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ロゼとユッカ~二人がおうちに帰るまで~  作者: 猫宮蒼
二章 ノーヒントにも程がある

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別動隊は元気です



 村を早々に立ち去って、現在ユッカたちは街道らしきものも無視しての移動中である。


「それで、ディオス? 生憎と私たちにはさっぱりなんだけど」


 地図を写し終えるなり、じゃあ行きましょうかなんてさっさと移動開始したディオスの後をついていかないという選択肢はなく、けれども何も言わずについていくという気もない。


「そうですね……薄々もしかしたらと思っていたのですが」

「何を?」

「あの町でダミアンの像があったじゃないですか」

「そうだね」


「多分アレ、知り合いです」

「おぉい!?」


「最初は他人の空似かなとも思ってたんですけれど。

 でも髪の色とかそういや一致してたなとか、名前も一緒だなとか、像が本人に似ているなら恐らくそうだよなとか、色々と考えた末に高確率で知り合いである、と気付きまして」


「気付きまして!? そこまでいかないと気付かないものなの!?」


「何せ長らく顔を合わせていないので。あくまでも知り合い程度の関係で、そこまで密接に連絡を取り合うだとかする程ではなく」


 そう言われてしまうとユッカとしてもそれ以上突っ込みにくい。


 長い間会ってない、となれば、しかもそこまで仲が良かったわけでもないのなら、うっかり顔とか忘れてても仕方のない話だとユッカだって思うわけで。


 小さい頃に会った事があっても数年会わなきゃ成長してガラッと見た目が変わってた、なんて事もあれば、以前見た時と違って激太りしてたとか、はたまた痩せて印象がガラリと変わった、なんて事もあった。

 大人はそう外見が変わらないだろうと思っていたが、ビックリするくらい変化する者はいる。


 だから、記憶の中の姿と現在の姿が異なっているのであれば、その上で長い間会っていないというのなら。

 知り合いでも初対面だと勘違いする事だってあったりするのだ。


 なのでディオスの言い分はまぁ理解できなくもない。

 頻繁に顔をあわせていた上でそう言われたらもっと突っ込んだけど、長い間会ってないなら仕方ない。


「で、彼が知り合いだと踏まえた上で考えると、こういう行動に出たのも納得というかなんというか……」

「納得って?」

「彼ちょっと身内に振り回された結果、情緒がおかしくなってしまって」

「はぁん?」


「食べる事にあまり楽しみをみいだせないけれど、食べ物を粗末にしてはいけないという強迫観念があったりしまして」

「……それで?」


「その上で、自分だけがそんな風に思うのも理不尽だと感じて、じゃあ周囲も同じになればいいや、という風に考えてこういった事に及んだ可能性がとても高いですね」

「すっごい迷惑な人じゃん」

「そうですね」


 そこ否定はしないんだ……とユッカは思わず呟いていた。


 一応知り合いなら、少しくらい擁護するものだと思っていたけれど、ディオスからするとそこまでする必要のない人なのだろう。


「善人か悪人かで言えば、悪い人ではないんですよ。ギリギリ。ただ人間性が歪んだ結果周囲にとっては大迷惑な存在になってしまっただけで」

「えっとそれ、擁護してる?」

「いいえ」

「してないんかーい」


 困っている人を助けよう、という気持ちはあるけれど、しかしそれと同時に自分と同じくらい苦しめ、という気持ちもあると言われてしまえば、ユッカとしてもほんの少し、ごくごく僅かではあるが理解できるような気がしないでもない。

(つまりあれでしょ、学校休んだ日のノートを見せて、って言われる分にはまぁいいけど、テスト勉強前にこっちが必死こいてノート見返してる時にかーしーて、って言われたらお断りしたくなるやつ。

 困ってるなら助けてあげたくはあるけど、でもそれって時と場合によるわけで)


 ダミアンの一件はユッカが考えたものとは異なっているのかもしれないが、まぁ大雑把に考えればきっとそれに近いのだろう。


「えぇーっと、でもそれで……どうするの? ディオスの知り合いってわかったところでどうなるものでもなくない?」


 村の人たちの話ではダミアンは早々に姿を消したというわけだし。


「それなんですが、多分いますよ。この地区に」

「マジで?」

「彼がこの地区に施した術式は何となく想像ができました。その上で、彼はこの地区にいてこの地区の人たちが苦しむ姿を見ている」

「悪趣味な人じゃん」

「そうですよ」


 ディオスのダミアンへの発言が一切彼を擁護しようという気がしていない事にユッカは「いやまぁそうかもなんだけどぉ……」となるものの。ユッカだって知り合いがこんな事をしていると知った上で、それでもいい人なんですよなんて擁護しろと言われたって無理だ。


 助けようとしたけどそれが空回ってこうなっちゃった、ならまだしも、助ける気持ちと同じくらい不幸に落ちろなんて思ってる相手の事をどう言い繕ったところで……となってしまうので。

 やり方を間違えてしまったけれど、本心から純粋に助けたかったとかですらないのだ。


「恐らくはこの辺りにいるような気がするんですよね」


 言いながらディオスは写した地図のある一点を指し示した。

 それは地区の中央――ではなく、そこからもう少しずれた上の部分。

 湖がある、とされている場所だった。


「じゃあそこに行けばいいって事?」

「そうなります」


 ちなみに現在地はここ、とディオスが示したところと目的地とは、中々の距離がある。


「時間が惜しいので寄り道せずに行きましょう。他の町や村で御使いを倒しながら行ったところで正直全てを救い出せるとも思いませんし」

「あぁ、だったら最初から黒幕をブチ倒した方が早いってことね……」

「えぇ、それに……」

「それに?」

「御使いを倒しながら進んだところで、恐らく復活しますから」

「するんだ!?」

「正確には新たに生まれるというべきですか」

「わぁ……」


 MAP移動したら復活してるタイプのモンスターじゃん、とは言わなかった。

 確かにそうなるのなら、寄り道をして御使いたちを倒しながら進んだところで他の町や村の助けになるとも限らないし、むしろ解決するまでの時間が遅れる事で更なる被害を生み出しかねない。


 各町や村の人たちにはせめて頑張って御使いの暴挙に耐えながら頑張ってもらうしかない。

 いっそどこかに隠れてやり過ごす事ができればいいのだが……


 ディオスの手にある地図の現在地と目的地を見比べて、じゃあこっちに進めばいいって事? とユッカが確認するように聞いて、方角を指さした矢先――


 ごぉおん……という大きな音が確かに響いた。


「えっ」

 指さした先の遥か向こう側には山が見えていたが、その手前にカラフルな何かも見えていた。

 そしてそのカラフルな何か――間違いなく積み上げられた作物なのだろう――が、音を立てて崩れていくのが見えたのである。


「もしかして……ナナイ?」

「うっそもうあんなところまで移動したって事!?」


 ロゼの呟きにユッカとしては素直に信じ切れない。

 いやだって、確かに周辺の作物食べられるだけ食べちゃって、とは言った。

 言ったけれども……山の手前に積まれているであろう作物とはいえ、ここから見ても相当遠くなのだ。

 ユッカがナナイに指示を出してからの時間を考えると、あんなところまで行けるものなの!? という風に驚くのも無理はなかった。


 けれども、外部からの衝撃以外で積み上げられた作物が勝手に崩壊するとは考えにくい。

 であれば、この地区にいる部外者は自分たちだ。そして今この場にいないナナイが濃厚である。


「移動速度マジヤバいししかもあれ食べてるって事でしょ……ヤバくない?」

「思えば周辺に積まれていた気がする作物もほとんど見なくなりましたし……凄まじいですね」


(マジでカー〇ィか何かなん?)

 うっかり大食いチャレンジやってる店にナナイを送りだしたら秒で店が潰れそう。


 圧倒的吸引力……と慄きながらも、ユッカたちはその山がある方向へ進む事となった。


 さて、そうなれば道中さぞ御使いや魔物がこちらの行く手を遮るようにやってくるのではないか、と思っていたのだが。


「ビックリするくらいなんもないねぇ」


 そんなユッカの警戒心を嘲笑うかのように、なんにもなかった。

 この地区で起きている不可解な事態を解決するべく向かっているというのに、そんな事実はなかったのだとばかりに――それこそピクニックに出かけていると言われたならば信じてしまいそうなくらい平和な道のりだった。


「もしかしてナナイの方に御使いも魔物も集中してんのかな……」

「可能性としては高そうだね」

「って事は実はナナイってとんでもなく強い……!?」

「まぁ、今も無事ならそうなんじゃにゃい?」


 ロゼの相槌に、思えば確かに町に行く前にナナイも参戦しようとしていたな……と思い出す。

 ローザの家周辺が崩落して、その時に一緒に脱出しようとして行動した時は特に危険な目に遭う事もなかったので、ナナイがどれくらい強いかなんて知りようがなかった。

 ただ、故郷を滅ぼした相手を倒すと言っていたので、全く戦えないわけではないのだろうと。

 けれどもそんな相手に一人で挑むとして、勝ち目があるんだろうか……とは内心で思ったりもしていた。


 だが現状からして、ナナイは勝ち目もなしに言っているわけじゃなかったんだ……となったものの。


「なんか倒れた作物が途中でパッと消えてってるんだけど、まさかあれ倒れてる途中で食べてたりする……?」

「どうなんですかねぇ……ここからでは崩れて地面に転がったとしてもそこまでは見えませんから」

「そりゃそうなんだけどさ」


 山の手前にあったカラフルな塔のような作物たちが、みるみる消えていくのだ。

 こちらはまだ全然近づけてもいないというのに。


(いやでも流石にあれ全部食べるのとかいくらなんでも……

 もしかして、ナナイもこのリュックみたいにいっぱい物が収納できるようなの持ってたりするのかもしれないし……だったら途中で回収されてるから消えてるように見えた、とか……?)


 考えたところで正解がすぐわかるわけでもない。

 ナナイと合流した時に聞かない限りは。


 ユッカたちが今いる場所からは、当然だがナナイの姿は見えない。

 積まれている作物は見えてはいるが、それだってユッカの視力では色合いから多分あれは野菜であっちが果物かなぁ……? というようなもので、ハッキリと上から順に何がどの野菜か、なんてところまではわかりはしないのだ。


 一応急いで移動はしているけれど、それでも山の近くにあった作物はあっという間に見えなくなって――


「これ多分私たちがあの辺りに辿り着いた時にはナナイはいなくなってそうだよね」

「そうですね。でもまぁ、いいんじゃありませんか?

 彼女が作物をどうにかしているのと同時に御使いや魔物を引き付けてくれているのなら、こちらとしては動きやすい」

「うーん、なんだか意図せずしてナナイを囮に使ったみたいな感じがしてちょっと申し訳ないなぁ」

「何よりあれだけ作物を荒らしまわってくれているのなら、他の町や村にノルマ達成したかどうかを御使いたちとて呑気に確認なんてできないでしょう。そもそも次のノルマを運び込むのも危うい」

「それもそっか」


 そんな会話をした後は、これ以上何を言うでもないままにただひたすらに進んでいく。


 そうして刻々と時間だけが経過して……一日が終わり、次の日がやって来て、日が昇り、沈んでいく。

 もう遠くを見回したところで、積まれた作物らしきものはユッカの視界に入らない。


 ナナイの方は今どうなってるんだろう……なんて思いながらも。



 ようやく、山の近くまでたどり着いたのである。

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