根本的な躓き
転移装置を使ったと言っても、各町村に行きそこで村長さんがその町や村の代表者を連れてくるだけでもそれなりな時間が経った。
ユッカは念のため、という事で一緒についていっただけで別に何かをしたわけではないけれど、それでも疲れたな……と思ったのだ。
というか途中から村長さんが事情を軽く説明して人を連れてくる間、ユッカがやるべき事はほぼないのでロゼと適当な会話をしていたくらいだ。
一応懸念していた御使いや使役された魔物に関しても、まったくと言っていい程遭遇しなかった。
いくつかの町や村ではナナイが現れて軽く説明をしていった、との事なので村長さんが説明する時間は大分短縮できたと言える。
ただ、まだナナイが訪れていないであろう場所に関しては少しばかり説明に時間を要したが。
転移装置を使って効率的に移動しているユッカたちとは違いナナイは地区全体を御使いや魔物がいないかと回っているようなので、見落として行っていない町や村があっても仕方のない話だ。
ちなみにこの頃には遠くの方に見えてきた積み上げられていた作物もすっかりと見えなくなっていた。
「さて、これで全部だよ」
一足先に転移装置で送り出した住人が消えて、村長さんがそんな風に言うものだから。
「思ってたよりいたんだね」
ユッカとしてはそんな、なんとも言えない感想しか口にできなかった。
御使いが見せしめにと各地で殺していたようだが、それでも住人の数はユッカが思っていた以上に残っていた。
それに関しては、ダミアンがこの地区でやらかしてからそこまで時間が経っていないのだろうかという結論で勝手に納得しておくことにする。
もしこの地区にもっと遅い段階で来ていたのであれば、もしかしたら……
なんて恐ろしい想像は早々に考えないように打ち切った。
(でももし、住人が全部いなくなった後だとしたら、ダミアンは何がしたかったんだろう……?)
食べ物が無くて困っている?
じゃあ増やしていっぱい食べられるようにしてあげるね。
でも残したら駄目だよ。
そんな感じのやり方で、時間制限までつけて達成できなければみせしめで一人ずつ殺していく。
であれば、残して労働力にしてやろうとかそういう考えではなかったわけだ。
助かった、という風に希望を見せてその後でどん底に叩き落としたいだけ、というのならそれは達成しているが、であれば根絶やしにしたかったのだろうか……?
(もしかして御使いをいっぱい増やして御使いパラダイスとか作ろうとしてた?
いやー、でもなー、そんなビジュ的に最悪なパラダイス作られてもなー)
ユッカの脳内でダミアンの美的センスが最悪である、という風になってしまったが、それを訂正できる者は誰もいない。
黙ってたらそれなりにイケメンに見えなくもなかったんだけどねぇ……なんてユッカが思っている事も、誰にも伝わらなかった。
ともあれ、そうやって人を集めた上で町に移動し、地下――ではなく地上で皆が一堂に会した。
いくつかの長テーブルを囲むように席について、檀上にはククルビタが仁王立ちしてででんと存在感を主張しまくっている。
当然だが精霊の存在をよくわかっていない住人からすれば「あれなぁに?」となるのは言うまでもないのだけれど。
しかしそれに関しては既に村長さんが説明していたのもあって、むしろ「あぁ、あれが……」という感じであった。
ユッカはロゼを膝の上に乗せて、そんなククルビタ地区の住人たちを眺めている。
正直この話し合いの場にいても、ユッカがやるべき事なんて何もないのだ。
同じようにディオスもユッカの隣に座っているが、こちらもやっぱり興味ないですとばかりに机に頬杖をついている。ペンと紙を渡したら確実に落書きを始めていそうな姿勢だった。
そんな部外者の様子など完全放置で会議――と言っていいものなのか――は開始された。
まずこの地区はククルビタが作り出したものである事。
住人たちは元々この土地ではないよそから来た存在である事。
異物を受け入れるために、一定期間ごとにお供えを捧げる事で彼らがこの地に受け入れられる状態になっている事。
そこら辺は既にユッカも聞いているので、ふんふんほーん、なノリで聞き流していた。
むしろ膝の上にいるロゼの背中を延々と撫でる方に集中していると言ってもいい。
かつての住人たちが異物であったとしても、だがしかし子孫に関してはこの地で生まれ育ったのだから異物とは違うのではないか? という質問も飛び交ったが、それについてはククルビタの、
「たとえるならばお前らは風邪引いて、ウイルスが体内で増えた時点の、その増えたウイルスみたいなやつペポ」
と、とても微妙というか失礼というか、もうちょっとなんかこう……他に言い方とかさぁ……みたいな事を言っていた。
異物はどこまでいっても異物、という身も蓋もない言い方に住人たちもなんとも言えない表情になる。
「そもそも相性が悪いペポ。ただ中身的には問題がないからわざわざ居る事を許したペポ。
お前らがもっと好戦的で乱暴な連中だったらとっとと追い出しにかかってたペポよ」
(つまり、溶岩地帯に氷の妖精が引っ越してきたみたいな感じなのかな、ククルビタが言う相性って。
まぁ確かにそういう感じだったらむしろなんでそこで住もうとした、ってなるんだけど。
……ククルビタ地区そのものは平和な場所っぽいから、そこで大人しく畑耕して生活するだけの住人たちの性質上、害はないと判断して共存が可能だと思った、って事でいいのかな?)
ククルビタの言葉はつまりそういう事なのだろう、きっと。
だがしかし、数年前からお供えはなくなり、じわじわと彼らとこの地区との縁のようなものが薄れかかっている事で土地そのものが彼らを拒絶し始めた。
それが彼らの作る作物へ影響を及ぼし、育ちにくくなっていった……というククルビタの言葉に、町で研究していた者たちの「あぁ、だからか」という納得の声が上がった。
種にも土にも水にも環境だって問題がないはずで、だからこそ町の人たちは品種改良をしようにも難航していたのだ。
環境そのものの拒絶。言われてみれば確かにとしか思えなかった。
そういった話を改めてされたため、作物が育たない原因というか理由についてはこの場の住人たちも理解はした。納得できたかまでは知らない。
だって彼らはこの地区に流れてやってきた最初の頃の住人ではないはずなので。
既に先祖代々この地で暮らしているという認識で生きてきた、この地区の住人だと思っているのだ。それが突然お前らは異物だペポ、なんて言われてそうなんだ、とすぐさま納得できるはずもない。
ユッカだって自分がその立場になっていたら、知らないよそんなのだって生まれた時からずっとここで暮らしてるもの! なんて言いそう、というか言う。
けれども今ここでその主張をする事に何の意味もない。
何故ならそんな主張をしたところで事態は解決しないから。
なので彼らの議題は次に移る。
お社についてである。
この地区のほぼ中心にあるという湖。
お社はその近くに作られていた。
ところが今はダミアンが作った小屋があるだけで、お社は影も形も存在していない。
お供えが届かなくなって随分経つとの事なので、その長い年月の間に朽ちてボロボロになってしまった結果だろう。手入れをする者がいなくなれば傷む一方なのは当然である。
これについては特に何を揉めるでもない。
ダミアンが作ったあの小屋を壊して新たにお社を作るか、それともあの小屋をリメイクしてお社仕立てにするかだ。
小屋を改装しその中にお社を作る、という方法もあるかもしれない。
雨風に晒されるようなら新たに作ったお社もまたすぐ壊れるかもしれないし。
お社のデザインについてククルビタは特にこだわるものでもない、と言っていたので、まぁそれっぽい形になればいいだろう。
とりあえずお供えをしないといけないので、そのお供えを置ける安定した空間があればどうにかなりそうではある。
そこら辺に関しては、とりあえずある程度の人数で湖付近の小屋を確認した後で話を詰める事になりそうだ。
思い切り凝った物を作るとなると、今そういう状況じゃないだろうと言う者も現れるだろうけれど、しかしだからといってとりあえず間に合わせで……なんてやらかすと、その後新たにまた作り直さなければならない手間が生じる。それどころか変に面倒がって間に合わせで作ったお社をそのまま本採用した場合、すぐさままたお社が壊れるような事になるかもしれない。
なので頑丈でデザイン的にもそこまで奇抜じゃなくて、それなりにマトモなお社を作る方向性で話は進んでいるのだが……
「ところでお供えをするにあたり、この地区の名であり守り神様の名を冠したククルビタですが……
すいません、それってどんな物なのですか……?」
なんとこの場にいる住人たちの誰一人として、ククルビタという野菜――果物かもしれない――について知らなかったのである。
「そんな事ってある……?」
これには思わずユッカも呟いていた。
いやだって、地区の名前にまでなっているのだから、むしろこの地区の名物みたいになってたっておかしくないだろうと思っていたのだ。
そしてそんな住人たちの反応に対し、ククルビタはというと。
「ク、ククルビタはククルビタペポー! 他にどう説明せぇっちゅーねんペポ!」
――という、なんとも身も蓋もない事しか言わなかった。
(まぁ私だって人間ってなぁに? って聞かれたら人間は人間だよとしか答えないよな)
他にもうちょっと説明のしようはあるとわかってはいるが。
あまりにも根本的な部分すぎて逆にどういう言葉で説明すればいいものやら。
専門家ならいざ知らず、理屈ではなく本能や感覚でしか把握できていない相手からすれば、言葉にしての説明というのは無理がある。
ククルビタが専門的知識でもってこちらに細かに教えてくれる、とは思っていない。
むしろあれは感覚でなんとなく理解しているだけだ。
ユッカのそんな考えは困った事に何も間違っちゃいなかった。




