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ロゼとユッカ~二人がおうちに帰るまで~  作者: 猫宮蒼
三章 それはさながらゲームのような

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出会う奴大体行き倒れてる



 ディオスが足を止めてまで「貴方ボロを出しすぎなので自分から率先してソルシエルロスだと名乗るのはやめておきなさいね」と言ったのは本当に忠告するだけのつもりだったようで。


 言い終わり、話が終わった時点で何もなかったかのようにディオスは「それでは行きましょうか」と進み始めた。

 ユッカとしても移動をする事に反対するつもりはない。


「とりあえず……次の町か村かは知らないけど、もうちょっとこう……何事もなくいけるといいね」

「そう何度もトラブルに遭遇してたまりますか」


 自分で言ってて「あっ、これフラグかな」と思ったものの、その言葉はユッカの本心である。

 そして旅をしているディオスがそう返す事で、普通はそこまでトラブルに見舞われないのだなとも思ったけれど。


(ディオスの返事がとてもフラグゥ……!)


 自分の言葉だけでもフラグかなと思ったのに、ディオスの返事までフラグ感漂っている。


(いやでも、逆に考えて最初にこうやってフラグ立てたら反対に何も起きませんでしたなんて事があるかもしれないし!)


 とりあえず内心でそう思う事にしておく。



 そうだ。

 あまり悪い方に物事を考えすぎるのもよろしくない。


 そんな風に考えて、ユッカはとりあえず一面に広がる草原の、所々に咲いている小さな花々に目を向けて気持ちを落ち着ける事にしたのである。


 そうやって何事もないまま進んで。


 魔力探知した結果から、もうちょっとしたら人が住んでそうな場所が見えてくるんじゃないか……とロゼが言ったもののこの時点で結構歩き続けていたのもあって、一同は一先ず休憩をしようかという話になった。


 もうちょっと、が実際どれくらいの時間になるかもわかっていないのだ。

 本当にあと数十分程度でたどり着けるくらいのものならいいが、数時間かかるような事になればユッカの疲労度も洒落にならないくらいになるだろう。


 なのでリュックからテーブルやイスを取り出して、その上にいくつかの食べ物と飲み物も用意する。


 テーブルとイスではなくレジャーシートの方がよりピクニック感が出たかもしれない……とユッカは思ったものの、リュックの中にレジャーシートがあるかはわからなかった。探せば近い物はありそうだけれども。


 なんだかちょっと豪華な庭にでも居るような気分にさえなってくる。

 レジャーシートならそんな風に思う事はなかった。


 まぁ、豪華な庭、というには少しばかり華やかさに欠けてはいるけれど。


 ともあれ、軽食と呼べるような物をテーブルに並べて、三人で食べ始める。


(こういう時のためにそのうちどっかでお弁当とか用意しておきたい気もするなー)


 現状ある食べ物はほとんどがフラワリー地区で購入したもので、一部ククルビタ地区でもらった野菜や果物もあるけれど。

 なんというかこういった場面で――ユッカの気分的には遠足みたいなものだ――食べるにはちょっとなぁ、と思うものばかりで。

 野宿の時もテントやキャンプ用品と言えそうな物があるとはいえ、調理だって手の込んだものは作っていない。


 大抵材料を切って焼くくらいだ。


(どこかのキッチンとか借りて作れるような事があればいいんだけど……)


 人様の家のキッチンを借りるというのは考えられないが、宿とかでレンタルキッチンスペースとかないかな……なんて考えてしまう。

 ローザの家が崩落さえしていなければ、転移装置でフラワリー地区に戻った時にローザの家のキッチンを借りる、という事も可能だっただろうに……なんて思ったところでとても今更な話だった。


 ロゼの魔法でリュックの中の物は時間経過の心配がないというのもあるから、そのうち機会があれば食料は大量に用意しておきたいところだ。

(でも、そうじゃなかったら食料確保がとても大変な事になってたんだよね……)

 時間停止状態で保存できるから大量に用意する事も可能ではあるけれど、もしそうでなければ傷む前に食べきらなければならなかったし、最悪マトモに食料を確保できず飢えて大変な事になっていたはずだ。


 それこそ行き倒れていたディオスやナナイのように。


 ディオスは旅をしていてそういった事は過去何度かあったような感じを出しているし、ナナイもナナイで最悪そこらの草を食むみたいな事をしているからなんだかんだ生き延びられそうだけど、ユッカだったらどうだろうか、とほかほかと湯気を立てているお茶を飲みながら考える。


(……まぁ、普通にお腹が空いて動けなくなるかもしれないし、ましてや食べて大丈夫な物かどうかわかんないものは口に入れたりできないし……あっ、普通に死ぬやつじゃん)


 考えるまでもないと言わんばかりの結論にあっさりとたどり着いてしまった。

 一応祖父母に食べられる野草なんかはいくつか教えてもらったけれど、異世界でその知識がマトモに役立つかは謎だ。見た目が同じでも中身は違う、なんて事だって普通にあるだろうし。


 とはいえこの想像はあくまでもユッカが異世界で一人で生きていかなければならない場合だ。

 ロゼが――ローザがいるのであれば、右も左もわからない異世界で野垂れ死ぬような事にはならないだろう。

 現に今がそうであるわけだし。


「おや?」

「あれ?」


「どうしたの?」


 ディオスとロゼがほとんど同時に顔を上げて同じ方向へ視線を向けた事で、ユッカは何かあるのかと遅れてそちらへ視線を向けた。

 どこまでも広がる草原。遠くの方で何かが動いたが、恐らく鳥だろう。

 それはこちらの視界を横切るようにしてあっという間に見えなくなった。


「誰かがこちらに近づいてくるようです」

「うん、魔力反応的に一人かな」


 ディオスとロゼの言葉に、そうなんだ、と頷いて。


「第一住人ってこと?」

「恐らくは」

「もしくはボクたちと同じように他の地区から来たばかりの人かもね」


 そうなんだー、と相槌を打ちながらも、ユッカは念のため自分の前に置いてあったベーグルサンドを手に取って気持ち急いで食べ始める。


 流石に「こんにちは、死ね!」みたいに襲い掛かってくる展開にはならないと思いたいが、その一人が何者かに追われているだとか、出会い頭にトラブルに巻き込んでこないとも限らないので。

 何が何だかわからないまま巻き込まれて、そうして急いでこの場を離れなければならない、なんて事になりでもしたら、次に落ち着いてご飯を食べる事ができるのがいつになるかもわからないのだ。


 食べられる時に食べておかないと、多分後々大変な事になるので。


 それに関してはこちらの世界に来て早々に学んだことの一つだ。


 食べられる時に食べて、休める時に休む。


 ある意味で当たり前の事なのかもしれない。けれど、ユッカは元の世界にいた時はそんな事を一々自覚するような事さえなかった。

 朝起きてご飯を食べて学校に行って。お昼ご飯を食べて帰って来てから夕飯を食べる。

 お風呂に入って、程々の時間になったら寝る。遊ぶ時間や勉強の時間もあるけれど、そこまで大きな変化はない。

 それが当たり前の日常だった。


 こちらの世界に来てからの生活は、そこまで酷いものではないけれどそれでも向こうの世界と比べると不規則である事は否めない。


 向こうではあまり身体を動かす事もなかったけれど、こちらでは移動するにあたり結構な距離を歩くので。


 転移装置をもっと有効活用できればいいが、探し物が転移装置でポンと移動した先ですぐ見つかるものでもないようなので、こればっかりは仕方がない。


(向こうに戻ってからしばらくは生活リズムが落ち着かなさそう)


 まだ帰れる目途もたっていないけれど、そんな風に考える。

 考えながらも口はひたすらもぐもぐと食べる事をやめていないので、この調子なら近づいてくる誰かがやってくる頃には食べ終えているだろう。


 そんな予想は外れる事もなく。


「す……すいません……何か、食べ物を分けて下さい……」


 よろよろとした足取りでやってきたのは一人の青年だった。

 こちらを見るなり声をかけてきたが、その声はもうほとんど限界ですとばかりにか細いもので。


 ユッカたちが返事をする前に、青年はふらりとよろけてその場で倒れたのである。


「またこのパターンか!」


 ユッカがそう叫んでしまうのも、ある意味で当然だった。



 流石に見捨てるのも忍びない。


 そんな理由で助ける事になってしまった青年を、ユッカはとりあえず眺めた。


 なんとこの青年、耳がある。

 いや、耳は誰にでもあるだろう、と言われるとそうなのだがそうではない。

 ケモミミである。


 もっと言うならキツネと思しき耳が頭からぴょこん、と存在を主張しているのだ。

 あまりじっくりと見てなかったが、そういえば尻尾もあったような気がする。今ユッカが見ているのは正面からなので背後を改めて確認するためには一度立って背後に回り込まないといけないので、流石にこの状況でそれをやるのは躊躇われた。


 何かありましたか? なんて思われるか聞かれるのは明らかなので。


 青年は白を基調とした――どこぞの民族衣装のような衣服に身を包んでいる。けれども今、その服はそこかしこを彷徨った事が原因か、やや薄汚れていた。

 服の名称に詳しくないユッカは、なんとなく騎馬民族とかそっち系で着てそうな動きやすそうな感じだなぁ……とは思ったものの、それだけだ。


 銀色の髪と同じように白っぽい毛並みの耳。

 一般的なキツネ色とは違うが、しかしそれでもキツネだと思えたのはアニメやゲームに出てくる銀色のキツネ系キャラのせいだろうか。

 どちらかと言えば温和そうな顔立ちの青年の目は、左右で色が違っていた。


 右目が金色で、左目は今の空のような青い色をしている。

 今はユッカの向かいでイスに座ってパンを食べているが、こちらに声をかけてきた時、倒れる直前に見た限りでは背はディオスと同じかそれよりちょっとだけ高かったように思う。


(なんていうか、出会う人出会う人大体行き倒れてない?)


 青年は完全に行き倒れたわけではないのでちょっと違うかもしれないが、それでもここでユッカたちと出会わなければ空腹に耐えきれず倒れていたかもしれない。


(うーん、いやまぁ、町とか村で生活してたら食料はそれなりに確保できるだろうけど、旅をしてたりするといつでもどこでも食料を調達できるってわけでもないだろうしなぁ……でもロゼみたいに魔法を使って物をしまったりできるなら、そもそも行き倒れる事になるっていうのがまずなさそうだし……

 魔法が使えないにしても、ディオスみたいに路銀が尽きたとか?

 うーん、でもそうだとして、じゃあ人里以外で出会う人大体行き倒れフラグが常にあるって事?)


 収納魔法は便利ではあるけれど、もしかしたら誰でも使えるというわけじゃないのかも。


 そんな風に考え付いて、だったら持てる荷物に限りがあるなら仕方ないか……と納得する。

 これで誰でも収納魔法が使えるからいくらでもアイテムは持ち歩ける、とかなくせに行き倒れるとかであれば、それは最早そいつの準備不足である。


 青年はユッカが渡したパンをこれでもかとよく噛んで食べ終えると、パンと両手を合わせて「ご馳走様でした」と言おうとしたのだろう。

 しかし途中で喉に小さなパンくずがひっかかりでもしたのか、「ごちそ」でむせた。んぐっ、と呻きながらも口を閉じ、片手で口を押さえる。


 ユッカは何も言わずにコップに水を注ぎ、青年の前に差し出す。

 それを受け取り一気に飲み込んだ青年はようやくそこで落ち着いたようだ。


 はぁ、と息をゆっくりと吐いて。

 数秒、まだ咳き込んだりしたりしないかを気にして、問題なさそうだと思ったのだろう。


「助かりました……ありがとうございまス」


 少しだけイントネーションが違う気がしたが、ユッカとしてはそれは気にする程のものでもない。

「だいじょぶそ?」

 特に何も考えずにそう聞けば、青年は「だいじょぶでス」とにこりと笑みを浮かべる。


「あ、名乗るのが遅れましたね。僕はフォリス。見ての通りの天狐族でス」

「天狐」

「はい」


 見てのとおりも何もユッカは天狐族というものを知らない。

 単純にわぁケモミミだぁ、こっちの世界にはいるんだなぁ、くらいの気持ちでしかない。

 けれども何故だか妙にそこを強調されているような気がして、何かあるんだろうか? なんて思ったのだけれど。


 それを聞こうにもフォリス本人はにこにこと笑みを浮かべているものの妙な圧を感じるし、ディオスに聞くのも雰囲気的になんとなく憚られたし、じゃあロゼにこっそり……と思ったのだけれど。


 肝心のロゼはというと、ユッカの肩ではなくテーブルの上にちょこんと座ったまま固まってピクリとも動いていなかった。見れば耳をぺそっと伏せている。

 フォリスを恐れている……というわけではなく、むしろ今関わりたくないから話しかけないでと言わんばかりであった。

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