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ロゼとユッカ~二人がおうちに帰るまで~  作者: 猫宮蒼
二章 ノーヒントにも程がある

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大団円の一歩手前



 魔物と単独で立ち向かえる程の力はなくとも、普段から畑を耕したりして力仕事はやっている住人たちの本気のやる気は――とんでもなかった。


 お社があったとされる湖付近。

 そこにあったダミアンが潜伏していた小屋は勢いのまま壊された。


 小屋をリメイクしてお社にしようとか、そういう話が出ていた気もするけれど結局なんだか縁起が悪いという一言で小屋は解体され、そうして新たに一から作られる事となった。


 それぞれの町や村から集められた人が一致団結して作業している。

 住人たちにとっては今後もこの地区で生活できるかどうかの瀬戸際みたいなものだ。

 だからこそ団結力はすさまじいものがあったし、行動力も半端なかった。


 彼らが御使いに怯えていたというのが嘘のようだ。


 今ならうっかり姿を見せた魔物相手でもワンパンでぶちのめしそうな勢いがある。


 ユッカが進呈したカボチャの苗はお社近くの村の畑で育てられる事となった。


 以前は神聖な食物だから……なんて大々的に育てなかったが故に結局一つの一族に押し付ける形となってしまったが、同じ過ちを繰り返してはいけない。

 最初に植えられた苗に作物が良く育つ成長促進魔法をかけ、すくすくと育てた後種などを回収し、いくつかは町へ持ち込まれ研究される事となったし、それ以外の種は再び大地へ埋められる事となった。


 そうして何度かそれらを繰り返していけば、村の畑のいくつかの区画にあっという間にカボチャが増えた。


 ちなみに育った品種はバターナッツではなく普通のカボチャである。

 ユッカの知る品種がこの世界にあるとは思っていないので明確にこれ、と断言はできないが、スーパーでよく見かける見た目のやつだ。

 書物に記されていたものと見た目が異なり、瓢箪には見えないカボチャを最初こそ住人たちは「これ本当に合ってる……?」と不安そうだったが、ククルビタは問題なさそうだったのでどうにか供える事ができそうだ。


 爆速で作られたお社に、いざ育てたカボチャを!

 という事で供えられた途端。


 ぱぁっ、と仄かな光が一瞬だけお社に溢れた。


「ふむ、じゃあお供えは頂いていくペポ。ただしばらくの間供えていない時期があったから、すぐに何もかも元通りとはならんペポ。しばらくは沢山供えるようにしておくペポ」


 収穫されたカボチャがかなりの量そこにはあったはずだが、しかし次の瞬間には消えていた。

 そしてククルビタの姿もパッと消える。


 なんだかあまりにも呆気なくて、本当にこれでこの地区の危機は去ったのか……? という気にさえなってくる。


 カボチャに関してはククルビタの力添えもあってどうにか育ったが、では他の作物はどうだろうか……


 そんな不安とともに近くの村で試しに種を植えて、成長促進魔法を使ってみる。

 ややしばらくして、ぴょこ、と小さな芽が出た事でようやく。


「育った……!」


 わぁっ、と歓声が上がり、これで今までのように作物が収穫できるぞとなって。


 ようやくこの地区に見舞われていた災難は終わりを迎えたのだ。



 成長促進魔法で作物を急成長させることができるとはいえ、そればかりに頼るわけにもいかない。

 魔法はあくまでも補助である。

 そうはいっても今現在この地区に作物はほとんどないと言ってもいい。


 なのでしばらくは魔法を駆使して育てる事になると思うけど……と困ったように笑う住人に感謝の気持ちを伝えられて、お返しにできるものは少ないけれどと早速収穫される事になった作物のいくつかをユッカたちはもらい受ける形となった。

 なお大きさは普通サイズである。ダミアンがやらかしたバカみたいなサイズではない。

 その事に安堵しながらユッカは貰った作物をリュックにしまい込んだ。


 ある程度作物を確保したらその後は成長促進魔法に頼らず普通に育てていくのだと言っていた住人たちに別れを告げて、ユッカたちは転移装置へと移動する。


「思い返すとなんだかわけのわからない展開だったね……」

「まぁ、よくある事です」

「そうなの?」


 フラワリー地区で入手できそうにない種類の野菜とか果物とか買えればいいな、くらいの気持ちで来たはずが、まさかこんな事になろうとは……


 そんな気持ちで呟けば、ディオスにこの程度のトラブルはよくあるだなんて言われて、ユッカは思わず聞き返していた。


 そうなのか異世界。どうなんだ異世界。


 思わずそう言いたくもなるが、ディオスは各地を旅しているので本当か嘘かの判別がつかない。

 しばらくじっと凝視するかのように見ていたが、ディオスはその言葉を「冗談ですよ」なんて訂正する事はなかった。


 マジかよ異世界……


「えー、っとぉ、とりあえずこの地区での事件は解決したわけだけど……この後どうしようか」


 転移装置でまたフラワリー地区へ戻るにしても、マジで次の目的地も何もない状態だ。

 そろそろ遠くの地区の話でもいいからなんか自分たちが必要としてそうなアイテムの情報が流れてくるみたいなのがあってもいいのでは……?

 なんて内心で思い始める。

 目的はあるけれど、その目的を達成するためのフラグが何一つとして立っていない、というのがユッカの現状と言えるだろうか。


(いや、ゲームだったらこの時点で次の目的地がないって事は一度拠点に戻れば何らかのイベントが発生するはず……まぁゲームじゃないからフラワリー地区に戻ったところでなんもないってオチが待っててもおかしかないんだけど)

 昨今の親切設計ゲームみたいに次の目的地が表示されてればいいのに……

 それ以前にこの地区が移動をしているというのなら、戻ろうにも戻れないのだが。


 なんて思いながらも、とりあえず足を動かすのはやめない。

 ディオスは恩返しだのという理由でユッカたちについてきているわけで、明確な目的はなさそうだし、ロゼも現時点では次の目的地なんて言い出せそうにない。


 これはやっぱり最初にある程度在処がわかってるやつを狙いに行った方がいいのかなぁ……


 なんて思っていたら。



 どごすっ、というようななんとも言えない鈍く重たい音がして。


「えっ、何? 今のなに?」

「さて、何か重たいものが落下したような音でしたね」

「そうだね……ちょっと見てこようか」


 何かが落ちたとしても、一体何が……? なんて思えばロゼがひょいとユッカの肩から降りて音のした方へと進む。

 その後ろを追いかけてみれば、転移装置の手前でずたぼろになったダミアンと、それを見下ろすナナイがいた。


「あっれなんかちょっと前にも見た光景」


 というかダミアンは魔法を使ってどこかに逃げたのではなかったのか。てっきり他の地区まで魔法でワープしたのだとばかりユッカは思っていたのだが、まだこの地区にいたらしい。


 そしてまたもやナナイと遭遇し一方的にボコボコにされた……と、事情を聞かなくても理解できてしまった。


(多分私たちがいなくなってからまたこの地区にちょっかいかけようとかしてたのかなぁ……?

 それともタイミングを見計らって他の地区に逃げるつもりだった? いやでもだったらさっさと逃げるよね。じゃあやっぱこの地区でまだ何かやらかすつもりだったって事かな?)


 言葉に出さずに結論を出す。

 仮にダミアンに問いかけたところで、正直に「この地区をめちゃくちゃにしてやろうと思っていました」なんて答えるはずがないのだ。殺意があって殺した殺人犯が裁判で殺すつもりはなかった、とか言い出すのと似たようなやつである。


 いや、そう決めつけるのもどうかな、とは思うのだけれど。

 もしかしたら本当に、心から改心して陰ながらこの地区の住人たちの手助けをして罪滅ぼしをしようとした可能性も無きにしも非ず。例えるのならば、最終的に撃ち殺されてしまったキツネのように。

 だがしかしその場合最終的に発見した住人たちに「ダミアン、お前だったのか……」とは言われないだろうなとも思う。むしろまだ何かをやらかそうとしていたのか、と悪い方に取られてさっさと始末して正解だったと思われるかもしれない。


「そちらは解決したのでありますか?」

 ちらり、とユッカたちに視線を向けてナナイが問う。それに対してユッカは「どうにかね」と返した。

 そう、ダミアンがこの地区に仕掛けた術式は解除されたのでもう畑から勝手に無駄に大きいくせに味のあまりしない作物が発生する事もないし、御使いが生まれる事もない。ついでに御使いが使役していた魔物も。

 お供えをした事でこの地区は緩やかに住人たちを再び受け入れていくし、今度は住人たちもお供えをする相手を固定化させる事もなく、皆でカボチャを育てて供えていく事だろう。


 そうしていく事でいつか、この地区は一大農業地区として名を広めていくのかもしれない。

 そうじゃなかったとしても、今度は上手くこの地区と向き合って生きていける事だろう。


 住人たちがお供えをしなくなればまた同じ事になるかもしれないが、ククルビタの存在を見た住人たちがいる以上、後世にもっとしっかりと情報も受け継いでいくはずだ。


 言ってしまえばハッピーエンドというやつである。

 ……ダミアンのような存在がこの地区で何かをやらかそうとしない限りは。


「で、ナナイはなんでこいつをここに?」


 さっきの重たい音が多分こいつを投げ捨てたりした時の音だったんだろうな、とアタリをつけてユッカは問いかけた。この辺りに隠れていて、それで見つけてぶん殴ってその拍子に倒れた時の音、とするにはちょっと違う気がしたので。殴られた拍子に倒れたならもっと地面との摩擦音がしても良かったはずだ。だがそれよりも叩きつけたような音に聞こえたので殴ったというよりはかなりの勢いで上から放り投げるように叩きつけたのだと思われる。


「はい、この男は隠れまた何かをやろうとしていたのでそれを阻止したのであります。

 このまま放置していてもこの地区に害を与えるだけと判断。故に転移装置で他の地区へ追い出すところであります」

「成程ね」


 こいつがした事は問題しかない。けれどもここで、ナナイやユッカたちが始末する、というのもなんというかな……と思うわけで。

 司法どうなってんだろ、と思ったものの、この地区で起きた事である以上、この地区の住人たちに判断をゆだねた方がいいのかもしれないが、住人が何人か犠牲になった以上こいつも殺せ! となったとして、だ。


 誰が殺すのかという話である。


 住人たちに殺させるにしても、その時は怒りで殺せたとしよう。

 だが時間の経過と共に人を殺してしまった……という罪悪感で精神を病むかもしれない。

 かといってユッカはロゼにダミアンを殺して、とは頼めない。流石に頼む内容ではない。勿論自分で手を下すなんて以ての外だ。

 自分の言動の何かが原因でダミアンが命を落としたとしても、それが自分の知らない場所であったのならユッカとて気に病む事はないと思う。だが、だからといって自分の手で人を殺すというのはまた話が違うわけで。


 ゲームなら平気で敵を殺す事もできるけれど、現実でそれは流石に……と思う程度にはユッカだってゲームと現実の区別はつけている。

 同じように一応知り合いだからとて、ディオスにダミアンを処分しろ、などと言えるはずもない。

 知り合いだからなんて理由でとんでもねぇ重圧を押し付けるのは流石に暴論が過ぎる。


 明確にダミアンが殺意をもってユッカたちに襲い掛かってきたのであれば、正当防衛としてロゼあたりが倒す事もあるかもしれない。だが現状ダミアンは既にナナイと戦ってズタボロである。

 ナナイも殺すまではするつもりがないのだろう。


(こっちの世界の法律がわからんから何も言えんけど……人を殺す原因を作ってても実際こいつが直接手を下したわけじゃないしなぁ……私の世界でもムショにぶち込まれはしても死刑になるかどうか……まぁこの人精神鑑定で責任能力はあるって思われそうだからそれなりの罪は確定するだろうけど、死刑になるかはわからんな……)

 生憎ユッカはそこまで刑法に詳しくないので何とも言えない。将来裁判官や弁護士を目指して勉強をしているわけでもないので。自分の頭じゃ流石に無理だと思っている。


 まぁ無罪放免というわけにはいかないのは確かで、だからこそナナイはこの地区から追放しようとしているのだろう。

 他の地区でもやらかす可能性は思い切りあるけれど、ここみたいな平和な場所ではない、もっと危険に満ちた地区に行くような事になれば悪事を働く以前にダミアンがマトモに生存するだけでも難しい事になるかもしれない。


 そもそもディオス曰く、ダミアンはそこまで強いわけでもないとの事なので、このククルビタ地区のような平和な場所でなら脅威になってもそれ以外の場所では脅威どころか弱者の立場になる事もあるわけで。


 じゃあ、どっか別の地区に追放してそっちでやらかした場合に裁かれるなんて事もあるのか……とユッカは雑に想像する。


 ククルビタもそもそもダミアンに関して何にも言ってなかったしなぁ……と思うと尚の事自分の手を汚してまで……とは思えなかった。


「そっか、じゃあさっさとこの地区から出てってもらおっか」


 なのでユッカはナナイのやろうとしてる事を止めるつもりはこれっぽっちもなく。

 むしろさっさとどっか適当なとこに追放しよっか、と賛同したのである。

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