表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ロゼとユッカ~二人がおうちに帰るまで~  作者: 猫宮蒼
二章 ノーヒントにも程がある

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

64/91

ククルビタの正体



 お供え物のククルビタ。

 それを記したと思われる手記にあったのは、どこからどう見ても瓢箪だった。

 単なるお供えならそういうものかでさらっと流してしまいそうだが、しかしここで作られる作物は全て食料だ。

 であればククルビタもまた食料であるはず。


 少なくとも食べられない観賞用のもの、という事にはならないはずだった。


 この地区の住人にとっては守り神と同じ名を冠するもので、神聖であるがゆえにこの地区の住人は食べないもの、とされていたけれど。

 ククルビタの反応からして瓢箪ではない事が明らかになっている。


 むしろお供えがなくなってから、他の住人がククルビタを育てるとかそういう方向にならなかったのだろうか、とユッカとしては疑問に思うのだが、しかし種なり苗なりがなければ流石に育てようとはならないかと思い直す。


 神聖だったはずのそれが、時間の経過と共にお供えをする者以外から忘れ去られるってどういうことだよ、という思いも確かにあるけれど、人間なんてものは自分に関係ないと思ったらそれが本当は思い切り関係するような事でもコロッと忘れるものなのだ。

 そうして大惨事になってから慌てふためく。


 この地区での出来事だってそんなものだ。


 だがもうこの地区の住人たちからすれば、今の状況は自分たちに無関係ですとは決して言えないもの。

 このままでは住人たちはこの地区で食料を得る事ができなくなる。

 勿論鳥や獣がいないわけではないし、川や湖に魚くらいはいるだろう。

 けれどもこの地区にいる食料になりえそうなものを狩猟する生活に変えたところで、恐らくはこの地区に今いる全員が飢えを満たせるとも限らない。

 そうなればいずれ、この地区を捨て別の地区で暮らすしかない……なんて事になるだろう。


 いっそそうしてしまえばいいのかもしれないが、しかし住人たちの実力は恐らく他の地区の住人と比べて弱い方になるのかもしれない。

 今いる場所よりももっと危険な場所で暮らす。それがどれだけ大変な事かは考えずともわかるだろう。


 だからこそ、この地区で生きていくためにお供えをして、綻び壊れつつあるククルビタと住人たちとの契約を結びなおさなければならない。


 言葉にしてしまえばとても簡単なはずのそれが、今、予想外に難航していた。



「せめてカラーで描かれてたらもうちょっとこう……ヒント的なのが他にも得られたかもしれないんだけど……」


 ユッカの呟きは声に出さずともこの場にいる住人たちも思ったに違いない事だ。


 文字が読めないわけではない。字は綺麗な方だった。

 そして絵も。ちょっと味のある画風ではあるが、それでも何がなんだかわからない、というようなものではない。

 特徴はきちんと捉えていると思われる。


 お供えをしているその人の手記には、本来は持ち回りでお供えをしていくつもりだったが、しかし毎回育てる畑を変えるとなると、他の作物との兼ね合いが……などと書かれており、そうして最終的にこの手記を最初に書いた人が専属となったようだ。


 毎回同じ畑で同じ作物を育てるのって、なんか駄目なんじゃなかったっけ……? とは思ったものの、そこは微妙に工夫していたようなのでお供え物が育てられなくなるとかはないようだった。


 絵だけを見るとどこからどう見ても瓢箪。

 ユッカの脳内で小学生の頃に学校の授業の一環で育てる事になったへちまが連想される。

 きゅうりとか、なんかああいう感じでぶら下がるみたいに育つ感じなのかと思ったが、蔓のようなものは確かに伸びるが、ぶら下がって実をつけるようなものではなく、どちらかといえば地上で実をつけるのだとか。


 その時点でユッカの中で何となく答えが出そうな気がしたが、しかし瓢箪と脳内で浮かんだ答えであろうものとが重ならない。


 いやそもそもここ異世界だし、自分の元の世界の知識で言っても通用しない可能性あるし……

 などと考えつつ、他にどうにか答えになりそうなものがないか、住人たちと一緒になって手記を読み進めていく。

 ある程度読み進めていけば、既に手記というよりは備忘録と言った方が正しいような気さえしてきた。



 最初の頃の――それこそお供えを始めた頃の初代であろう人の頃は手探りで色々と苦戦している様が書かれていたが、代を重ねていったのか少しずつ筆跡が変わり、文体もいくつかの変化が見られた頃。


 内容は特に今必要そうなものではない部分は大分流し読みをして飛ばしたが、ここに至ってもまだククルビタに関する情報はほとんど得られなかった。

 今年も無事に奉納できた、とかそういう感じで段々最後の方になると内容もほとんど変わらない、というか最早書く事もそんなにない、みたいなものになっていたのだ。


 じゃあもうほとんどノーヒントって事じゃん……と内心で「うわヤバ」と思っていたのだが。


 備忘録は出版された本とは違い、紙を束ねて綴じている言ってしまえば手作りの書物だ。

 そろそろ終わりに差し掛かる頃だなー、マジでなんも情報ないとか詰みすぎるなー、と他人事ながらもハラハラしていたのだが、そのほぼ終わりかけているページ、最後の最後といったところで、


『供えるためのもの、とわかっていながらも誘惑に耐え切れず食べる事にした。

 とても美味しい』


 という一文が見えたのである。


 今の今までお供えとして育てていたククルビタは、できたやつ全てを供えていたらしく歴代の者たちは食べたりしていなかったらしい。

 いや、もしかしたら食べた事はあるのかもしれない。

 けれども神聖なお供え物を食べた、と他の者に知られた場合叱られるのでは、糾弾される事になってしまうのでは……と恐れ口に出さず、こうして書き記したりもしなかっただけかもしれない。


 けれども最後に残されていた者は、己の末期を悟っていたのか、悪い事と思いながらも育てていたククルビタをこっそりと食してしまった。


 それだけではない。

 本当に長い間供えてきたとはいえ、畑の守り神の加護が本当に存在しているのかとも疑いを抱きつつあったその人は、興味本位でお供え物にするはずだったククルビタの一つを調理し食べてしまった。

 それが、悲劇の始まりだった。

 一つだけならそれ以外のククルビタを供えてしまえばいいだけなので、然程問題にはならなかっただろう。


 住人たちが頭を突き合わせ悩んでいるのを眺めているククルビタを見る限り、一つや二つお供え物を食べたからとて激怒し暴れまわるような感じはない。

 重要なのはお供えをきちんとするかどうかであって、数に決まりはないようだったので。


 あくまでも契約が果たされていれば問題はなかったのだろう。


 ところが最後にこの備忘録を記していた男は、こんな美味しい物を今まで食べる事もできずひたすら捧げ続けるだけ、という事に不満を抱いた。


 丹精込めて育てたククルビタ。

 それを供える事でこの地区の畑は豊かな実りを約束されているというが、果たして本当にそうなのだろうか?

 供えて、その供えたククルビタは誰の口に入るでもなく土に還っていくのであれば、それは食材に対する冒涜になるのではないか。


 お供えをするお社には、一度備えた後すぐさま取って返したりすることもないせいで、その後供えたククルビタがどうなっているのかを男は知らなかった。

 もしかしたら魔法でどこかに転送されているのかもしれない……とも考えたし、住人のうちの誰かがこっそりと持ち帰っているのかもしれないとも思っていた。


 今まではそういうものとして受け流していたが、しかし食べてしまった事で男は惜しくなったのだ。

 丹精込めて育てたククルビタを無駄に廃棄するようにしか思えないその行動が。


 男は己がもういい年だとも理解していた。

 長くないとも感じ取っていた。


 だから最後に。


 自ら育てたククルビタを思う存分堪能しようと、様々な料理にして食べてしまった。



 その後、男は亡くなった。天寿を全うしたと言えなくもないが死因としては事故死である。

 その事故は決してお供えを勝手に食べたが故の天罰というわけでもなく、老齢による体力の衰えと、ふとした瞬間の不注意によるものだ。若い頃ならちょっとした怪我で済んだかもしれないそれは、衰えた身体では耐え切れなかった。

 ただ、それだけの話である。


 そして最後に男はククルビタについての食レポを備忘録に記していたのだ。


 どうせ自分には子孫もいないし、自分が死んだ後で身内に迷惑がかかるでもない。

 そんな部分もあったのだろう。


 まぁそのせいで、他にお供えの概念が消失していた住人たちが多大なる迷惑を被ってしまったわけだが。


 けれども、男の気持ちもユッカはなんとなく理解できてしまった。


 地区全体でもっとまじめに取り組んでいればよかったのに、気付けば自分の一族にだけその使命が押し付けられてしまっていたのだ。神聖なお供え物であるとはいえ、大々的に周囲に知らしめるわけでもなく、一族に与えられた畑の一画でこっそりと育てるというのも、なんだかまるで悪い事をしているように思えてしまったのだろう。


 ククルビタが住人たちの前に姿を見せてその存在をもっと知らしめていれば、お供え物についての意義を男だって感じ取れたかもしれない。


(あまりにも昔の事すぎて契約がお伽噺レベルに成り下がった結果、って言ったらそうなんだけど……いやでもこれ……)


 男が死んだ後にまだ畑にククルビタが残されていたのであれば、他の住人ももしかしたら何か、気になったり色々と調べたかもしれない。

 だがしかし男が死んだ後、男の畑に残されていたものはククルビタ以外の作物だ。他の者も育てているような、珍しくもなんともない農作物。

 見慣れない品種があればまだしも、そうではなかったので男の死後、他の住人たちが畑に関してはある程度の処理をしていた。


 家については、時間を見て落ち着いてからゆっくりと片付けていこうという話が纏まっていたのだとか。


 新規の住人が来たとかであれば早急に家の中を片付けて新しい住人の住居に転用したかもしれないが、そんな事もなかったため家は大分長い間放置される結果となってしまった。



 ともあれ、備忘録最後の方のページに記されていた食レポは、備忘録という代物の中では相当異質に見えてしまったけれど。


 ユッカの中でククルビタの正体がしっかりと固まっていく。


 煮て食べるのがいいだとか、煮て潰してペースト状にして他の食材と混ぜたりしても美味しかっただとか。

 焼く時はあまり分厚くすると中に火が通らず表面が焦げてしまうので薄切りにする事だとか。


 食レポのみならず調理する際のあれこれも記されていたが、これは別に後世にこれを読んだ相手へ教えてあげようというものではなく、記した男にとって備忘録の一つでしかなかったのだろう。


 色々と書き連ねられているものの、最終的にスープにするのが一番美味、という一文を見て。


「あぁ、うん……

 大体把握したわ」


 ユッカは思わず呟いていた。


 そのせいで住人たちの視線が一斉にユッカへと向けられる。


「これ、カボチャですね」


 一体どんな食材なんだと思っていたククルビタ。

 けれども正体を把握してしまえば。


 ユッカにとっては珍しくもなんともない、ありふれた野菜でしかなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ