折角なので、じゃあ
Q どうしてここいら一帯が荒野になったの?
A 恐らく魔女と思しき存在がやらかした
恐らく、というあたりがなんとも曖昧だが、村人たちの話から正体はハッキリとはわからなかった。
ただこの村の周辺は今まで緑豊かな土地だったのにこうも変わってしまったのだから、それなりに力ある存在であるのは間違いない。
女だった、という所で魔女と仮称しているが魔女かどうかも定かではない。
正体不明な女、というにはあまりにもアレなので魔女と呼んでいるに過ぎなかった。
ただ、まぁ。
同じく魔女であるロゼの表情は……まぁ猫ちゃんだがそれはそれで不機嫌そうだ。
確かにこういう所で魔女が悪い事をして、周囲の評判を下げると他の魔女までそう思われる、というのもあるだろう。
村人たちの話によると、その魔女と思しき存在が周囲の緑を枯らしていったのだとか。
その結果、畑は死んだし村の外で何か食べられる野草を採りに行こうにもそれなりに広範囲を荒野にされてしまったせいでそれも難しく。
彼らは現在食糧難に見舞われていた。
草原地帯が完全になくなったわけではないので、村を捨ててもう少し緑豊かな土地へ行く、というのも考えてはいるものの、しかしそうして新たに村を作っている所でまたあの魔女が現れたら。
折角新しく作った居場所をまたも荒野に変えられてしまっては……というもしもがよぎり、まずはあの魔女をどうにかするべきじゃあないか? となったのである。
荒野になってしまったといっても、まだ周囲には動物たちも存在していたので狩りで食料を得たり、まだ荒野になっていないところまで赴いてそちらで何とか食料を確保したりもしていたのだが、それにも限度がある。
他の地区へ移住するにしても、色々と面倒事があるのを考えるとそれは最終手段だという事で彼らの意見は纏まっていたようだった。
「他の地区へ移住するのってそんなに面倒?」
「そうですね、地区による、としか。
その地区がどれくらいの規模かにもよりますが、国があるところだと税金とか色々かかりますし」
「あぁ……」
「この辺りはそういったものがないので、あくまでも彼らが自給自足をして生活している、と」
「まぁ確かに引っ越しってお金かかるっていうもんね……」
ディオスが説明してくれたものとユッカが言った事は若干意味がずれてはいるが、金がかかるという点においては変わらないので特に突っ込みがきたりはしなかった。
自給自足で全部自分たちでやらないといけない、と考えるとそれはそれで大変そうではあるけれど、しかしここで暮らしてそれが当たり前であるのなら、移住した先で今度は税金がかかりますよとか、その他のあれこれが入り用ですよとか、そうなれば確かに面倒ではありそうだ。
移住した先も今住んでいる所と大差ないならまだしも、必ずそうだとは言い切れない。
周辺の地区を見て、住みやすそうならそっちに移住しよう、と決めたとしてもだ。
この世界の地区は軽率に移動するので良し決めた、あっちの地区に行こう、と決めたところで転移装置で行けなくなっている可能性もある。
かといってロクに考えずその場の勢いで他の地区へ行ったものの、そこはとても暮らしやすいとは言えなくてここではやっていけないな、戻ろう、なんて思ったとしてもそこでもやはりすんなり戻れるかはわからない。地区が移動してしまえば、帰るどころかどんどん自分たちにとって住みにくい土地が続くかもしれないのだ。
地区が移動するのもハッキリと法則があるわけでもないらしく、しばらく移動しない事もあれば短期間であちこち移動するなんて事もあるのだとか。
隣同士の地区でご近所さんだと思っていたらある日突然世界の果てくらいに距離が開いてしまう、なんて事もあると考えるとある程度生活が安定している者は軽率に他の地区へ行く、という事もないのだろう。下手に他の地区へ行って帰れなくなってしまえば、帰るためにあちこち彷徨う事にもなりかねないのだから。
各地を旅する、というのは基本的に家のない身軽な者か、はたまたある程度の実力があってある程度の事はどうにかできる実力者くらいという事だった。
観光気分で出かけて二度と故郷に戻れない、となれば確かにそれはちょっと……とユッカも思うわけなので、ユッカとしても気軽に住めば都って言うし、他の地区に行くだけ行ってみては? などと言えるはずもない。
ユッカにとって過ごしやすそうな地区でも、この村の人たちにとっても同じとは決して言えないので。
「で、塔に行くって話でしたっけ。そこに魔女がいるんですか?」
「確証はない」
「ないんだ」
「ただ、あの塔はかつてこの地区に住んでいた種族が作り上げた食料保管庫なんだ」
「随分大きな貯蔵庫ですね」
あれどう見てもラストダンジョン一個前のダンジョンですとか言われたら納得する感じだったよ、という部分は飲み込んで、ユッカは遠目で見た塔を思い返す。
「冷塔庫と呼ばれるそこには確かに食料が豊富にあるんだ」
「って事は前にも行った事が?」
「あぁ、荒野になる前にも何度か食料不足に陥った事があってな。その時に、あの塔へ」
「なるほど……」
「ただ、下の階にあった食料はほとんど回収されてるから、行くとなるとある程度上に行かなきゃいかん」
「それでその旅支度に?」
「そういう事だ」
「ただ、なぁ……」
なんだそういう事だったのかぁ、とユッカが納得した直後、やや浮かない表情で男が続ける。
あっ、なんか嫌なフラグの気配……と思いながらも耳を塞ぐ真似をするわけにもいかず、ユッカはその先の話を聞く事となってしまった。
「こうなってからそこそこ経ってるわけなんだが、勿論そうなってから何度かあの塔へ行く事にはしていたんだ」
「あ、もう嫌な予感しかしない」
「ホントでスね、その先言わないでもらうわけにはいきませんか」
ユッカの言葉に便乗するようにフォリスが言う。見れば耳がぴるぴると小刻みに震えていた。
「いえ、途中でやめられた方が悪い想像ばかりしてしまって精神衛生上よくないので一応聞いてみましょう」
それに対してディオスがそんな風に言うものだから。
正気か!? みたいな目をフォリスがディオスに向けていた。
ロゼはユッカの肩の上で事の成り行きを見守っている。
「帰って……こないんだよなぁ……」
「わーっ! それ絶対なんかあったやつじゃないでスか!」
今更のように耳を手で押さえて叫ぶフォリスに、ユッカとしてはあーやっぱりね、と納得した。
とてもありがちな展開である。
「食料確保もそうだが、先に向かった連中に何があったのかも調べなきゃならん」
「でしょうねぇ……!」
やっぱりか! というようなユッカの相槌には無駄に力がこもっていた。
食料を諦める、という選択ができればいいが、そう簡単にできれば苦労はしない。
他の地区に移住するまでではないにしても、他の地区で買い物をして戻ってくるくらいなら可能だろうけれど、冷塔庫に食べ物がまだある、とわかっているのに他の所でお金を使ってまで入手する、という方法に躊躇う気持ちはユッカにも理解はできる。
家にあるやつじゃなくてどうしてもこれがいい、というようなこだわりがあるならいざ知らず、そうでもないのなら浪費はいつか自分が困る事になりかねない。
ユッカだって家にあるお菓子以外のを食べたいからとて毎回お小遣いを使っていたら、それ以外に欲しい物を買えなくなってしまうので。
自給自足してるであろうこの村に金銭的な貯えがどれくらいあるかもわかっていないが、あったとしてもそういうものは基本的にいざと言う時のためだろう。
まだ食料があるとわかっているのに他の所で買う、というのは躊躇う気持ちになるとしても、まぁそうだろうなとユッカとしても納得はできる。
だが、先に出発した人たちが戻ってこない、という時点で嫌な予感しかしないが、だからといって諦めて他の地区へ……という風にすぐ切り替えられないのもユッカ的には理解できてしまった。
もし今行って助けられていたのなら、とか、そう考えてしまうと行かずに他の地区へ行くのは見捨てる事になってしまう。既に手遅れである可能性も勿論あるけれど、手遅れではない可能性も同時に存在しているのだ。行って、何が起きているのかを調べない限り。
シュレディンガーの猫みたいな状況だった。
原因が分かった上で、塔の上を目指すか諦めて他の地区へ逃げるか。
むしろわからないままに逃げ出したとして、もし逃げた後で戻ってこなかった連中が無事に戻ってきたりしたとしても逃げた側が気付く事にはならなさそうだし。
故郷でもある地区を捨てて他の所で生活したとして、すんなり無事に過ごせるとも限らない。
戻ってこなかった相手が帰ってきた後、逃げた相手と違って日々を問題なく過ごしている、なんて可能性も考えると、何が起きたかわからないまま他へ逃げる、という気持ちにはなれない、というのが村の総意らしかった。
完全にアウトで避難しないといけない、というのならまだしも、そうでなければそりゃ躊躇いもするよなー、とユッカだって思うわけなので、さっさと逃げろとは言えない。
「ちなみに他の町や村からもあの塔には行けなくもないから、もしかしたらそこで食料の奪い合いをしている可能性もあるんだよなぁ……」
「先に他の町や村に行って様子を確認してくる、わけにもいかんし……」
「そこまでの食料の余裕がないからな」
男たちが思い思いに口を開く。
「あの、この近くにグラヴィールの木があったと思うんでスが、それは」
「あの木ならとっくに枯れちまったよ」
荒野になってもまだそこにあれば……と思ってなのかそっと口に出したフォリスに、しかし村人の一人が無情な答えを返した。
「あっ、終わった……僕の目的終わった……」
がくりと項垂れるフォリスに、でもなぁ、と村人は言葉を続ける。
「冷塔庫の上の方にもしかしたら実は保存されてるかもしれない」
「えっ」
「あるかはわからんが、可能性はゼロじゃないぞ。この地区で採れる食料は大体あの塔に保存されてるって話だから、可能性はあるってだけで」
「あ、あの、もしあったら譲っていただく事ってできまスか!?」
「うん? まぁ、少しくらいなら大丈夫なんじゃないか?」
根こそぎ寄こせ、だと流石に断るが、一つ二つくらいならまぁ……という反応をされて、フォリスは考え込んだ。
なんだか物騒な雰囲気が漂っている冷塔庫。できれば行きたくはないけれど、でも他の地区で探すよりは可能性が高いだろうし……とあまりにもわかりやすく悩んでいた。
ここで大人しく待っていたとしても、彼らが無事に戻ってくるという保証はどこにもない。であれば――
「では、僕も同行させて下さい」
悩んでいた時間は短いものだった。
何が貴方をそうさせるの、とユッカは思っていたものの、口を挟める雰囲気でもない。
「皆さんはどうしまスか?」
そしてフォリスはそんな風にユッカたちに問いかけてきたのである。
「えっ、これ私たちも行く流れ……?」
まぁ、気になるっちゃ気になるから行った方がいいの……か? と首を傾げながらロゼを見て、ディオスを見る。
「そうですね、折角ですし」
「他に先を急ぐ目的もないからね」
折角来たのに何もしないで他の地区に行くわけにも……となってしまったし、じゃあ、ついでに……と言わんばかりではあるけれど。
とりあえずユッカたちも彼らと同行する事にしたのである。




