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ロゼとユッカ~二人がおうちに帰るまで~  作者: 猫宮蒼
三章 それはさながらゲームのような

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イベントはどこにでも潜んでいる



 草原を進み、しばらく行くと本当に荒野としか言えないようなものが広がっていた。

 草原から荒野になるにつれて徐々に……というわけでもなく、本当にある地点から突然切り替わるようになっているという不自然の極み。


 成程これは確かに不審を抱くし一人で突き進もうとはならないな、とユッカだって納得してしまった。


 進んでいくにつれて少しずつ景色が変わっていくのならまだしも、草原の絵の隣に荒野の絵をそのまま置いたような感じなのだ。草木が減って少しずつ荒涼とした大地が……なんて移り変わりすらない。


 ユッカが周囲を見回す限り、動物の姿もなければ魔物らしきものも見えたりはしないが、この景色のせいで何があってもおかしくはないな、と思えてしまうもので。

 特に物事を深く考えない人ならまだしも、ある程度の警戒心を持ち合わせているなら確かにこんな不自然な場所を一人で行くのは嫌だなと思えるものだった。


 草原の先が荒野になってるだけで引き返すとか……ちょっと勇気がなさすぎでは? なんて一瞬とは言え思ってしまったが、ユッカであってもこれなら引き返す。だって何をどう言い繕ったところで不自然さが溢れすぎているから。


「もしかして他の地区とぶつかって融合したとかそういう感じなんですかねぇ……」

「えっ、あるのそういうの?」

「頻繁にあるわけじゃないですけど、無い、というわけではないようですよ」

「そうなんでスか!?」


 草原の絵の途中から荒野の絵を貼り付けたみたいに不自然すぎたせいで、ディオスがそんな風に言うものだからユッカは思わず驚いて聞き返していた。

 しれっと言ってくるディオスに「そうなの?」と更に念を押すように聞いてしまったものの、ディオスは嘘ですとは言わなかった。

 フォリスもそういう話は初耳だったようで、耳をピンと立てて驚いている。


「崩落する途中の他の地区が別の地区にぶつかってくっついた、とかそういう話は随分昔ですがありましたよ」


「へぇ~、そうなんだぁ……」

「巻き添えで一緒に崩落したとかじゃないんでスねぇ……」


 ユッカとフォリスは二人揃ってぽかんと口を開けている。

 その様子を見てディオスは「ふふ」と穏やかに笑う。


 そんなディオスの反応に、え? 本当に嘘じゃないんだよね? と念を押したい気持ちもあったけれど、言ったところでな……とユッカは早々に言葉を飲み込んだ。


 嘘か本当かなんてここで話したところでどうなるものでもないからだ。


 本当だとしてもレアケースすぎて知ってる人はそういなさそうだし、嘘っぽいなと思ってこれでもかと深く突っ込みまくったとして、本当だった場合ディオスとてうんざりもするだろう。

 嘘なら嘘でそれまでだ。


 なので嘘っぽいけどもしかしたら本当の事なのかもしれないなー、くらいの緩さで受け入れる事にしたのである。


 ともあれ、草原ゾーンギリギリであと一歩踏み出せば荒野ではあるけれど、立ち止まったままでいるわけにもいかない。

 行くか、戻るか。


 ここまで来て引き返すのもな……と思えば進むしかない。

 あからさまに危険そうな雰囲気が漂っているわけでもないので。


 一歩踏み出せば、なんだか空気も変わった気がする。

 これは気のせいだろうとわかってはいるが。


 そうしてロゼとディオスが魔力反応が複数ある、と言われている方角へと進み続けて。


「あれなんだろ」

「……塔、ですかね?」


 ふと視界の端に何かが映った気がしてそちらを向いたユッカは、遠くに何やら建物があるのが見えた。

 建物、だと思う。遠すぎてシルエット状態になっているので本当に建物かはわからないが。


 けれどもそんな風に問えば、同じようにそちらを向いたディオスがそう言うものだから。


「……すっごく長い柱の可能性もあるよね」

「なんのために」

「まぁそうなんだけどさ。そう言われちゃうとそうなんだけどさ。

 なんかの建物があって、それが壊れて柱だけ一本残ったとかそういうオチがあったりするかもしれないじゃん?」

「ユッカさんは想像力が豊かですねぇ」


 ふふ、と微笑ましいものを見るかのように言われて、褒められてるのか貶されてるのか微妙な境目にむぅ、と膨れながらもロゼの意見を聞こうと試みる。

「ロゼは?」

「あっちからは特に魔力反応がしないと思うけど」


「猫が喋ったあああああああ!?」


「うわっ」


 ロゼの言葉を聞くなりフォリスがびくりと身体を跳ねさせ叫ぶ。

「えっ、なんっ、猫っ……」

「驚きすぎ。こっちもビックリしたわ。

 喋る猫くらいいるでしょ。使い魔とか」

「あ、あぁ……そういう……おどかさないで下さいよ、心臓止まるかと思いました……」


 ロゼも驚きすぎて毛がぶわっと逆立っている。


 そういえば、とそこでユッカは気付いた。


 思えばフォリスと出会ってからロゼは固まってたし、自己紹介の時もそういえばロゼの事はユッカが名を告げていた。ロゼはその時何も言わなかったのだ。

 であれば、確かにフォリスがロゼをただの猫だと思っていてもおかしくはない。


 はーっ、はーっ、と息を深く吐いて吸うフォリスに、そんな驚くような事……? という戸惑いを覚えつつも。


(もしやこいつ相当なビビリか……?)


 ユッカはフォリスに対してそんな感想を抱いた。

 草原だった場所が荒野に変わっていた、というところを一人で行きたくないと言っている点では慎重派と言えるが、まさかロゼが喋っただけでここまで驚くとは思っていなかったので。


「す、すいません……その可能性を失念してました……」

「あ、うん、わかればいいと思う」


 なんとも気まずそうな表情で言われて、ユッカとしてもフォリスとは今日が初対面であるが故にそれ以上突っ込めるような事もない。友人であればもうちょっとあれこれイジる事もあったかもしれないが、流石に初対面相手にそれをやるのはユッカにとっても難易度が高かった。


「じゃ、じゃあともあれ、あれが塔だとして。

 誰がいるわけでもなさそうだし、今は行く必要もないって事だよね」

「そういう事になりますね」


 場を仕切り直すように言えばディオスがそれに頷く。


「人がいなくてもあんなところにある塔に行こうとは思わないし、誰かがいたとしてもイヤでスよ」

 絶対ロクな事がないとばかりなフォリスの態度に、まぁそうかもしれないな、とはユッカも思った。


 そういうわけで塔だと思われるそれを横目にユッカたちは更に進む。


「あ……」


 そうしてロゼやディオスが言っていた魔力反応的に恐らくここだろう、と思えた場所には小さな村があった。

 それを見てフォリスが小さな声を漏らす。


「前に来たことがある場所でス。でもあの時はここいら一帯、もっと緑に囲まれていたのに……」

「何があったか聞いてみよう」


 正直ユッカとしても率先して見知らぬ村に入って一体何があったんですか、なんて聞くのは気が進まないけれど、知らないままにしていても何も解決しないだろうはずなので。


(仮に何か巻き込まれるような事になったとしても、ロゼやディオスが解決できる範囲であれ……!)


 思い切り他力本願な事を考えながら、ユッカは村に突入した。


「こんにちはー、以前ここって荒野じゃなかったと思うんですけど一体何が……わ」


 村に入って少し行った先、開けた場所に人が集まっていたのでユッカはとりあえず友好的な声掛けを意識するも途中で止まる。

 折角旅番組で第一村人にフレンドリーに声をかけるテレビスタッフを意識してまで声をかけたというのに、その心意気は早々に消えてしまった。


 村の広場と思しき場所では大勢の人が集まっていた。

 ユッカの声のせいで一斉に彼らの視線がユッカへと向けられる。


 そのせいでたじろいだユッカの言葉は途中で止まる事となってしまった。


「旅の人かい、すまないがこの村には今なにもなくてな……」

 疲れ果てた様子の、四、五十代くらいの男性が困ったように眉を下げながらそう言ってくる。

「えっと、一体何が……?」


 見れば数名の男たちはこれからどこかに出発しようというのか、旅支度のようなものをしていた。

 背中にはユッカが背負っているリュックなんかよりももっと大きな鞄がある。登山用リュックのような頑丈そうな鞄だが、少なくともこの村の周辺には登山できそうな山なんてないので登山に行くというわけでもないのだろう。

 そもそも登山だとか、ハイキングに行くような雰囲気ではない。


「貴方がたがどこから来たかは存じませんがここに来る途中、塔のようなものが見えませんでしたか?」

「あー、あったような……柱じゃなくてやっぱ塔なんだ、アレ」


 集団の中の一人、年老いた男がしわがれた声で言う。

 そしてやっぱり柱ってオチはなかったか、とユッカは少し前に見た塔を思い浮かべる。

 遠くから見てもかなりの高さだったはずだ。

 この村からあの塔に行くまでそこまで時間はかからないと思う。何十日もかかるような距離ではなかった。頑張れば日帰り可能だろうとも。


 だが、それは塔に行くまでの話であって、あの塔の中を行くというのであれば。


 成程、彼らの荷物はそういうものであるのなら、しっくりとくる。


 塔のどこまで行くのかはわからないが、上に行くのであれば充分な備えが重要になるだろう、と思うので。


「でもなんであの塔に?」


 もしかしてダンジョンとかそういう感じのやつなのだろうか? そう思いながら更に質問を重ねれば、男たちは各々顔を見合わせ、少しだけ悩んだ様子を見せた。


「あ、もしかして部外者には語っちゃいけない感じのやつでした? だったら別に」

「いや」

「違うんかい」


 ユッカとてこれがゲームなら首を突っ込んでイベントを起こしたかもしれないが、そうでもないのなら無理に踏み込むつもりはなかった。


 これはこの村の事だからよそ者には関係ねぇよ、と言われてしまえばそれまでだったのに。


 他の地区から旅をしてきたって事は、多少荒事にも慣れてるんだろう、とばかりに巻き込まれる事となってしまったのである。大変不本意。

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