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ロゼとユッカ~二人がおうちに帰るまで~  作者: 猫宮蒼
二章 ノーヒントにも程がある

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限られた情報



 この地区を作った精霊ククルビタに、その名を冠する食物を供える。

 それでこの地区の住人の悩みは解決する。


 する、のだが……


 肝心のククルビタというのが何であるのかがわからない。

 最早致命的である。


 住人たちが育てている野菜や果物の中にククルビタと称されるものがないのだ。


「ロゼはククルビタって知ってる?」

「いいや。聞いた事ないかな」

「ディオスは?」

「生憎と」


「ふーん、じゃあここでしか育てられなかったもので、今はもう作られてないって感じなのかな?」

「どうだろうね」

「えぇ、地区が変われば呼び名も変わる。名前が違うから別の物を指しているのだと思って色々確認してみれば、実際は同じ物を示していた、なんて事例もありますよ」


「じゃあ、ここ以外の地区ではククルビタって名称が使われてないだけで、普通にそのククルビタが流通してる可能性があるって事?」

「可能性としてはゼロじゃにゃい」


 ロゼの言葉にそうなんだ……と頷いて。


「でも、結局他所の地区でククルビタって名称が知られてないのなら、解決策ってなくない?」


 致命的すぎる結論が出てしまった。


 かつてこの地区で暮らしていたけれど他の地区へと旅立った者がいる、とかであれば一部地域でもしかしたらこっちでは〇〇って呼ばれてるけどククルビタ地区ではククルビタって呼ばれてるんだぜ、なんて話が残っているかもしれないが、しかしだからといって今からそんな……過去にいたかどうかもわからないこの地区を出て他の地区へ向かった者の痕跡を辿るのは明らかに無謀である。


 ついでに仮にそういう事があったとしても、ロゼの耳に入っていないし、各地を旅しているディオスも知らないというのなら、もしそんな相手がいた、とこの場で誰かの口から出たとしても相当ニッチというかなんというか……

 探すとなると相当な難易度であるのは間違いない。


 もっと有名どころな話であればどうにかなりそうな気もしてくるが、ユッカにとって肝心な情報源になりそうなロゼもディオスも知らないとなればそっち方面での期待はしない方がマシ。

 ナナイもそういう意味ではあまり頼りにならない気がした。どのみちナナイは今この場にいないので聞きようがないのだが。



「現状育てるっつってももうほぼ難しい状況ペポな。

 だからチャンスは一度だけペポ。

 一度だけなら、どうにか作物を育てるための力を回せるペポ。

 それ以上はオイラも厳しいペポな」


 総当たりで色々作ってとにかくお供えしてみようぜ! なんて意見は出る前からククルビタに一蹴された。


 ただでさえ作物が育たない状況。

 ダミアンがしでかした術式の解除をしたとはいえ、作物が育たないのはダミアンが何かをしたからというわけではなかったので、当然術式を解除できたからといって作物が育つようになったわけでもない。


 ダミアンがしでかしたあのやたら大きな作物はもう畑で発生しないので他の――マトモな作物を育てる場所はある。けれどもお供えを長い間放棄した事で住人たちが何かを作ろうにも、現状それは難しい。

 お供えをしたくともできない状態。

 それをどうにかククルビタが一度だけ力を回してくれるとは言うけれど、つまり失敗は許されない。


「って事はまずお供えをしていた家の人の記録みたいなのがないか調べるところからかぁ……」

「そもそも残ってるんですかね、記録」

「ってか家残ってるかどうかもわかんないんだよね、なかったら詰んでない?」


 既に話はククルビタとこの地区に住む者たちのものになっていて、ユッカたちはすっかり部外者だ。


 それでもここにいるのは、なんとなく見届けておくか……という気持ちに過ぎない。

 今の時点でククルビタが何であるのかを知らないとはいえ、それでも他の地区で別の名称で呼ばれていて、しかもそれをユッカたちの誰かが知っている可能性は充分にある。

 勿論、知らないままでなんの役にも立てない可能性もあるけれど、どちらにしても結末がわからないままここを発つ気にはなれなかった。


 これからどうするべきかを話し合っている住人たちを眺めながらユッカは思った事を特に深く考えるでもなく口に出しただけだ。

 別に手伝おうとか、邪魔をしてやろうだとか、そんな風に思ったりはしていない。


 だがそんなユッカの一言が彼らに次にやるべき事を気付かせたらしい。

 チャンスは一度だけという状況で皆、冷静さを保とうとしてはいたようだけど、やはり内心では焦ったり混乱していたりしたのだろう。


 探し物をしている時に限って目の前にあるのに気付かない時のように、シンプルな発想がすっぽ抜けていたのかもしれない。


「家は!?」

「まだ残ってます」


 咄嗟に誰かが問いかけて、お供えをしていたであろう人が住んでいたところの代表者が返す。


 それからは速かった。

 ここに集まる時にまったく魔物の姿も見かけなかったからというのもあったのかもしれないが、ユッカたちに付き添ってほしいと言うでもなく数名が席を立って駆け出していた。

 転移装置に向かったのだろう。


 あ、とユッカも一応ついてった方がいいのかなー? なんて思って立ち上がろうとした時には、もう大分離れていた。今から走って追いかけるのもなぁ……という気になって、浮かした腰をそのまま下ろす。ロゼも咄嗟にユッカの肩に飛び乗ったけれど、行かないと察した時点で膝の上に戻った。


「口伝だったらアウトだけど、他者に知られてはならないみたいな決まりがあるわけじゃないんだったら多分書き記してる可能性はあると思うんだよねぇ……」

 ゲームだったら絶対に手記として残されてるとは断言できるのだけれど。

 しかしそうではないのでユッカとしても口に出した言葉の半分くらいはそうであってくれ、という願望でしかない。


 大体書物に記して残してあったとしても読解力がない奴が誤読した結果とんでもねぇ伝わり方をしてしまった……なんていうものもあるのに、口伝だけなら正確性はもっと際どい。

 書物に関しては後にマトモに読み解ける人が見直せば軌道修正もどうにかなるけれど、口伝の場合だと聞いた本人の記憶だけが頼りになるし、その記憶だって確実ではない。

 人の記憶は正確だと思っていても本人も知らぬ間に勝手に細かな部分を脳が修正したり、本人がこう、と思い込んだ結果歪められる事だってあるのだ。


 口伝で伝えられた相手が年齢と共に昔の記憶も朧気になって……なんて事もあるけれど、今回の件に関して言うのならそもそもお供えをしていた人が既に亡くなっているので口伝だった場合お供えをしていた相手が誰かに情報を残していなければ詰みである。


(どうなんだろうなー、いやでもこの地区の人たちは別に争いとかしたわけでもないから、だとしたら残ってる可能性はあると思うんだけど)


 日本は割と昔の記録も残っているが、海外だと戦争した後、勝った国が敗北した国の歴史を抹消したりするせいで数百年程度の記録しか残っていない、とかなんか授業で聞いた気がする。

 現代になってそんな事はしてなくても、昔はそういう事があったのだと。


 あとは情報を残すにしても、媒体次第だろうか。

 紙が結局なんだかんだ最終的に強いとは聞くが、紙の質次第では折角残しても読めなくなることだってあり得るのだ。


 この地区の文明レベルはものすごく低いわけではなさそうだが、高水準と言い切れるわけでもない。


 どうなんだろうなー、大丈夫かなー、と内心でやきもきしているうちに、転移装置に向かった数名が戻ってきた。その手にはいくつかの古めかしい書物が抱えられている。


 お供えをしていた家ではどうやら記録を残していたらしい。

 ただ、そこにきちんとククルビタについて記されているかどうかまではまだ不明だ。


 手分けして持ち出してきた手記を広げ、それぞれが読み始める。


 ユッカも暇だったので、住人たちの背後からちらちらと手記を覗き込んだ。



 その手記から読み取れた内容をユッカなりにかみ砕くと、どうにもククルビタの栽培はそこまで盛んではなかったようだ。

 というのも、お供えが始まった最初の頃、精霊であるククルビタに対して住人たちは当然敬う心と畏怖を覚えていた。守り神とも言える存在と同じ名を冠した食物を気軽に住人たちが口にするのは恐れ多い、となったようで作るのはあくまでもお供え用のものだけとなったらしい。


 経緯としては理解できなくもない。

 あー、そっちかーという気持ちも同時にあるけれど。


 守り神の名と同じ食物を神から与えられた祝福かのように地区全体で国民食扱いになる……という方向にはならず、神の名を冠するものは神の元に、となった。

 結果として大々的に栽培はされず、お供えをする者が畑の一画にそっと育てるに至った。


 ユッカの住む世界なら、そんなたった一人にそれを任せてもうっかり天候悪化とかで育たなかったらどうするんだ、となりそうだが、しかしこの地区ではお供えをすればククルビタの加護により作物は育つ。

 であれば、予備だのなんだのと考える必要はなかったのだろう。


 むしろ予備が必要なのはお供えをする人材だったようだが。


 最初の頃はお供えをする役割を周囲も知っていた。

 けれども長い年月が経過していくうちに、周囲がその役割について忘れていったのだろう。

 お供えをしている一族だけは細々とであっても情報を残していたようだが、しかし最後のお供えをしていた存在は結婚をする事もなく、跡取りを残す事もないままに亡くなってしまった。


(伝統芸能とかも跡取りがいなくなってそこで途絶えた、なんてあるあるだもんね。

 それに……最初の頃はさておきずっと平和だとお供えについてもいつしか形骸化しただけのもの、で重要視しなくなる人が出てもおかしくはない。

 実際お供えが途絶えても、数年はどうにかなってたっぽいし)


 それでもお供えのために育てていた小さな畑があるのなら、そこにまだ希望はあるのではないか。


 そう考えた者もいたようだが、しかし数年単位でお供えはされなくなっている。

 その後世話をしていた者がいないのであれば、とっくに枯れてしまったと考えていいだろう。


 たまに野生化してすくすく育つ、なんてケースもあるけれど、その家が持っていた畑はその後嵐などに見舞われた際、酷い有様になったらしくそのままなのだとか。

 他の家の誰かが手をいれようにも、皆自分の畑の世話を優先した結果だった。


 そうこうしているうちに、枯れたままの草が畑を覆ってただの荒れ地みたいになっている、とその村の人が言っていたので小さな希望に賭けて畑を確認しても意味はなさそうだ。



 そうなるとやはり後は残されている手記が頼みの綱である。


 お供えのために作るククルビタを、よりよい品質にするための育て方指南でもなんでもいいから、とにかく手掛かりになりそうなものがないかと皆が皆黙々と文字を目で追っている。


 そうしてそれらしき記述がされた部分を発見した者が、

「これじゃないか!?」

 そう言って周囲に見えるようそのページを掲げて見せてきたのだが。


「……えっと、それは」

「瓢箪……か?」

「瓢箪だよね……?」


 カラーインクなど洒落た物は使われていない。墨で書かれたらしきそこに絵も描かれていたけれど。


 周囲が困惑するレベルでどこからどう見ても瓢箪だった。


 念のためユッカは「瓢箪って食べれたっけ?」と確認してみたが、この地区の住人たちはそっと首を横に振ったのである。ユッカの世界には一応食用のもあったと思うが、どうやらこの地区ではそんなものは存在していないらしい。

 一応ククルビタにも視線を向けていたが、

「瓢箪はないペポね」

 と、とても他人事のように言うだけだった。

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