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ロゼとユッカ~二人がおうちに帰るまで~  作者: 猫宮蒼
三章 それはさながらゲームのような

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ある意味で未知



 かちんこちん。


 ロゼが固まっている状況を音にするならまさしくそんな感じだった。

 動いたら死ぬとか思ってます? なんて聞きたくなるくらい微動だにしない。


 天狐って猫と敵対関係だったりするのかな? なんてユッカが思ってしまったのも仕方のない話だろう。

 いや、それとも魔女と敵対関係にあるのかもしれない。


(天狐ってのがそもそもこっちの世界でどういう感じのものなのかがわかんないけど……私の世界だとなんだ、神様の使いとかそういうやつになるのかな?

 天狐とか妖狐とか、まぁそこそこの創作ではいたし。

 でも、魔女と敵対関係にあるとかそういうのはなさそうだと思うんだけどなぁ……?)


 その考えは基本ユッカの世界の、創作物というある種限定されたものなので探せばもしかしたらバチバチに天敵扱いになっている作品もあるかもしれない。

 しれないけれど……仮にあったとしてそれがこちらの世界でも通じているか、となると……ユッカにはやっぱりわからないのであった。


 ユッカがロゼに目を向けていたのもあって、フォリスもまたロゼへと視線を向けた。

 猫ってもしかして捕食対象だったりする……? とユッカが内心でちょっとだけ警戒しかけたものの、しかし次の瞬間にはフォリスはロゼを見てにこっと人のよさそうな笑みを浮かべていた。そこには敵意も悪意も何もない。

 あっ、猫だ可愛いねー。

 そんな声すら聞こえてきそうなにこにこ笑顔である。


 あまりの毒気の無さにユッカが内心でもしかして天敵とかそっち系か? なんて一瞬でも考えてしまったのがなんだか申し訳なくなる程だ。


 フォリスは別にロゼに対して何かをしようとか、そういう事を考えているわけではなさそうだ。

 まぁ……ユッカだって人の心を読めるわけではないので笑顔の裏でもしかしたらとんでもない事を考えている可能性は否定できないけれど。


(もしかして。あっ、猫だ可愛いねー。じゃなくて、あっ、猫だ美味しそう。の可能性もある……?)


 野生のキツネは雑食だった気がするし。

 肉食寄りの雑食だったとしても、だったらそれは別にロゼだけが狙われる原因とは言い切れない。


 でも、と考え直す。


 仮に天狐が猫を食料と見ていたとしてもだ。


 ロゼは別に普通の猫というわけではなく、見た目が猫になっているけれど中身は魔女だ。

 もし食べられそうになったとして、ロゼがただの猫のようにロクな抵抗もできないまま調理されるとは思えない。


 じゃあなんでこんな固まってるんだ?

 最終的な疑問はどうしたってそこに至る。


 ロゼにどうしたの? と聞けばいいだけの話なのだが、フォリスがいるこの場でそれを聞いても答えられるはずがない。何故って確実に本人に聞こえるからだ。

 仮に小声で話したところで聞こえる気がする。


 あの頭にあるケモミミが飾りじゃなければ。


 フォリスの耳は実際に周囲の音を拾っているらしく時折ぴくぴくと動いているのがユッカにも見て取れるので飾りだと判断するのはあまりにも愚か。

(聞きたいけど聞けない現状……どうする、ちょっとお花摘みに……とかトイレとかやんわり言い出してロゼと離席するのもちょっとな……)

 確実な手段ではあるかもしれないけれど、そうやって何かあるたびにその手段を使う事になるとそのうちトイレの近い子扱いされそうなのがとても癪。年取ってからならいざ知らずまだ若いのに……みたいな目を向けられるかもしれない事を考えるとそれは流石のユッカも勘弁してほしかった。


 のっぴきならない緊急事態であればそんな事も言ってられなくなるのかもしれないけれど、今がそうだとはユッカも思えていないので、ちょっとトイレ! という宣言を言い出せずにいる。


「にゃん」


 硬直していたロゼがぎぎぎ……とまるで古びて錆び付いた玩具みたいなぎこちない動きでユッカへと向き直り、これまた小さな声で鳴く。サイレントにゃーではないが、借りてきたばかりの猫のような控えめさだった。


「どうしたの?」


 元々ユッカのすぐ近くにいたけれど、更に近づいてぴったりと寄り添うように移動してロゼは少しだけ伸びた。背伸びをするようにぐっ、と伸びたのでユッカは何がしたいんだろう……と思いながらロゼのやろうとしている事を見る。


 ぐっ、と伸びただけでは届かなかったようで、ロゼは最終的にユッカの肩に前足をかけるようにしてユッカの額に自らの額をこつんと合わせる。


『どうしようユッカ』

「んぇ?」

『あ、声に出さないで。今なら思った事そのままこっちに伝わるから』

(え? どういう事?)

『魔法を使っての念話だよ。とはいっても、そのまま使うと魔法を使っているって確実にバレるからこういう方法をとったけど』

(こういう方法?)

『距離があるとその分魔力も使う。わかるね?

 けどこうやって額を通じて話しているなら消費される魔力量は極小なんだ。これくらいなら気付かれない』

(そういうものなんだ……それで?)


 なんだかとっても便利な魔法があるんだな、と思いながらも話を促す。

 フォリスがどういった存在であるのかわからないが、ディオスは魔法が使えるというのは既にユッカも知っている事実だ。

 なので魔法を使った場合、何らかの反応を示してしまいそれがフォリスにも伝わってしまうかもしれない。

 そうなれば、何かやってる、と思われるのはあまりにも想像に容易い事だった。


『えっと、実は。

 フォリスなんだけど』

(うん)

『知り合いなんだ』

(えっ!?)


 危うく声に出るところだったが、どうにか耐える。

(し、知り合い!?)

『正確にはイシェルの友人』

(なんと)


 各地区を移動しているのだから、そのうちどこかで誰かの知り合いに遭遇する事はあるだろうな、とも思ったし、それこそロゼの弟子にあたるイシェルと出会った時の事を考えてローザをロゼと呼ぶようにしたりしていたのだから、こういう事があったって何もおかしな話ではないのだ。

 ない、のだけれどしかしそれはもう少し先の話だとユッカは漠然と思っていた。


 イシェル本人ではないけれど、それにしたってそのイシェルの友人と遭遇するなんてのはユッカは考え付きもしなかったし、ロゼだって想像すらしていなかったのだろう。


『実際フォリスと関わる事はそんなになかったけど、それでも向こうは魔女ローザローゼシカを知っている。

 そのせいでちょっと気まずい』

(でしょうねぇ……)


 本来の姿ならともかく、今のロゼは可愛らしい猫ちゃんだ。

 魔法で変身しているとかであれば元の姿に戻ればいいだけの話だが事故でこうなってしまった以上、下手に魔法を使って戻ろうとするとどんな作用が起きるかもわからないのだ。

『別に自分の正体を明かすつもりはないし、その必要もないと思ってる。

 とはいえ、気まずいっていうのはどうしたってなくならない感情っていうか』

(あぁうん、わかるよ)


 ユッカは魔法が使えないけれど、想像すれば確かに気まずい気持ちは理解できる。


(とりあえずローザの事を話題に出すような事はないと思うけど、まぁ、一応気を付けておく)


 ロゼとユッカが念話で話していたのはほんの数秒程度だ。

 それこそ猫が懐いてちょっかいをかけていると見ても不自然だとは思わない程短い時間。


 まだ若干ぎこちない動きではあるもののロゼがユッカから額を離して、そうして今度はユッカの膝の上に移動した。


 固まっていた理由を説明しはしたけれど、だからといってまたテーブルの上でフォリスの視界に収まるのは気まずいのだろう。

 するりとテーブルの下の方へ移動してしまったロゼを名残惜しそうに見ていたフォリスは、ロゼが出てくる様子がないのを悟って視線をユッカへと移動させた。


「ところでなんだって行き倒れそうになってたわけ?」


 フォリスが何かを言うよりも先にユッカが問いかける。


 元々疑問ではあったのだ。

 見渡す限り草原で、自然がないわけではない。

 探せば何かしら食べ物だって見つかりそうではあるはずなのに、しかし彼は空腹を訴えるまでに至っている。


 遠くに魔力反応が複数あるらしいし、進めばどこかの町や村にはたどり着けるはずなのに、彼は草原を彷徨っている。

 魔力探知ができない、というわけでもないだろう。


 この世界の天狐族というものがどういう存在かをユッカは詳しく知らないが、大体この手のキツネは妖力だの霊力だの仙力だのが人より優れていると相場が決まっている。

 であれば何か、事情があるのかもしれない。


「……えぇと、でスね」


 フォリスはやや口ごもりながらも、それでも最終的には話す事を決めたらしい。

 適当に言葉を濁して喋らない、という選択もできたはずだが、一応助けられた身である、というのも考慮したのだろう。


「元々ここにはグラヴィールの実を採りに来たんでス」

「グラヴィール……?」


 なぁにそれ、とばかりに首を傾げれば、

「果実の一種です。厚い皮の内側はゼリー状の果肉になっていて少々食べづらくはありますが美味ですよ」

 フォリスではなくディオスが教えてくれた。


「へぇ……」

「風邪を引いた時などに食べるとすぐ治りますね」

「へぇ~」


 なんだかそれだけを聞けば栄養ドリンクのような印象を受けるが、しかし美味、と聞いてしまえば少しばかり興味はある。

 そんなのがここにあるんだぁ、そっかぁ……ちょっと気になるから見つけたらいくつか採ってリュックに保管しておきたいなぁ、なんて思うものの。


「あれ? でも採れてないって事?」

「えぇ、まぁ」

「今まで採れてた場所に何かあった?」


 たとえば木が伐採されていたとか、倒木して実がつくどころじゃなかっただとか。

 周辺の環境が変わったせいで実ができなかった、という可能性も考えてみる。


「いえ、それがその……行こうと思った場所が荒野になっていて」

「え?」


 思わずユッカは視線をフォリスのその向こう側へ向ける。

 どこまでも続くかのような草原が広がっている。

 けれどもフォリスの言葉を信じるのなら、更にその向こうには荒野が広がっているらしい。


「何があったのかはわかりませんが……正直一人で進むのが怖くて」


 今まで行っていた採取場所以外に、草原のどこかにないものかと探していたものの見つけられず、更には迷って行き倒れる寸前に……と言われて。


 思わずユッカはディオスと顔を見合わせていた。

 ついでに膝の上にいたロゼもにゅっとテーブルの上に移動して、やっぱり互いに顔を見合わせたのである。

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