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ロゼとユッカ~二人がおうちに帰るまで~  作者: 猫宮蒼
二章 ノーヒントにも程がある

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見えた光明



 白い物体――精霊ククルビタの話に耳を傾けた結果、どうやらこの地区に起きた作物の不作は、こいつが原因らしい。

「処す?」

「即座に物騒な解決しようとすんじゃないペポ! 話は最後までちゃんと聞けペポ!」


 短い手足をぶん回してわめくククルビタに、じゃあ手短にどうぞと告げる。


「そもそもの話、この作物の不足はこの地区の住人どもの非礼が原因だペポ。

 契約違反の結果のペナルティペポ。

 それなのにそっちが被害者面するのはどう考えてもおかしいペポ」


「契約、ですか」


 ディオスがふむ、と小さく唸りながらも聞き返す。


「そうだペポよ。遥か彼方昔の話ペポが、この地区はオイラたちが作り上げたんだペポ。どこまでも広がる大草原。大森林……自然豊かな土地。ここはオイラたちにとっての楽園だったペポ。

 その後で、戦う力もない弱い種族がこの地区へ流れてきて、ここで暮らそうとし始めたペポ。

 オイラたちの楽園に後からやってきて我が物顔で居座られてはたまらんペポ。

 だからオイラたちとそいつらで約束をしたんだペポ」


「オイラたちってさっきから言ってるけど、他にもいるの?」

「そりゃあいるペポ。普段は実体化しないペポが、この地区にはオイラたちククルビタが常にいるペポ」

「個にして全、全にして個とかいうやつ……?」

「? 何言ってるかわからんペポが、まぁきっとそれペポ」


 精霊っていうくらいだから、てっきりもっと神聖そうな雰囲気だとか、厳かな気配だとかがあるものだと思っていたが、こんなどこぞのご当地ゆるキャラみたいなのに言われるとどうにも精霊というものへの認識が揺らぎそうになる。


「閉じ込められてたなら実体化してたって事なのはわかるんだけど、じゃあ閉じ込められた時点でその実体化を解除すれば脱出できたんじゃないの?」

「生憎とそれは無理ペポ。他のオイラが実体化してるならそれでいいペポが、契約違反によってこの土地での力が弱まってしまったペポ。だからオイラを残して他のオイラたちは皆休憩に入ってるペポ」

「成程、なんかわかんないけど制約とかそういうのがあるって事ね」

「それペポな」


 詳しい事はさっぱりだが、それでもふわっとは理解できた。


「じゃあ、その契約ってのは?」

「外部の連中をここに住まわせてやるためのものペポ。

 いわば、家賃だペポ」

「土地代とかそういうやつって事ね。

 って事は今の住人の皆さんは今誰も支払いをしてないってことであってる?」

「あってるペポ。

 元々ここはオイラたちの、オイラたちによる、オイラたちだけの土地だったペポ。異物を受け入れるようにはできてないペポ。

 だから、それを受け入れるために決められた日に決められた作物を奉納すると定めたペポ。

 そうすればあいつらは異物ではない。そういう風にどうにか定めたペポ」


「外部の存在を受け入れない……って、それって他の地区もそうなの?」

「いえ、必ずしもというわけではありませんよ。けれどもそういう地区も確かにあります」

 ユッカが問えば、ロゼは首を傾げていたがかわりにディオスが答えてくれた。


「旅をするにあたり各地を巡りましたが、よそ者に寛容な地区もあれば閉鎖的な地区も確かにありますから。

 その地区だけで完結しているところなんかは、外からの転移を拒んでいる事もありますし」

「そんな事できるんだ」

「まぁ、転移装置を使わず侵入する事は可能なので、完全に閉じたとは言えませんが」

「でもそれ、危険なんでしょ」

「否定はしません」


 ふっ、と笑うディオスにユッカは、

(あ、これは過去にやらかした実績持ちかな?)

 と思ったものの口には出さなかった。

 言ったところで意味がないというのもある。


「私たちみたいなのに関しては?」

「お前らは旅人ペポ? だったら別に問題ないペポ。どうせ長期的にここで過ごすわけでもないペポしな」


「あぁ、つまり旅行客に関してはどうせそのうちいなくなるって認識で、ここで暮らすようになったら契約の内側に入るって事ね」

「それペポ」


 ふむ、と小さく頷いてユッカは考える。


 つまり現状ユッカたちはこの地区に訪れた旅人。観光客。

 なのでこの土地で悪さをしない限りは問題ないが、そうじゃなければアウト。

 それに関してはむしろこの地区で好き勝手やらかしていたダミアンをぶちのめしたという事で、むしろ善い行いをした、とも受け取れる。

 ダミアンからすればこっちが悪党に思えるかもしれないが。


 なので当面ここで数日過ごすくらいなら問題はないが、そのままこの先もずっと暮らすような事になればその時は契約対象に含まれる、と。


 観光ビザである程度の滞在は許されてもそのまま永住するのはアウトっていうやつと一緒って事か……と納得して、じゃあさ、とユッカは更に問いかける。


「その契約? の詳しい内容っての教えてもらえる?

 作物が不作になって困ってたのはここの人たちの自業自得としても、その結果をダミアンに付け入られたわけだし。そこ解決できれば問題ないわけでしょ?」


 作物が育たなくなった事に関して、色々と調べた、とも住人は言っていた。

 作物の種や苗に問題はなかったと言っていたし、土にも問題はなかったとも。

 育てる環境が突然変わった事で……なんて事態にもなっていなかったし、問題がなさそうだというのに育たなくなったからこそここの人たちは頭を悩ませていたわけで。


 ユッカとしてはダミアンがこの地区の中心部にある湖の近くの小屋にいた、という事から、もしかして水源とかに何かしたのかなとも思っていたけれど、そういうわけでもなかったとなれば。

 何をどう努力したところで育たないんじゃ、突破口も何もあったものではない。


「お供え物ペポ」

「お供え物?」

「毎年オイラたちククルビタの名を冠する作物を供える事が条件だったペポ」

「ククルビタ……」


 って、食べ物の名前だったんだ……とは口に出さなかった。

 首を括るとか、そっち方面の物騒な単語じゃなかったという事に安堵する。


「他の地区だと別の呼ばれ方をしているようペポが、ここではククルビタなんだペポ」

「あ、この地区だけの限られた限定品とかではないのね」


 なんだじゃあそこまで難しい話ではないのかも、と思ってユッカはロゼを見た。

 ロゼは「ククルビタ……?」と小首を傾げている。

 あっ、ご存じではない。

 瞬時に理解したユッカは今度はディオスを見た。

 その表情からは何も読み取れない――が、何も言わないという事はもしかしなくてもディオスもククルビタについて詳しくはなさそうだ。


 ではナナイは、と思って見たけれど、よくよく考えたらナナイはローザの家近辺で植物をあれこれ食べられるかどうかを聞いてきたくらいだ。

 黙って話を聞いている姿から、間違いなくわかっていない。


「ここの人たちに確認してみればわかるかな」

「どうペポかな。お供えがなくなってかなり経つペポ。それでもオイラたちはこの地区を維持するために力を使っていたペポ。けれどもそれもそろそろ限界で、この土地の作物を育てるためのものがどんどん維持できなくなってるペポ」


 しかもちょっと前まで無理矢理作物を育てさせていたせいで、余計に土地の力が弱まっているのだとか。

 完全にダミアンのやらかしである。


 元はここの住人たちのうっかりお供えミスだとして、そこにトドメを刺したのはダミアンである。

 彼だけが悪いとも言えないが、なんていうか最終的に一番悪い奴扱いされる事になったので、ユッカからすると率先して貧乏くじ引きに来たみたいなものかも……なんてちょっとだけ思ったのであった。


「他の地区で入手したククルビタをお供えするのは有り?」

「微妙ペポね。作物が育つだけの力はまだかろうじて残ってるペポ。だからここで育てたやつを供えた方が契約の更新という点ではスムーズペポ」

「それさ、この地区の人たちに直接言った?」

「昔に契約して以来、そもそもあんまり人前に出たおぼえが無いペポね。

 というか別のオイラが昔とっ捕まりそうになったとかで逃げてきたペポから、もう何百年も会ってないペポよ」


「それだ」


 なんでお供えしなくなったのか、とかそこら辺疑問だったが、ククルビタの話で大体察した。


「長年ここの人たちの前に姿を見せなかったって事は、そのお供えもなんか昔の古い風習だと思われて知らんうちに廃れた可能性・大ッ!」


「な、なんだペポー!?」


 ずびしぃっ! とククルビタに指を突き付けながらそう言えば、ククルビタは思い切りのけ反った。


「確かにこの世界には色んな種族がいるけれど。でも自分が住んでる地区から一生でないままだと、他の地区で住んでる別の種族とかお伽噺の存在くらいになっててもおかしかないのよ。

 直接自分の目で見たとかならまだしも、えーっとほら、人間だって今はもう見ないでしょ。昔は居たって話でもいないでしょ。そういうやつだと思われて、この地区の人たちはあんたたちの存在を知らない可能性まである」


「そんな事がマジであるペポか……!?」

「恐らくそうだからお供えが長い事お供えされてないって事でしょ。

 だってあんたの存在知ってるっていうなら、作物が育たなくなった原因に至りそうなものだもの」

「一理あるペポな……」


「えーっと、とりあえずダミアンがやらかした御使いとか魔物あたりに関してはどうなんだろう?

 それが大丈夫そうならいっそ転移装置でどこかに各町村の代表とか集めて事情説明した方が手っ取り早い気がしてきたんだけど」

「確かに僕たちはこの地区の住人でもない部外者ですからね。この地区の真相に迫っているとはいえここで全て勝手に話を進めるわけにもいかない」

「では、ナナイがこの地区を見回って魔物も発見次第倒しておくであります」

「助かる」


 話を聞いていた時点で、ナナイのやる事はほぼないとでも思っていたのだろう。

 まだ残っている御使いがいるなら倒しておくし、使役されていた魔物に関しても既にダミアンが施した術式が解除された今、これ以上増える事もなさそうという点からナナイが哨戒任務だとばかりに名乗りを上げた。


「あっ、そうだ。これ足しになるかわかんないけど、持ってって」


 今すぐにでも行動に出ようとしたナナイに、ユッカはリュックサックの中から取り出した缶を手渡す。

「なんでありますか?」

「フラワリー地区で買ったやつ。お腹の足しになるかは微妙だけど、結構な甘さでカロリーは取れそうだから一応持ってって」

「いいのでありますか!?」

「うん、二つ買ったんだけど、私にはちょっと甘すぎたから」


 なのでまだ未開封のもう一缶に関しては貰ってくれると助かるな、なんて言えば、ナナイは丁重に缶をポケットへしまい込んだ。


 ダミアンをぶちのめしていた時にカロリーがどうこう言っていたので、まぁ無いよりはマシだろう。きっと。


 ここに来るまでの間に積まれに積まれていた作物を食べきっているというナナイだが、ダミアンの術式を解除した今、作物はこれ以上勝手に増える事はないし、そうでなくとも今まであった作物に関してもどれくらい残っているかはさておき、この周辺に関してはナナイが食べきったとなると。


 食料の確保に困るかもしれない。


 お腹が減って動けない、なんて事になる前に戻って来てくれればいいのだが、もし魔物との遭遇状況などからすぐに戻れない、なんて事もあるわけで。


 なんだか遭難するの前提みたいな考え方しちゃったな……と思いながらも、ユッカは颯爽と駆けだすナナイの背を見送ったのである。

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