分たちより大きい、なんて言うものだからてっきり巨人を想像してしまったが、彼ら曰く、大体三メートルくらいとの事だった。


 ……確かに大きくはある。

 ユッカの世界でもそこまでの身長の持ち主はいなかったはずだ。ギネスで世界一高身長、というのがどれくらいだったかは憶えていないが、それでも確か三メートルまではいってなかったように思う。

(うーん、なんというかこういう時、スマホやパソコンが使えないのは不便だなぁ……)

 手元にあればパパッと調べられるのに。

 そう思ったところでどうなるものでもない。


 結局この地区に以前までいたという大きな人たちは、男たちのように通常サイズの人が増える前に他の地区へ移り住んで行ったのだと言う。

 追い出した、というわけでもなく、単純に大きな人たちにとってこの地区が住みにくいものだったからだそう。


 生まれはこの地区でも、そこで生きていくには不便だった。

 なんとも世知辛い話である。


 そうはいっても、この地区にかつて大きな人たちが住んでいたという事実は残る。

 いた、という記録だけではない。

 彼らが生活をしていた痕跡。


 冷塔庫はその一つだった。


 大きな人たちは、その身体に反してあまり食べ物を口にしなかった、と記録には残っている。

 おっとり、のんびりとした種族。だからこそ今この地区で暮らしている人たちとも共存はできていた。


 いた、のだが、しかし大きな人たちは狩りが得意ではなかった。

 おっとりとしているからか、そもそもそういった狩猟本能のようなものがなかったのかまではわからない。


 けれども、彼らは日がな一日食料を集める作業に従事していた。

 そうして集めた食料を冷塔庫に保管して、必要に応じて摂取するようにしていたらしい。


「実際冷塔庫はこの地区にいくつかあるんだ」

「へぇ……え、でも食料集めが苦手なのにそんなに確保できるものだったの?」


 男の話に相槌を打って、ふと浮かんだ疑問を口にする。


「あぁ、数日は食べなくても大丈夫、って話だったみたいだから。その間に極力食料を集めて、必要な時に少しずつ……らしかったな」

「俺らもじいさんから昔話みたいに聞かされただけで詳しくは知らないんだけどよ、大昔のご先祖様も手を貸してたって話だ」


「へぇ~」


「だから、彼らがこの地区を去る時に冷塔庫の食料はいざとなった時の俺らの保管庫となった、ってわけだ」


「なるほどね~」


「そうはいっても突然荒野になったりしてるから、塔の中がどうにかなっててもおかしくないんだよな……」


 男たちが口々に不安めいたものを吐き出す。


 確かに突然草原だった場所が荒野になるなんて、普通であれば想像もつかない。

 自然が消えていくにしても、段階を踏んでいくはずだ。

 森を切り開くだとか、道路やトンネルを作るだとか。

 そういう何かをした上で自然が消えていくのであればわかる。

 だが、ここで起きている現象はそうではない。


 何が原因かもわからないとなれば不安になるのは当然だし、ユッカだって自分がその立場になっていたら何が起きているのか常に不安になっていたかもしれない。

 最悪な状況であっても原因がわかっているのといないのとでは、心構えからして違ってくるわけだし。



 道すがら、この地区の事を色々と聞きながら進んでいくうちに、目的でもある冷塔庫へと辿り着いた――のだが。



「いや何これどういう事なのさ」


 淡く輝くドーム状の光の中にいながらユッカは思わずそう零していた。

 ユッカを包むようにしているのは障壁であり、ロゼの防御魔法の一つだ。この中にいる間は安全であると言われているが、正直安心感は薄い。


 何故って、いつこの光をぶち破られるか気が気じゃないのだ。

 ロゼの実力を信じていないわけではないが、光がふわっとしたものなせいでどうしたって不安が残る。


 ユッカたちが冷塔庫へと辿り着いた時、塔の近くにぽつんと一人の男がいるのが見えた。

 何故だか置かれているイスに座り、塔を見ているようだった。座っている男はこちらに背を向けた状態なので、顔は見えない。


 草原あたりはぽかぽかとした気温だったが、荒野になった時点で風は乾いたものだったし、穏やかな気候というよりは少しばかり涼しいとも言えた。

 更に村の男たちはこれから冷塔庫へと入るのだ。塔内部が寒いというのはわかっているために、完全防寒である。

 だというのに、イスに座ったままの男は上半身裸であった。


「おーい」


 男の一人が声をかけるも、座っている男はピクリとも動かない。

 聞こえていないのか、聞こえていてもあえて無視をしているのか……一切の反応がないせいで、男たちは顔を見合わせた。


「ありゃ誰だ」

「さて、うちの村のもんじゃなさそうだ」

「他のとっから来たんかね?」


 各々が喋っている声は、潜めたわけではない。結構普通に、というかそこそこ大きな声での会話だった。

 だから聞こえていないわけはないはずなのだけれど――


 座ってこちらに背を向けたままの男は、一切何の反応もしなかったのだ。


「もしかして怪我をして気絶してる、とか……?」

 もしくは寝ている、というのも考えた。

 だが寝ているのであればあの体勢のままというのもどうかと思う。

 眠っているのであれば、首が前後どちらかに傾いていてもおかしくはない。はたまた左右に動くだとかしていたっていいはずだ。


 しかし彼は姿勢を崩すでもなく、普通にイスに座ったまま。


 男たちは防寒対策としてそこそこ着込んでいるせいか、歩みは若干遅かった。それ以外の荷物も背負っているのもあってユッカたちの方が身軽と言ってもいい。


 なのでユッカは、まぁロゼもいるし……とそこまで危険な事にはならないだろうと判断した上で、小走りでイスに座る男の方へ駆け寄っていった。


「あ、ちょっと」


 それに対して心配したのか、フォリスもまたユッカの後をついてきた。


「すいませーん、ちょっとお聞きしたいんですけど――」


 言いながら背後から回り込むようにして男の前に立つ。

 それとほぼ同時にフォリスも追い付いて、ユッカの隣にやってきた。


「ひ……ひアーーーーーー!?」

「わーーーーーーーーっ!!」


 叫んだのは同時だった。

 思わず反射的に隣にいたフォリスにしがみつきそうになって、またフォリスも同じようにユッカに縋りつこうとしたためか、二人揃って手と手を取り合うように身を寄せる形となっていたが、最早そんな事はどうでも良かった。

 ユッカの肩に乗っていたロゼが「わぁ」と耳を伏せて絶叫と言ってもいい叫びを遠ざけるように首を振っていたけれど、ユッカはそんな事すら構う余裕がなかった。


 座ったままの男は死んでいた。


 ただ死んでいるだけなら、そこまで叫ばなかっただろう。

 いや、ユッカは別に死体を見慣れているというわけではないのだが、驚きはしてもここまで叫ぶ事はなかっただろう。


 男の死体は目がくりぬかれていた。

 それだけではない。

 胸の少し下から腹のあたりにかけて切り裂かれており、内臓が取り去られていたのである。


「はぁ!? バッカじゃないの!? なんでこんな所で死んでるわけ!? 魔物? 魔物なの!? いやでも魔物こんな殺し方する!? しねぇよなぁ!?

 ってかこんな死に方してんの涅槃でしか見た事ないんですけど!?」


 あまりの衝撃映像にユッカは恐怖をどうにか誤魔化そうというようにまくしたてる。


 ちなみに涅槃は仏教のやつではなく、祖父が遊んでいたフリーゲームである。じいちゃん何してんの? と興味本位で隣で見ていたら中々の内容でひょわぁ……と情けない声を何度漏らした事か。

 なお祖父はこのゲームの続編があるにはあるが、完結していないという事実にしょんぼりしていた。

 でもお金払って購入したゲームで未完成は怒りを覚えるけど、これは個人製作のフリーゲームだから完結できてなかったとしても、まぁ……としょんぼりしつつも己をどうにか納得させようとしていたのだ。


 いっそ完結していれば終わった……! という解放感があっただろうに、途中で未完状態なせいでこの先どんな恐怖展開があったのかと様々な想像が留まるところを知らず、ユッカはその後少しだけ日常生活に支障が出た。

 クトゥルフ要素があったのもイヤな想像が留まるところを知らなかった原因の一つだろう。


 それでも他のグラフィックが可愛いゲームやほのぼのした内容のアニメや漫画を読んでどうにか忘れようとしていたのに。


 まさかこんな所で記憶の底に沈めたはずの思い出が浮上するとは夢にも思わなかった。


 一人だったらうっかり発狂していたかもしれない。まさしくSAN値がピンチ。

 とりあえず他に同じように絶叫して一緒に驚いてくれたフォリスという存在が近くにいた事で、ユッカが発狂する事は回避できた。

 というかユッカと手を繋ぎ合わせ小鹿のようにピルピル震えている図体のでかい野郎を見て落ち着いたまである。


 パニックだとか、怒りだとか。

 少なくとも自分以上にそういう状況になっている人を見ると冷静になるって本当だったんだな……とまさしく今、身をもって実感したのだ。


 すん、と落ち着きを取り戻し、ユッカは一先ず周囲を見回す。

 別段殺人鬼が潜んでいるだとか、そういうわけではなさそうだ。

 そもそもこの周辺にそんな身を隠せそうな場所はない。


 そして目の前の男は確かに死んではいるけれど、血が滴っているわけでもない。

 この場で切り裂かれたというわけではなさそうだ。

 というか、死臭だとか腐敗臭というような嫌なにおいはしていない。


 別の場所で殺されて、ここに運ばれた……?

 何故。


 そんな風に考えるも、すぐに思い直す。


 そもそもこの世界には魔法があるのだから、それでどうにかされているのではないか。


 そう思ってしまえば、何故、という疑問は消える。

 これで魔法が使われた痕跡がないとかロゼに言われでもしたら「なんで」となるだろうけれど、そこを深く掘り下げたいわけではないのでユッカの中でこの男は魔法を用いてこうなったのだと思う事にする。


 ともあれ、二人揃って悲鳴を上げた事で男たちもなんだなんだとやってくる。

 そして椅子に座ったまま凄惨な死に方をしている男を見て一様に表情を歪ませる。


「な、なんだこりゃ」

「一体どうしてこんな……」

「おい、こいつあっちの村の奴じゃないか?」

「あぁ? 言われてみればそんな気も……」


 身元を正しく把握しようにも、顔から目がなくなっているせいか、ハッキリこの人だ、と断言ができない。それでももしかして……? と思える相手がいたらしく、男たちは口々に何やら話していたけれど。


「どうしてこの冷塔庫の前に放置されたんですかね?」

 ディオスのぽつりとした呟きはまるで水面に石を投げた時のように周囲によく聞こえてしまい、直後にはしんと静まり返った。水面に波紋が広まっているのをじっと見ている時のような、なんとも言えない沈黙が続く。


「魔女」


 果たしてその言葉を呟いたのは、誰が最初だったか。


 草原を荒野に変えた者。

 どこにいるかだとか、そういった事は明確にはわかっていないけれど。


「……確かに居そうではある」


 塔を見上げてロゼがそんな風に言うものだから。


 ひぇっ、と男たちは一斉に情けない悲鳴を上げたのである。

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