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ロゼとユッカ~二人がおうちに帰るまで~  作者: 猫宮蒼
三章 それはさながらゲームのような

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明かされたもの



 目の前に広がるのは一面の草原だった。

 草の合間合間に小さな白い花が咲いているのが見える。

 少し遠くまで見渡せば白以外の色もちらほらと見えた。


 どこからどう見ても草原としかいいようのない光景がそこにはあった。


 ククルビタ地区からサリエナ地区にやって来たものの、転移装置は人里ではない場所に通じていたらしい。


「どっちに行けば町とか村があるんだろね?」


 この転移装置を使ってこの地区内の他の場所に移動するとかしないの? とある種当然の疑問をユッカだって口にしたが、転移装置は必ずしも安全な場所にあるとは限らないと言われてしまったので。


 生憎とこの地区の転移装置の場所をほぼ把握できているのであればいいが、そうでないのに不用意に使うとそれこそとんでもない場所に出てしまうかもしれないのだ。


 そう言われてしまうとユッカだって転移装置でランダム移動しようぜ、とは言えない。

 転移した矢先に死ぬようなトラップが待ち受けてるかもしれないのだ。

 なにせここは何度でも言うが異世界。ユッカの想像を飛び越える勢いでとんでもない出来事があったって何もおかしくはない。


(そう、魔法がある世界って時点で私の想像の範囲を軽くぶち抜く勢いでとんでも展開があるかもしれない)


 そもそもこの世界に手違いで召喚されてる時点で充分とんでも展開だ。


 一陣の風が吹き抜けていく。

 さぁっと音を立てて草が揺れる。


「うーん、とても平和な光景」


 安全が約束されているのならピクニックとかに丁度良さそうな場所である。


「とりあえず、あっちの方にいくつかの魔力反応があるから、多分そこに町か村があると思うんだよね」


 ユッカの肩に乗っていたロゼが目を閉じてしばし黙っていたものの、どうやら魔力感知をしていたらしい。

 あっち、と前足をちょいと伸ばした先は、ユッカが見ている方向真っすぐだった。


 ユッカの視界には草原しか見えていないので、真っすぐ進んでもそれなりの距離を移動しないといけないようだ。


(トラップみたいなのがないとはいえ、でもまぁ、普通に他の地区から転移した直後に魔物の巣みたいなとこに出るなんて可能性も普通にあるもんなぁ……だとしたら、今回はまだマシな方か)


 ロゼが示した方向へ進みながらそんな風に考える。

 前の地区でナナイが他の地区から落ちてきた、という時に地区間での移動に転移装置を使わないのは危険、と言われていたが、転移装置を使うからと言って絶対に安全と言うわけでもないんだよなぁ……なんて思うと中々に異世界は厳しいところである。

 便利ではあるけれど、絶対的に便利かというとそうでもない。

 つい地球の価値観で考えてしまうが、こればっかりはユッカがユッカである以上どうしようもない事だった。


 風で草が揺れるたびにさわさわと心地の良い音がして、虫とかいないならお昼寝に最適そうだな~なんて感想を抱く。実際にポカポカとした陽気なので余計にそう思う。


(こういうとこだともののけあつめやる時歩きやすくはあるんだけど……レアなのはそんな出てこなそう)


 ふと、元の世界でやっていたゲームを思い出す。

 今まで一日中スマートフォンと共に過ごしてきたも同然なユッカだが、異世界に召喚され手元に馴染んだ道具がないという時点でよくまぁ発狂しなかったものだと思う。


 それというのも、元の世界に戻る時、時間も召喚された直後に戻れると聞いているからに他ならない。

 もしこちらの世界で過ごした時間と同じだけのものが向こうの世界で流れていたのであれば、ログインボーナスの消失どころか下手をすればいくつかのアプリはサービス終了なんてオチが待っているかもしれないのだ。

 サ終しなくても確実にいくつかのイベントは参加できずに終了している。

 ものによっては復刻を待つというのもあるが、ゲームによっては復刻イベントをやらないなんてものもあるので本当に戻る時に召喚直後の時間軸に戻れると聞いた時は安堵したものだ。


 ログボやイベントもそうだけど、長期間ログインをしない事でフレンド解除、なんて事もあり得るので。

 ゲームによってはフレンドなんていなくても問題はないが、サポートなどでお世話になっている場合はフレンド解除は意外と痛い。


(うーん、考えたらゲームが恋しくなってくるからあんま考えないようにしよ……)


 ゲームの事だけならまだしも、それに付随してばあちゃん今どうしてるかな、とかじいちゃん何してるんだろ……だとか。向こうの世界の事をつらつらと思い浮かべてしまうと余計に恋しくなってくるので、ユッカは普段意図的に考えないようにしてはいるものの。


 こうして長閑な風景をのんびり歩いていると、ふと思い出してしまう。


「そういやさ、ロゼとかディオスってホームシックになったりする?」


 考えないようにしようとしても、歩いているだけだとどうしたって余計な事を考えがちになってきたので、ユッカは雑談のような気持ちでそんな言葉を投げかけた。

 移動中に音楽でも聴きながら、とかであればそちらに意識を割く事もできるけれど。


 聞こえてくるのはユッカとディオスの足音と、時折吹く風の音。草花の揺れる音と鳥の鳴き声。

 ほぼヒーリングミュージックのようなものしか流れていないのである。


 フラワリー地区の時はそもそも召喚直後で何が何やら状態だったのもある。

 ルボワール地区の時も何が何やら状態だった。

 ククルビタ地区だってそうだ。

 なんか訪れた直後から巻き込まれるように何かがあったから、元の世界の事をふと思い出す、みたいな余裕がなかったとも言える。


「ホームシックって言われてもね。ボクにはないかな」

「……本当に?」

「家はまた建てればいいだけの話だし」

「そうなんだけどさ、そうじゃなくて」

「それに荷物は纏めてあるからね」

「あぁ、そっか……」


 ロゼの家はクークラによって崩落し、崩壊した。

 けれどもフラワリー地区そのものがなくなったわけでもないし、ローザが所有する土地はまだあるとも言っていたので、崩壊した家の中にあった荷物のほとんどを持ち出せているのなら、確かにそこまで悲観するべきでもないのだろう。


 家は壊れてしまったけれど、思い出の品だとか、そういう物はほとんどユッカが背負っているリュックの中に収納されているのであれば。

 失ったのはそれらを入れていた箱だけだ。

 それなら新たに同じような家を建てれば、ロゼの場合はほとんど元通りとなるのだろう。

 家の場所が少し変わったとして、ロゼの母親――マギサリュクレイアが帰ってくる事になったとて、フラワリー地区にいるのであれば家がないせいで帰れない、という事にもならないだろうし。


 問題としては、今この時点でマギサリュクレイアが戻ってきた場合くらいか。

 けれども随分長い間帰ってきていないとの事なので、仮に今戻って来たとして、その場合は知り合いの魔女などと連絡を取ってロゼの行方を捜すとかするかもしれない。


 現状ロゼは猫の姿のままで、こんな状態じゃ母親と連絡を取ろうにも……と思っているかもしれないが、それでもユッカの件が片付いてその気になればどうとでもできるのだろう。


(じゃあ確かにそんな困る事ってないのか……)


「生憎僕の家はもうありませんからねぇ……故郷と呼べるものもとうの昔になくなりましたし」

「そっ……ぅなんだ」

「えぇ、狩りと称して燃やされましたので」

「えっ、うわ、えっ!?」


 家がない、まではいい。

 ディオスは各地を旅していると言っていたので、まぁ家がなくてもそういうものなんだな、で今までユッカも流していた。

 故郷がない、というのもこの世界は地区が崩落して崩壊し消滅する事があると知っているので、きっとそれに該当するんだろうな、と思う。


 だが直後に付け加えられた一言に、ユッカの理解が追い付く事ができなかった。


「えっ、何、突然の闇……?」

 狩りってあの狩り?

 家燃やされたって事? それとも故郷そのもの?

 えっ、怖ぁ……

 奴隷とかそういうアレですか? と聞きたいがどこまで踏み込んでいいものなのかをユッカは考えて、結果それ以上何も言えなかった。


「えっと、なんか、ごめん。聞いちゃいけない感じだった?」

「いえ。昔の話ですので」


 家族の話をして、相手の家族が既に死んでいる、という事実を打ち明けられた時みたいな気まずさを感じたユッカだが、ディオスの声があまりにも淡々としていたので本当に気にしていなそうだな、とはユッカも理解はしたのだけれど。

(それはそれとして気まずっ)


 ちょっと元の世界の事を思い出してホームシックとまではいかなくても、その一歩手前くらいの感傷に浸りかけてしまったが故の言葉だった。それがまさかこんな事になろうとは……と当たり障りのない気不味くならない会話って何だろう……なんて考え始める。

 元の世界では野球の話と政治の話と宗教の話はやめておけ、と年配の親戚に言われた事はあるけれど。

 異世界でもそれって同じなんだろうか……そもそもこの世界に野球はあるのか。思考が余計な方向に飛びそうになってくる。


 だからこそ、ディオスが足を止めた事に気付くのに数秒ばかり遅れてしまった。


「ユッカさん」

「えっ、なに?」


 ディオスが止まったので、ユッカも遅れて足を止める。


「貴方がこちらに踏み込んでこないうちは……と思っていたのですが」

「は、はい。あっ、聞かれたくない事聞いちゃった感じ!? だったらホントごめん」

「いえ、故郷については心底どうでもよいのです」

「そうなんだ」


「ただ」

「はい」


「あまりにも目に余るので」

「目って……あ、いえ、なんでもないです」


 目隠ししとるやないかーい、という突っ込みは口から出なかった。

 そんな事を言う雰囲気ではない事くらいはユッカでもわかっている。


 けれどもそんなディオスに目に余るとまで言われてしまったのだ。


 一体何をやらかしたんだ自分……と思い返してみるも、生憎と心当たりがない。

(心当たりがあるならまだしも、何にもないってのも怖いな。知らないうちに無意識にやらかしてるって事だよね!? 謝ろうにも何が悪いのかわからんうちから謝るのは悪手ってばあちゃんに昔言い聞かされたし……)

 肩の上のロゼもディオスが何を言いだそうとしているのか、心当たりはなさそうである。


 なので戦々恐々とした状態でディオスの次の言葉を待つ。


「貴方」

「はい」


「ソルシエルロスではないでしょう」

「んっ!?」


 何故バレた! と叫ばなかっただけユッカとしては頑張った方である。

 しかし――


「えっ、何で!?」


 慌てたロゼがそんな風に言ってしまった事で。


「ロゼ」

「あっ」


 今ので完全バレバレだぞ、という言葉は言わなくても伝わってしまったようだった。

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