魔法のリュック
カボチャ、と一言で言ってもそこそこの種類がある。
皮が緑で中がオレンジ色もしくは鮮やかな濃い目の黄色の、一般的に連想されがちなものから、皮が白っぽい品種。ハロウィンの時期にお目にかかる皮も中身も鮮やかなオレンジ色の観賞用カボチャ。
両手で抱えきれない大きさのものから、片手の平におさまるくらいの小さなものまで。
カボチャ、と一言で言っても色んな種類があるのだ。
大半のカボチャはでこぼこしてても大体丸い形と言えなくもないけれど。
中には瓢箪みたいな形のカボチャだって存在している。
全部が全部瓢箪のような形かと言われるとそうではないけれど、それっぽく見える事の多い品種は、ユッカの記憶では少し大きめなスーパーあたりでなら見かける事もあった。
どこにでも流通しているというわけではなさそうだが、それでも近年ちらほらと見かける事が増えつつあるそいつの名前はバターナッツ。
お勧め料理はカボチャのポタージュ。
男が記した食レポを見れば見るだけこいつが完全一致状態なのである。
思い返して見ると、ダミアンがこの地区に施した術式で増やされた野菜や果物は、ここで育てられているもの、という限定をされていたようではある。
けれど積み上げられたノルマ作物の中に思えばカボチャの姿は存在していなかった。
この地区で育てられていたとはいえ、ダミアンが来た時にはとっくに畑から消えていたし、ダミアンもその存在を認識していなかったのかもしれない。
「カボチャ……? あぁ、そちらの地区ではそう呼ぶのですね」
僕はパンプキン派です、とディオスが空気を一切読まない発言をした。
「地区によっては同じ物を指すのに違う言葉になってる、っていうやつね……」
ユッカとしてもむしろカボチャって言葉が通じた事に内心で安堵した。
それからパンプキンと言う言葉もこの世界には存在しているのだなとも。
フラワリー地区のお店で見かけた食料の中には、ユッカが知っている見た目でも名前がちょっと違うな……? と思ったものも複数存在していたので、いざ口に出してみたものの誰にも通じなかったらどうしようかと思ったのだ。
ユッカの住んでいる世界――というか国内でも方言などで似たような言葉のくせに意味は全然違うだとか、そういうのがあるので異世界でもそういう事は有り得ると思っていたのだけれど。
まさかこんな形でそういう事象に遭遇する羽目になるとは思ってもみなかった。
「正解だペポ。他の地区では確かにそう呼ばれてる事もあるペポな」
「いやだったらあんたのその見た目ぇ!!」
よくぞ真実にたどり着いたペポ、とばかりにふんぞり返るククルビタにユッカは思わず叫んでいた。
いやだって、こいつの見た目はどこからどう見てもカブ。もしくは丸っこい品種の大根なのだ。
雪化粧とかいう品種のカボチャよりも表面が真っ白。こいつの見た目からカボチャを連想しろというのは流石に無理がある。
ぶっちゃけると幼稚園児がクレヨンで描いた犬とか猫の方がまだわかりやすいまである。
「こんっ、こんな見た目で全力ブラフするとかおまっ……お茶目で済むってレベルじゃないかんね!?」
なんだか詐欺にあった気分だ。
というかもしかしなくてもククルビタはお供えに辿り着けなくても構わないくらいの気持ちなんじゃなかろうか。そんな気がひしひしとしてくる。
(いや、まぁ、確かにククルビタ的にはお供えがないせいで住人たちという異物を抱え込んでるから、それをどうにかするために力を使って大変だってのは確かなんだろうけど。
でも、住人たちがいなくなるならそれはそれで構わない、と思っててもおかしくはないんだよなぁ……)
もしここで間違ったお供えをした時点で、住人たちを抱え込んだままククルビタたちが共倒れするか、となるとしなさそうではあるし。
すぱっとこの地に見切りをつけて、ククルビタたちはどこか安全そうな地区でしばらく力を溜めて、また新たな新天地を作る……なんて事もできそうではあるし。
それとも、そこまで深くは考えてなくて、結末がどうであれ、どちらでも良いのかもしれない。
(精霊の基本的な思考がわかんないからなんとも言えな~い)
友人とか身内ならある程度何を考えてるか想像がつくけれど、生憎ククルビタと知り合ったのはついさっきみたいなものだし、この精霊の考えなんてユッカにはさっぱりだ。
「でもカボチャを供えればいいってわかったなら話は簡単……いや、種とかなくない?」
ククルビタの正体が発覚し、じゃあ後は壊れたお社を作り直してそこにお供えするだけ……と解決の糸口はつかめたものの。
万事解決! といきたかったがふと根本的な部分に気付く。
お供えをしていた男の畑で細々と作られていたとはいえ、既に男が死にかなりの時間が経過している。
男が所有していた畑には誰も手を入れていないという話ではあるが、男が死んだ直後ならまだ苗だとか、最悪育てたカボチャから種を回収するだとかの方法があったかもしれない。
けれど相当な時間が経過しているのであれば畑だった場所は雑草が占拠している可能性が高く、カボチャも野生化して勝手に育つ……とは考えにくい。
(あれ、カボチャって受粉するのに手作業必要だったっけ……?)
ユッカは生憎と家庭菜園でカボチャを育てた事はないのでそこら辺詳しくないが、しかし筆などを用い手作業で受粉させないと実をつけてくれないものはあったはず、とふんわりと思い出す。
運良く蜂などの虫が受粉してくれたなら手作業でやらなくても実ができたりはするけれど、それに期待するのはちょっと無謀が過ぎる。
(いや、それでなくとも作物が育たなくなった、って言ってたんだから、その人の畑のカボチャも残ってるなんて思うのは無理無茶無謀か)
「ここになくても他の地区にあるペポ。
それを育てればいいペポ」
そんなユッカの考えを読んだかのようにククルビタが言う。
けれどもすぐさま「でも」と続けた。
「正直あまり時間的猶予はないペポ。
多分そろそろこの地区は別の場所に移動を開始するペポ」
「ん? って事はつまり?」
「近くの地区に移動しても、この地区が移動を開始してたら転移装置を使っても戻ってこれるかわかんないって事だよ」
「ヤバイやつじゃん」
ロゼが答えてくれた事で、地味に問題しかない状況であると悟る。
フラワリー地区に戻ってそこでカボチャの種なり苗を購入できたとして。
急いでまた転移装置でククルビタ地区へ戻ろうと思っても、その時には地区が移動を開始してフラワリー地区の転移装置の行き先にククルビタ地区がない、なんて事になってしまえば戻るだけで相当な時間がかかりかねない。
適当に地区間を移動していけばいずれは辿り着くかもしれないが、時間的猶予がない、と言われている時にその方法を試すのはあまりにも無茶だ。
「そ、そんな」
「一体どうしたら……」
住人たちもこの状況をどう打破すべきなのか、と言わんばかりに不安そうな空気が広がっていく。
「ユッカ、安心して。
多分リュックの中に入ってるはずだから」
「えっ」
ロゼに言われてユッカは信じられないとばかりにリュックを下ろした。
そうして中に手を突っ込んで探ってみる。
ホームセンターの園芸コーナーで売ってそうな状態でカボチャの苗が出てきた。
「嘘やん……いやマジだけども」
こんな事ってある……? という気持ちが凄い。
だが、カボチャの苗を見た住人たちはまるで救世主が降臨なされた! とばかりの反応だ。
「って事は……」
「大急ぎでお社を作るところから始めるペポね」
ククルビタの声に、ある者は現場へ直行し、ある者は人手を集めてくると各町村へと移動を開始する。
先程までの状況から一転、ようやく事態が解決しそうな兆しが見えた瞬間だった。




