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ロゼとユッカ~二人がおうちに帰るまで~  作者: 猫宮蒼
二章 ノーヒントにも程がある

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完全解決ではないものの



 ククルビタ地区での不作を解決したダミアンは他の地区へと旅立った……かのように思われていたが、しかし実際はククルビタ地区にいた。そうしてここで、ククルビタ地区の住人たちが苦しむ様を見物していたというのだから、なんとも性格が悪いとしか言いようがない。


 他の町や村でこっそり身を隠す、なんて事はしていなかったが、であればどこで暮らしていたか。

 答えは既にユッカの目の前にあった。


 湖のほとりにある小屋である。


 ログハウスっぽく見える小屋が、ドンと存在している。

 昔からある小屋……というわけでもなく、作られて間もない事が窺える。


(キャンプ場なら湖近辺の管理をしてる人が使ってるのかな、とか思うわけだけど、キャンプ場ってわけでもなさそうなんだよね……ってか、魔物がいる世界でキャンプってどうなんだろ?)

 ユッカの世界には魔物こそいないが、しかし野生動物はいる。

 ユッカの世界でキャンプをするとして、気を付けるべき野生動物はクマくらいなものだが、海外だと狼とかもいたはずだし、何より海外の場合はスケールがでっかいのか野生動物もちょっとドン引きするくらい大きかったりする。

 けれども、キャンプに行ったからとて毎回そういった動物と遭遇するなんて事もない。海外は知らん。


 だがここは異世界。野生動物よりも魔物に気を付けなければならない場所だ。


 勿論ロゼやディオス、ナナイあたりは気を付ける必要もなさそうではあるけれど、ユッカのような非戦闘員は弱い魔物と遭遇した時点で良くて怪我、悪くて死である。


 なので町や村から離れた場所にぽつんと小屋が一つだけ、なんてのは下手をすれば魔物に襲って下さいと言っているようなもの……と考えてもいいだろう。

 もしかしたら魔物を寄せ付けない何かがあるのかもしれないが、ユッカにはわからないので楽観視はしない。


 ほとんどの町や村では御使いがいた事もあって、逃げ出せる状況ではなかった。

 だからこそ、こんな風に小屋ができていたとしても、気付ける人はいなかったのだろう。


「ユッカ、中に入ってみよう」

「あ、うん。そうだね」


 確かにいつまでもぼーっと突っ立っているわけにもいかない。

 ディオスは何やら考え込んでいる様子ではあったが、しかしユッカが小屋のドアを開けると彼もまたユッカの後ろからついてきていた。


 ナナイは念のため外で警戒しているであります、と言っていたので入るつもりはないらしい。


 先程までぽこぽこ出現していた御使いは、今では鳴りを潜めている。

 けれどもまた出てこないとも限らない。ナナイが見張ってくれているというのなら任せるつもりでユッカは小屋の中に足を踏み入れたのである。


 中は、意外でもなんでもなく普通の小屋だった。

 キャンプ場にあるログハウスであれば中にもう少しあれこれ置かれていてもおかしくはなかったが、しかしここはそうではない。

 最低限……どころか簡素通り越して殺風景極まりない状況だった。


「おや、思っていたより物がありませんね」

「そうだね、雨とかしのいだり寝るだけ、って感じ」


 もっとこう……生活感を感じさせる物があればもうちょっと言いようがあったかもしれないが、それらしい物がほとんどないのだ。言葉を選びに選んだユッカではあるが、そう言うのが精一杯だった。


「てっきり恨みがましく日記でもつけてこれみよがしに置いてあるかと思ったんですがねぇ」

「いやそんな」

(ゲームじゃあるまいし)


 という言葉を直前で飲み込んで。


「ディオスの中のダミアンってそういうタイプなの?」


 別の言葉を口に出す。


「そうですね……ユッカさんの目から見て、ダミアンはどういう人物に見えましたか?」

「え? えっとー、うーん……突然そんな事言われてもな……」


 町にあった像と見た目はほとんど変わらなかった。

 極端に像の出来が悪かったとかでもなく、極端に美化されていたわけでもなく。

 あっ、あの像ちゃんと本人を模したんだな、とダミアンを見た時に思ったのは確かだけれど。


 でもその時点でナナイに追い詰められていたし、むしろうわナナイつよい……と思った感想の方が強かったとさえ思っている。

 なのでダミアンについて言える事、と聞かれても……


「ごめん正直なんとも」


「では、独断と偏見で構いません。彼を見て、善人と悪人、どちらに見えましたか」

「えー? 聖職者っぽい服装もあって悪党には見えなかったかなぁ。でもこの地区でやってる事考えたら善人とも言い切れないし……ま、でも見た目だけで言えば良い人っぽい雰囲気はあったと思うよ」

「では、強者に見えましたか? それとも弱者に見えましたか?」

「弱者かな。少なくとも強者って感じではなかったかも」


 ナナイに怯えて逃げようとしてたし、ディオスを見るなり助けを求めてきてたし……あれで強者と言われても……というのがユッカの正直な感想である。


「実際それなりに強くはありますが、たかが知れていますので」

「そうなんだ」

「えぇ、あまり戦いが得意ではない相手からすれば脅威でしょう。ですが、ある程度戦闘の心得がある相手からすれば、強敵ではあるけれど倒せない相手ではない。

 それがダミアンです」


 特に物が多くあるでもない小屋の中をぐるりと見て回りながら、ディオスとそんな風に会話をして。


 ふと、テーブルの上に何かが零れているのに気が付いた。


「これ……薬?」

「……サプリメントでしょうね」

「サプリ?」

「えぇ、彼食事に苦痛を感じているタイプなので」

「そういや前にもなんか言ってたな……」


 ダミアンがどういう人であるかについて、気にならないとまでは言わない。けれどもよりしっかり知りたい、とも思っていない。

 ユッカにとってのダミアンはどこまでいっても他人である。

 お友達になりたい、とかそういう風に思うような事があれば少しは違ったのかもしれないが……しかしそう思うような出来事も何もなかった。

 ユッカが見たのはナナイに怯えているところだけだったので。


 助けてあげなきゃ、とかそういう風にも思わなかったのだ。

 むしろこの地区の人に迷惑かけてたっぽいし、じゃあ当たり前の結果じゃん? となるわけで。


「で、ここほとんど何もないけどこれからどうするの?」

 ダミアンがこの地区に仕掛けた術とやらを解除するような事を言ってはいたけれど、なんというかユッカが想像したのは最初にこの世界に来た時のような……いかにもな魔法陣があるだとか、なんかでっけぇパワーストーンがあるだとか。

 そういうのを壊すとかするのかな、とゲームにありがちなやつを想像していたが、しかしこの小屋の中にあったのは申し訳程度の家具だけだ。

 魔法らしきものに関わっていそうな物がない。


 テーブルの上に零して放置されたままのサプリだって、ディオスの言い方からすると魔力をぶち上げるドラッグだとかではなく、本当にただの栄養補給のためのもののようで。


「この地区の町や村全てとここが魔力で繋がってるようなので、それを壊します」

「あぁ、確かになんていうか地中で繋がってるっぽいね」

「そうなんだ」


 ディオスの言葉にロゼが頷いて、ユッカは魔力なんて感じ取れないのでほへーと間の抜けた表情をどうにか引き締めるだけで精いっぱいだった。


 ディオスの手がテーブルに触れる。

 そこからどうやら魔法を発動させたようで、室内だというのにふわっと風が起きた。


「終わりました」

「えっ、もう!?」

「まぁダミアンなので」


「確かに術式を軽く感知してみたけど、ある程度の実力者なら解除は余裕かな、って感じだったね」


 驚くユッカにロゼもあっさりとそんな事を言うものだから、なんだかユッカはダミアンの事が不憫に思えてきた。


 この地区の人たちにとっては立ち向かうのも困難なラスボスみたいな存在のはずなのに、ロゼやディオスからすればラスボスどころか下手をすればゲームの序盤で出てくるボスみたいなものなのだ。


 ユッカたちがこの地区に来なければ、きっとダミアンは今でもこの地区の人たちを苦しめながらもラスボスムーブをかましていたに違いないのに。

 ユッカたちが来てしまったばっかりに、間違いなく彼の目論見は崩れ去ってしまった。


「って事は御使いとかももう出てこないって事?」

「そうですね、既に出てしまったものに関してはわかりませんが……新たに生まれ出てくる事はないでしょう」

「そっか。御使いが使役してる魔物も?」

「魔物に関しては正直ちょっと断言できませんが……」


「魔物って謎が多い部分もあるからね」


 ロゼの言葉に、そういえば少し前に魔物について聞いた時にもそんな事を言っていたな、とユッカは思い出す。


 弱い魔物は倒せば割とすぐに消滅するけれど、強い魔物の場合は消滅までに時間がかかる。

 その間に魔物の一部を解体して、素材を得る事もできるのだとか。

 解体した部分もそのうち消滅したりするんじゃないの? と思ったがしないらしい。

 成程、確かに謎である。


 これがゲームなら、まぁそういうものか、で済むのだが。


(確かに御使いが連れてた魔物は倒したら仲間を呼ぶもんな……もしかしたらその呼び声、今いる仲間を呼ぶだけならまだしも、その呼び声で新たな仲間を生み出すとかそういうオチもあったり……?)


 なんかの作品でそんな感じのがあったような……なんて思うと、確かにこれでもう大丈夫、と安心してはいけない気がする。

「むしろ御使いが連れ歩かなくなることで野放しになって危険度が増す、なーんて……」

「可能性はあるね。いやでもあのダミアンってやつの術のせいで発生していたのなら解除された今、そこまで猛威はふるわないはず」

「数の暴力に注意、というところでしょうか……」


 ロゼとディオスは互いにわかりあったみたいに話している。

 ユッカはさっぱりだけど、一先ずそういうものか、で納得する事にした。


 まぁ確かに術を解除したというのなら、弱体化が入っててもおかしくはないかな、と。


「じゃあ、村の畑にあったなんか気持ち悪いアレ、あれもなくなったって事でいいのかな?」

「一度確認してこようか」

「そうだね」


 御使いたちが畑で作物を収穫したり、勝手に畑からぽこぽこ発生したりしていたらしき作物が本当に増えなくなったのかも念のため確認しておきたい気持ちはある。

 何せユッカにとっては異世界の出来事で、これで大丈夫、なんて言われても本当にそうか? というのがどうしたって消えないので。


 小屋の外で一応警戒し続けてくれているナナイにも声をかけて一度村に戻ろう。


 そんな風に次の行動を決めて小屋からユッカたちが出た直後。


「ペポーーーー!!」


 小屋の屋根をぶち破って、何かが出てきた。

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