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ロゼとユッカ~二人がおうちに帰るまで~  作者: 猫宮蒼
三章 それはさながらゲームのような

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傷は浅い



 嘘を吐くのは心苦しい。

 そもそも吐いた嘘というのはいずれバレるものである。


 ただ、嘘というのは必ずしも暴かれるものではない。


 誰かを思って吐いた嘘の場合は嘘と気付かれても見逃される事もある。

 そしてその場合の嘘は嘘ではなく気遣いというものに変わる。


 まぁそういったものであっても暴かれるとなると、それはもう殺人事件の犯人を庇うだとか、そこら辺までいった時ではなかろうか。それ以外の場合にわざわざ暴く必要性はあまり感じられない。


 自分を守るための嘘も、時と場合によっては見逃される事もある。

 誰かに吐いた場合はさておき、自分自身の辛い状況を誤魔化すための嘘、嘘を吐くのも騙すのも自分自身であるのならば、あえて暴こうと他者が言ってくる事も滅多にない。


 けれども自己保身のために誰かに吐く嘘の場合は、暴かれる事はある。

 それは例えるのなら、幼い子供が親に叱られたくなくて咄嗟に吐いてしまった嘘のように。


 結局のところ嘘なんて、そのまま信じてもらえるか暴かれるかは全てその時の状況次第だ。


 ユッカだって幼い頃に嘘はよくない、と親にも祖父母にも言われて育ってきた。

 必ずしも正しいだけではいけない。正論だけで世の中が回らないのと同じように。

 けれども、嘘を吐く事を当たり前だと思うのもいけない。

 そんな事ばかり口にしていては、いつか本当の事さえも信じてもらえなくなるから。


 なのでユッカとしては、こちらの世界にやって来てソルシエルロスという種族偽装をするにあたって、少しばかり心苦しくはあったのだ。

 けれどもこの世界では人こそいるが人間と称される者はとうの昔にいなくなってしまったと言われてしまったので。


 仕方なく。やむなく。

 現状それっぽい嘘を吐き通すしかなかった。

 言ってしまえばそれだけの話だ。


 まぁこの嘘が誰かの人生に大きく関わる事もないだろうとも思ったからこそ、ちょっとだけ心苦しくはあってもそこまで自分が思いつめる程のものでもなかった。

 コスプレでキャラになり切る時のような気持ちで、この世界での自分というロールプレイの一環だと思い込んで、嘘を吐いているという罪悪感を薄れさせてはいた。


 ところがそこで突然その嘘を嘘と暴かれてしまったのだ。


 やってもいない事件の犯人にされたような気分だった。

 いやまぁ、嘘は吐いているから冤罪とはまた違うのだけれども。


 驚きはした。それはもう予想していなかったから。

 まさかここで嘘がバレるだなんてちらっとでも考えたりはしていなかったのだから。


(どこでバレたんだろ……)


 バレたという事はその嘘には綻びがあったという事だ。

 矛盾点のようなものがあったからこそディオスはおかしいと訝しみ、そして嘘だと気付くに至った。

 まさか別におかしな点はないけれどとりあえずカマをかけてみました、なんて事ではないのだろう。


 もしそうなら、うっかりロゼの態度でバレてしまった以上今からそれっぽい嘘を重ねるわけにもいかない。


「……まぁ、そうだね。で、一応参考までに聞きたいんだけど。

 どうしてバレたの?」


 ユッカはソルシエルロスを知らない。ロゼから聞いただけの情報でしか知らないのだ。

 だが、バレたからとて、正確な種族名を答えなくてはならないというわけでもない。


 ディオスの言葉はユッカがソルシエルロスではない事に対して突っ込みはしたが、では何者であるかまでを問うているわけではないのだから。


「ふむ、我もそなたが必要以上にこちらに踏み込む事がないようだからこそ我も踏み込むまいとは思っていたのだが。

 ……ただちょっとあまりにもボロが出すぎなので」

「そんなにボロ出てた!?」

「むしろボロしかありませんでしたよ」

「そんなにかぁ……」


 そこまで言われてしまうとなんだか逆に清々しい気持ちにさえなってくる。

 確かにディオスの言うように、ユッカは色々と気になる事があってもディオスにそれらを聞かなかった。

 一番はやはりなんで目隠ししてんの? であるけれど、他にも気になる事はないわけではないのだ。

 けれども向こうはそれを率先して明かしているわけでもないし、何やら事情持ちっぽいしで、ユッカはあえて聞かないという選択をした。

 祖母の「人には言いたくない事だってたくさんあるのよ」という言葉があったから、というわけではないが、確かに自分だって聞かれたくない事はある。


 テストの点数なんて些細なものから、好きな人はいるのかなんてコイバナとか。

 それはあちらの世界での事だが、こちらの世界に関してならばやはりダントツというかワンツートップなネタは異世界人にして人間であるという事か。


 もしかしたらこちらの世界で言われる人間とユッカはベツモノである可能性もあるけれど、下手に情報が流れた結果自分に都合の良い受け取り方をして思い込む相手なんて向こうの世界にだっていたのだ。こちらの世界にいないなんて言えるはずがない。


 ともあれ、聞かれたくない事なら聞かないでおこう……というユッカの気遣いにはディオスも一応気付いてはいたようだ。

 結果としてユッカがソルシエルロスではない、と気付いた時点でディオスも踏み込む事はしなかったようだが……


 ボロしかない、となれば放置するにも限度があるとは、そりゃまぁユッカがディオスの立場でも言うかもしれない。

 一つ二つの違和感程度なら見逃されていたはずだ。

 だがボロしかないとまで言わしめているのだ。

(つまり突っ込みどころしかないって事か。え、マジでどの辺が?)


 ソルシエルロスというものを知らないユッカはそう言われても、どこを改めるべきなのかわからない。

 ロゼが何も言わなかったからそれで問題ないのだとばかり思っていたというのに。


「そうですね……まずソルシエルロスは好奇心の強い種族です」

「うん」

「気になったなら相手がどう思うかなんて関係なく踏み込んできます」

「あれ」

「つまり僕が目隠しをしている時点で、こちらにも何らかの事情があると鑑みたのに踏み込んでこない時点で、ソルシエルロスらしくなかった」

「なんだってー」


 初っ端からじゃん! と思わずユッカは叫んでいた。

 そうですよ、とディオスは事も無げに返した。


「えぇ、思い返せばあの時点で、気絶していた僕の目隠しを取っていたっておかしくはなかったのです」

「いや流石にそれはちょっと」


 疚しい事はない、と思うが――もし怪我をしていたら、とかそういう風に考えるのならば――状況次第では目隠しを勝手に外す事もあったかもしれない。

 目を隠しているのが光も通さないような黒い布ではなく包帯だったなら、倒れた時に汚れが目立って、不衛生だからという理由で外して新しいのを巻いていた可能性もある。

 けれどもそうではなかったから、ユッカとしては勝手に外すのもな……と思ったのだった。


「以前ソルシエルロスのお嬢さんと出会ったことがありますが、あの時は本当にしつこかった……」

「わ、わぁ……」


 しかも比較対象が存在している。


 実際のソルシエルロスと、ソルシエルロスを自称するユッカ。

 しかしその差は歴然であるとなれば。


「成程ね、そりゃ最初からおかしいぞとなるわけか」

「そうです」


「でも、それだけじゃないんでしょ?」


 それだけであるのなら、ディオスもボロが出まくりなんて言わないはずだ。


「えぇ。次に。

 ソルシエルロスは猫と共に行動します。一時的に離れる事もあるけれど、長時間離れて行動する事はまずない。

 そして離れるにしてもそういう時は大抵安全が約束されている時です」

「あっ」

「クークラの城での別行動。これも、あり得ないのです」

「わ、わぁ……」


 ユッカがロゼの方へ視線を向ければ、ロゼも耳をぺしょっと伏せて――イカ耳みたいになっている――やっちまった、みたいな雰囲気を出している。

 どうやらロゼもソルシエルロスについてそこまで深く理解はしていなかったようだ。


 猫と行動を共にする魔女、という、その表面上だけをなぞる程度にしか理解していなかったようだ。


「もっと致命的なのは」


 まだあるんだ……と内心で思いながらもユッカは耳を傾ける。


「魔力探知の話をした時、ユッカさんはできない様子でしたので」

「あっ」


 そうだ。

 ククルビタ地区でダミアンのやらかした作物があまりに怪しすぎたから、これホントに大丈夫? と問いかけた事は記憶に新しい。

 それに対して内包されている魔力量からしてもそう問題はない、と判断したのはロゼとディオスだ。

 魔力汚染という心配もなければ、それ以外の不審な何かが仕掛けられているわけでもない、と言われて、ナナイも同じように言っていたからユッカはそこで安心して信じたけれどその時もディオスはユッカがソルシエルロスだという疑いを強めていたというわけか。


 ロゼも思い至ったようで、しまった! とでも言いそうに目をまんまるにしていた。


「御使いに攻撃を仕掛けるのも全てロゼでしたからね」

「そ、そうだった……」


 ユッカからすれば当たり前なのだが、ディオスから見ればその当たり前は何も当たり前ではなかった。

 むしろ違和感の塊である。


 そういった部分をつらつらと述べられてしまっては、今更言い逃れる事など到底無理だろう。


「あまりにもボロしかない」

「そうでしょう? 僕だけが黙っていればいい話かなと思ったりもしたのですが。

 流石にこの先他の地区などで人前でやらかしつづけたら誤魔化す事さえ難しくなりそうで」

「あっ、あー、うん」


 確かに現時点ではユッカがソルシエルロスだと口に出した相手はディオスとナナイ以外では、ルボワール地区で出会ったアーロス、それからククルビタ地区で出会った住人たち数名くらいだ。

 この先また出会ったとしても、彼らならそこまで不信感を抱く事もないだろうとは思う。


 ソルシエルロスとして何か行動を起こすとかでもない限りは。


 ただ出会って久しぶりーなんて話をするだけではおかしいとは思われないだろう。


 だが確かにディオスの言うように、この先の地区でもそうだとは限らないわけで。


「旅をして、ある程度年を重ねて落ち着いたソルシエルロスであれば、気になる事はあっても胸の内に秘めておく、という事もできなくはないのですが……

 ユッカさんは旅をしたばかりのソルシエルロスを名乗った。であれば、周囲がどう思おうとも貴方は己の好奇心を優先する行動をとらなければならなかった。

 旅を終えて一所に留まる事を選んだソルシエルロスならばまだしも……いえ、それでも貴方の行動は落ち着きすぎている」

「どんだけなのソルシエルロス……」


 人が気にして黙っておきたい事も自分が気になれば平気で疑問を口にするとまで言われてしまうと、さぞ周囲の人の地雷を踏みまくるのではないかと思う。

 思うのだが、しかしディオスはそれこそがソルシエルロスだとも言う。


(土台無理な話だったって事じゃん。空気読んで余計な事を言わないようにする文化在住の民には難易度高すぎる)

 勿論ユッカだって失言をしないわけじゃない。

 ないけれど、それは本当にそうと理解していないまま、悪気も何もなくポロッと口に出す場合であって、意図してやらかそうだなんて思った事はないのだ。


 だがソルシエルロスを名乗るのなら、そういうムーブが必要だったと言われてしまうと……


「ロゼ」

「ごめん、そこまでは知らなかった」


 そんなとこまで聞いてないよ、と声には出さなかったが、思わずじっとりとした目をロゼに向けてしまうのも仕方のない事だった。


「ボクもふわっとしか知らなかったんだよ……ごめんよぉ……」


 しゅーん、とした様子で言われてしまえば、それ以上何も言えない。

 エアプってレベルじゃねーぞ、という気持ちがあるのはどうしようもないけれど、落ち込んだ様子の猫ちゃんの姿をしているロゼにどうしてそれ以上キツく言えようか。

 知ってたけど教えなかった、というのならいくら猫ちゃんの姿をしていてもユッカだってもうちょっと厳しく言ったかもしれない。けれどもふわっとしか知らなかったと白状し、素直に謝っているのだ。

「まぁ、仕方ないか……」


 なのでユッカとしては許す一択である。


 元々はもし種族について聞かれた場合、人間と答えるわけにはいかないから、じゃあ他のそれっぽい種族を……というところが発端である。

 自分から積極的にソルシエルロスを名乗る事も今のところほぼしていないのだ。

 なのでボロが出まくっているとディオスに言われたけれど、周囲に対してボロを出しまくったわけではない。

 あくまでもボロを出しまくったのはディオスにだけ。


 じゃあ、まぁ、まだどうにかなるかぁ……というのがユッカの考えである。


「ディオスは、嘘って気付いたわけだけどその上で私の種族とか知りたい感じ?」

「いいえ、種族を偽っているのも何らかの事情があるからでしょう。踏み込むつもりはありませんよ。貴方がこちらに必要以上に踏み込んでこない限りは」

「たすかる~」


 これで職務質問される勢いで尋問されたらどうしようかと思ったが、ディオスはあくまでも忠告するだけだったようなので、ユッカとしては大助かりだ。


「んぇ……いいの?」


 ロゼはそんなディオスに少しばかり警戒しているようではあるけれど。


(ディオスは必要以上に踏み込むような真似しなければやり返してこないって言ってるんなら、こっちにそのつもりがない以上は安心。

 それに。

 逆に考えると、向こうが踏み込んでこなくてもこっちの事情を明かして強制的に巻き込む、っていう手段が取れないわけでもないわけですし)


 ユッカがそんな風に考えていると知れば、ディオスも巻き込むとかやめて下さいとか言い出しそうではあるけれど。


 生憎とその部分は言葉にしていないので、ディオスもそんなユッカの思惑に気付いてはいないようだった。

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