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ロゼとユッカ~二人がおうちに帰るまで~  作者: 猫宮蒼
二章 ノーヒントにも程がある

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精霊



「えっ、なになになに!?」


 小屋を出た直後に小屋が爆発したとかではないものの、それでも予想もしていなかった事態だ。

 思わず振り返ったユッカが見たものは……


「えっ、なに?」


 ちょっとよくわからない生き物が屋根の上からユッカたちを見下ろしていた。


 正直逆光になってシルエットしかわからない、がそのシルエットはなんていうか丸い。

 完全な球体というわけではないが、全体的にまるっこい……言ってしまえばどこかのマスコットキャラにいそうなフォルムをしていた。


 屋根をぶち破り開けた穴の隣でむんとふんぞり返るように立ち、そうしてこちらを見下ろしているのだろう。


「一体どこから……!?」


 小屋の中はユッカだってしっかり見たのだ。

 殺風景極まりまくった室内で見落としなんてないはずだった。

 だから、屋根の上にいる謎の生物が小屋の中にいたとして、気付けないはずがなかったのに。


 室内にいなかったのに屋根をぶち破ったという事は……


「地下にいた、って事?」


 むしろその可能性しかない。

 それ以外だとじゃあなんで屋根をぶち破ったのかという話になってしまうわけで。


 だがしかし、あの小屋を見た限り本当に殺風景すぎて、地下にいくような場所があったとは考えにくい。

 隠し階段がありそうな場所だってなかったのだ。


 隠してるんだからそう簡単に見つからないのは当たり前、と言われそうだが、しかしそういった何かを隠すようなものだってなかった。それは断言できる。


 テーブルなどの家具はあったけれど、その下に何かを隠しているような感じではなかった。

 カーペットが敷かれていて、床が隠れていたというのなら見落としたかもしれない。だがそれすらもなかった。


 一体全体つまりどういう事なんだってばよ……!?


 と、ユッカが静かに混乱しつつあるところで、屋根にいるそいつはのっそりと動いた。


「ペポーゥ! 封印を解いてくれたことには感謝するペポ! だがしかし! 今までの非礼をそれで全てチャラにするなどと思ったら大間違いだペポー!!」


 屋根の上でゲッダンしそうな勢いで動いているそれを、ユッカは「え、これどういう感情で見てればいいの……?」と全力で戸惑いながら見上げていた。

「笑えばいいと思いますよ」

 そして元ネタを知っているはずもないくせに、やけに冷静にディオスが隣でそんな風に言うものだから。


「いや、流石にこの状況で笑うのは無理でしょ」


 戸惑っていたのが嘘のようにユッカは落ち着きを取り戻したのである。


「確保ー! であります!」


 そしてユッカが落ち着きを取り戻した直後に、どうやら背後から忍び寄ったらしいナナイが謎の生命を取り押さえていた。

 ユッカが何をするでもなく、事態は勝手に進んでいく。

 いや、まぁ……ナナイが取り押さえなければユッカも「いけっ、ロゼ! 君に決めた!」とか言い出していたかもしれないけれども。


 ともあれナナイは捕獲したそれと共に屋根から華麗な着地を決めた。


 おぉ~、と思わず感嘆の声を上げ、ぱちぱちと拍手を送る。

 ナナイの身体能力はユッカの世界だと余裕で世界獲れるな……なんて思いながらも、改めて捕獲されたそれに目を向ける。


 白くてまるい何か。


 頭と思しき部分に緑色の葉っぱのようなものがついていて、多分何かの野菜かな? というような見た目である。けれどもカブとは違うし、大根でもない。色合い的にはそれなのに、しかし形状的には違う動く野菜。

 ユッカの世界にはない、こっちの世界の野菜の一種だろうか。


(いやでも普通に喋ってるし動いてるんだよなぁ……)


 仮に野菜だとして、これを調理して食べろ、と言われたら流石にユッカは躊躇う。

 だって動いてるのはまだしも、喋っているのだ。こちらにわかる言語で。


 ただ動いているだけなら、肉や魚の元となる部分と大差ないものとして受け入れられるけれど、喋っているのだ。動物の鳴き声のように正確な意味を理解できない音ではない。きちんと何を言っているのか理解できてしまうとなると、これを調理する時間違いなく絶叫が上がるし断末魔や恨み言が出てきたっておかしくはないわけで。


 調理するだけで心が病みそう。


 言葉が通じる時点で極論、調理の時点で見た目こそ野菜だけど人間を生きたまま解体――つまり殺すようなものなのでは? と思ってしまうと駄目だった。

 うわぁこの先一部の野菜を調理する時にちょっと、ほんのちょっとだけ躊躇っちゃいそうな感じがしてきたなぁ……と思いながらも、ナナイに押さえられてじたばたしているのを眺める。


「とりあえず聞くけど。

 君は何?」


 食べられる種類の生命ではなく、見た目はそれっぽくても食べ物ではないという事実が欲しい。


 そんな風に思いながらもユッカは問いかける事にした。


「くぬっ、離せペポー! 一体全体どうしようって言うんだペポー!」

「暴れなかったら離すと思うよ」

「ユッカがそう言うのならそうするであります」


 取り押さえているのは暴れないようにだと思ったので、とりあえず落ち着いて話し合いができそうなら……というつもりで言えば、ナナイもあっさりと頷くものだから。


 あ、これ思ってるより危険度低そうだな、と判断したのである。


 もしちょっとでも手を緩めたらその時点で危険、なんて存在であったなら、ナナイは決して離すつもりはなかっただろう。

 それくらいはユッカでも察する事ができたので。



 短い手足をバタバタ動かしていたものの、暴れるのをやめれば離す、と言われたからかピタッとそいつは動きを止めた。

 完全なる静止。え、死んだ……? とあまりにも微動だにしないからちょっと不安になってしまった。


 そういやマグロって泳ぎ続けないといけないんだっけ? もしかしてこいつも……? みたいによぎりはしたが、ナナイが手を離し解放した事でそいつは「ふぅ、自由を得たペポ」なんて言い出したので、一応生きてはいるようだ。



「さっき屋根の上で言ってた事を思い返すと、捕まってた、ってこと?

 非礼に関してはちょっと心当たりないけど」


「ぬ? よく見ればこの地区の住人じゃないペポね。オイラてっきり住人一同一斉蜂起したものとばかり思ったペポ」

「一斉蜂起って……いやでも御使いと使役されてた魔物相手だといくら一斉蜂起しても全滅しない?

 最初に行った村とか御使い一人でも逆らえてなかったし」


 転移装置を抑えられていたのだから、一か所に集まって全戦力を集めて……というのもままならない。そうなれば一斉蜂起も何も、と言う話だし、この白いのの想像通り一斉蜂起した時点で返り討ちにあって終了するのではないだろうか。

 思った事を率直に言えば、白いのは「ぐぬぬ」と悔しそうに地団太を踏む。


「あいつらは脅威だペポ」

「いえ、ダミアン自体は正直そこまで強くはないのですが」


 ディオスが反射的に反論していた。


 この地区の住人や何の護りもない状態のユッカであれば確かに脅威だと思うが、ロゼやディオス、ナナイにしてみればダミアンは脅威にはならないだろう。

 つまり、この白いのはダミアンを脅威認定しているので強くはない。

 それだけはハッキリした瞬間であった。


「それで結局貴方、何者?」

 さっきからしているこの質問、いい加減答えてくれないかな……なんて思いながらも根気強く問いかける。

 返答如何では敵対する可能性もまだあるのだ。

 いざとなったら即座にロゼに対処してもらうつもり満々である。


 そんなユッカの内心を理解しているのかいないのか。

 白い物体は「ペポ?」と間の抜けた声を上げて。


 それからおもむろに胸を――多分胸なんだと思う事にする――そらした。


「そこまで問うのであれば答えてやらんこともないペポ。

 よーく聞くペポ。

 我こそは偉大なる精霊 ククルビタ!

 このククルビタ地区を守護する者ペポ!」


 もしかしたら敵対するかもしれない……という考えはひとまずなかった事にする。


 ユッカの中ではこの地区に害を与えようとしていた存在をダミアンが封じ込めて、その上で更に自分の好き勝手やらかしていた……なんて可能性もほんのすこ~し存在していたけれど、流石にこの地区と同じ名前の精霊となると……勢いで敵認定はしちゃいけないなと判断したので。


「とりあえず……自分で自分の事を偉大って言うのはいいんだけど、その偉大な精霊がそこの小屋の地下あたりに閉じ込められてたって事を考えると……偉大ってなんだろうね、ってなるよね」


 もうちょっと謙虚さを身につけるべきでは。


 なんて思ったけれど、そこまでは言わなかった。

 微量すぎる優しさである。

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