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ロゼとユッカ~二人がおうちに帰るまで~  作者: 猫宮蒼
二章 ノーヒントにも程がある

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理解が追い付かない



 この地区で起きた事を調べるにしても、だ。


 一体どこから調べればいいものやら。


 研究所があるこの町がなんて言うか一番情報が集まっていそうな気はするけれど、しかしここにその情報はない。

 だが、ここに来る前の村に戻ったとしてもあれ以上の情報はなさそうではある。


 となれば、他の町か村に行くしかないわけだが――


「この先の村がこの地区で一番大きなところなので、そこならもしかしたらまだ生存者がいるかもしれません……」

「一番大きいのに村なんだ」

「畑が広がってるという意味では広いですよ」

「あぁ……そういう」


 ユッカもそう言われると理解はできた。

 田舎にありがちな、お隣さんと言いながら家と家の間がとんでもなく距離があるやつね、と。


 というか、生存者がいるかもしれない、という言葉は聞き流すべきなのだろうか。


 一応ここに来る前の村にもまだ人はいたので、他のところも全滅はしていないと思いたいが……



「――というわけで来てはみたけれども」


 丁寧に道を教えてもらったのもあって、道中迷う事はなかった。

 少しばかり距離があって移動に時間がかかりはしたけれど、それでも御使いと遭遇する事もなければ魔物と出くわす事もなく、このククルビタ地区最大の村へとたどり着いていた。


「多分だけど、ナナイもこっち方面通ってるよね」

「恐らくね」


 別行動をしたものの、合流する事なくこちらへ来てしまったが、多分元気でやってるだろうと思う事にする。

 道中、もしかしたらここ作物積まれてたんじゃね? と思うような場所がいくつかあったけれど、しかしそこは綺麗に何もなかった。

 道が開けた状態で、最初の村から町に来るのとは大違いである。

 もしかして道中ナナイの方こそ御使いや魔物と遭遇したのではなかろうか。そう思えるくらいに、ユッカたちがここに来るまで何もなかったくらいだ。


 そうしてたどり着いた村は、確かに最初に訪れたところと違って大きくはあった。

 家も最初の村と比べれば、多少はマシな造りに見える。

 ちょっと嵐が来たら飛んでいってしまいそうな最初の村と違って、こっちは茅葺屋根の古民家みたいなのが並んでいた。


(おぉ……茅葺屋根の家なんて最近じゃとんとお目にかからないから、なんていうか新鮮……!

 昔の映画とか、あとはアニメやゲームとかでそれっぽいのを見た事はあっても実際に見る機会なんてないと思ってたわ)


 異世界だというのに謎の懐かしさすら感じられる。


 けれどもあまり人はいないのか、村の中に入っても静かなものだった。


「すいませーん、どなたかいませんかー!?」


 もう御使いと遭遇してもロゼやディオスが倒すのがわかっているから、ユッカはあえて声を上げた。


 広々とした村でユッカの声が吸い込まれるように消えていく。

 少ししてその声に反応したのか、鳥の鳴き声が空に響いた。


 待つことしばし。

 しかしユッカの声に誰かが反応したような気配はない。


「もしかしてここ全滅した後だったりする……?」

「どうだろうねぇ」

「もう少し奥に行ってみましょう。もしかしたら畑仕事をしているとか、そういう事があるかもしれません」

「まぁ、その可能性もあるかぁ……」


 ディオスの言葉に頷きながらも、しかしユッカは考える。

 既に時刻は昼を過ぎ、そろそろ日が沈もうとしている。半日ほどでたどり着いたのは運が良かったのかどうなのか……ともあれ、ユッカが言えるのは畑仕事をする時間としてはもう遅いんじゃないかなぁ……という事だ。


 ディオスもそれくらいは把握しているのだろう。

 言っておいてなんだが……というような雰囲気が言外ににじみ出ていた。


「な――」


 そうして村の中心部へと移動してみれば。


 そこにあった物を見て、ユッカは思わず足を止めてしまった。


 畑が広がっている。

 村の内側に家があって外側に畑があるのならまだしも、この村はその逆でどうやら村の内側に畑が広がっているのだが、その畑の更に中心、そこに謎の物体が居座っていた。


 居座る、という表現もおかしなものなのかもしれない。

 けれどもユッカは確かにそう思ったのだ。


 心臓というにはいびつな形の臓器のようなものが、畑の中心部にドンと存在していて脈打っている。

 赤黒く不健康通り越して不吉な色合いのそれは、畑と繋がっている様子であった。


「な……何あれ」


 絶対畑に存在するはずのないモノ。あってたまるかあんなもの。

 心臓みたいなものが脈打つたびに、周囲の畑の作物が育っていく。


「きっしょ」


 え、こんな育ち方した作物を収穫して食べてんの? マジで? イカれてやがるぜ。


 そんな気持ちをユッカは隠しもしない。

 食べたら健康被害とかありそう、とまで思い始めるが、しかしあれを食べたナナイは平気そうだったので、そこはまだ安心……していいのだろうか?

 一応この地区の人たちも食べてはいるし、健康被害が出ている様子はないのでそこだけは大丈夫だと信じたいが……


 育つ速度はそこまでではない。

 けれども、それでもやはり普通の作物よりは速かった。


 少し離れた畑の近くで、御使いが鞭を手にしてそれを地面に振り下ろしている。

「働け働け、きえーっへっへ」

 そしてその御使いの視線の先には、この村の人たちだろうか、地面から生えたハンドルみたいなものを延々ぐるぐる回している人たちの姿があった。


 ハンドルを回すといっても手動というか、手で押しながら歩いて回すタイプの映画などでたまに見かける、奴隷が扱き使われてるシーンにありがちな物だ。

 押し歩いてぐるぐる円を描くように移動して回しているが、アレは一体何の意味があるのだろう?


 発電機とかならまだわかるが、あれはどう見てもそうではない。


 ユッカたちが声を出しながらやって来たというのに、御使いは村人たちを使役するのに夢中なのか全く気付いてすらいない。

 いいのかそれで。


「ま、いいか。ロゼ」

「うん」


 もう何度も御使いと戦っているのもあって、ロゼもすっかり慣れた様子だった。


 魔法で吹っ飛ばして、あっという間に倒してしまう。

 手加減して生かした状態で……と一瞬思ったものの、その御使いは首からホイッスルのようなものを下げていたのでそのまま倒した。

 手加減した事であの笛を鳴らされたら絶対魔物がやってくる。そう思えたので。


「すいませーん、ちょっと聞きたい事があるんですけどー」


 改めてユッカがそう声をかければ、奴隷のように使役されていた村人たちはそこでようやく動きを止めてぽかんとした表情でこちらを見たのである。



 その後のユッカたちへの対応は、VIP待遇かと思える程に恭しいものだった。

 なんなら救世主が来たと言っても過言ではない。


「で、えーと、そこの地面に生えてるぐるぐるは何?」


 ユッカとしては真っ先に聞くべきはそれではないとわかっている。

 わかってはいるけれど、でもどうしても気になってしまったので。


 気付いた時にはもうその疑問が口から飛び出ていた。


「あぁ、これかい。これはね、意味なんてないさ」

「ないんだ」

「身体を動かせってだけのものだねぇ……」


 ユッカの疑問に答えてくれたのは、この村の村長さんだった。

 恰幅のいい女性で、年齢は大体三十代後半から四十代半ばだろうか。おかみさんと呼びたくなる印象ではあるものの、彼女も先程そのぐるぐるを回していた中にいたので、今はどこか疲れた様子である。


 御使いが倒された事で一斉に歓声が上がり、この場にいなかった村人たちも何事かと飛び出てきたため、今この村の広場にはずらりと全員集合していると言ってもいい。


 意味のないぐるぐるを回し続けるという、本当に無意味な労働をやらされていたのはほぼ男性で、その中に村長がいたのは御使いに歯向かったからだと言う。


 それ以外の女性陣たちは、家の中の厨房でひたすら料理を作らされていたようだ。


 出された料理をユッカたちはとりあえずいただく事にした。

 町の方でも言われていたが、本当に大味でこれといった個性もないのを、どうにか調味料などで味付けしました、といったものが多い。


 野菜の苦みや癖のある味が苦手、もしくは嫌いというお子様にしてみればとても食べやすいかもしれないが、正直どれを食べても似たようなぼやっとした味しかしないのでなんというか、ユッカとしてはもっとパンチが欲しいと思うものの流石に味付けに文句は言えない。

 大味になってしまった、と言われていたが、これ栄養素とかどうなんだろうなぁ……とも思うが流石にそれをここで聞いても明確な答えは出てこないだろう。


 ともあれ、御使いが倒れた事による祝いの宴という形でユッカたちは持て成されている。


「私たち、フラワリー地区から来たんだけどここって一体何がどうなってるの?

 なんか来て早々別の村でも持て成されかけて食べろ食べろってぐいぐい来られたけど、圧が強くて怪しくて抵抗してたら御使いとかいうのが来て。

 そこで御使い倒した後で村の人からも事情を聞きはしたけど、わけわかんないんだよね。

 町の方でもやっぱりわかんなかったし」


 そう言えば、村長さんは「あぁ……」とどこか困ったというよりは、なんて言えばいいだろうか……と悩むような声を出した。


「少し前に作物が育たなくなった、ってのは聞いたかい?」

「それは最初の村で」

「そうか。その時点では、他の町や村の代表と集まって話し合って解決策を打ち出したりもした。ま、解決できなかったんだけどね」

「えっと、集まって……?」

「今は魔物がいて使えないけど、この地区の転移装置を使って集まればいいだけだったからね」

「あ、そっか……」


 転移装置で同じ地区の中を移動する使い方をユッカはしていないので、理解するのに少しばかり時間がかかった。


「そんな時に旅の人が現れたんだ」

「えっと、ダミアン、でしたっけ」

「そう。皆が集まってた時にふらっと、ね。

 それで、解決できるっていうから頼んだ。

 これを解決したとは思いたくもないけどね」


 村長さんは「けっ」とガラ悪く吐き捨てる。


 ユッカとしても気持ちはわかる。困っている事があって、それを助けてあげようかと言われて是非、と頼んだら予想もしていない方法で解決されたが、結果として余計な手間が増えたような……この地区での出来事はつまりそういう事だ。

 作物が育たなくなった原因は結局わかっていないようだし、そこにダミアンが何かをして作物を育つようにしたところで、その作物は味も落ちているようだし。


 一応最初の村で話を聞いた時、最初の頃はまだ味も美味しかったとは話していたが、それも収穫を重ねていくうちに味がどんどん薄まって大味になってしまったらしいし、そのせいで余計に食糧難が解決したとは言い難い。


「しかも作物をここで消費するように決められたんだ。冗談じゃない。

 確かに作って食べるのはいいよ。こっちだって手塩にかけて育てた作物を収穫して食べる事そのものに文句なんて言えるはずがないからね。

 でも、余った分を他の地区に売りに行く事も禁止されて、しかも同じ地区での町や村との物々交換も禁じられるのは違うだろう!?」

「まぁそうですね。結局食べきれなくて見せしめに殺されるとかホントなんでそんな決まりごとにしたし、って感じ」


 これが例えば品質のよろしくない作物を他所の食料不足な地区へ持ち込んで、高値で売りつけるというあくどい商売をしていたところで、お前らはクソ不味い作物を育ててたんだよ自分たちで食べて反省しろ、とかいうのならまだわかる。

 けれどもそうではないのだから、むしろダミアンがやった事は助ける振りした嫌がらせに近い。

 こんな事になるならせめて、作物が育たなくなってしまった原因を突き止めるとかそっち方面で助けてもらった方がマシだったと言えよう。


「しかもその後ダミアンはいなくなっちまったからね。御使い様たちの行動に関して陳情しようにもどうしようもない」


「ところでなんで御使いに様つけてるんです?」


 敬ってるならいざ知らず、どう考えても敬っているわけではない。

 それなのに様付けで呼んでいるのがユッカにしてみればなんだか不思議だった。


「あぁ、最初に様をつけて呼ばなかったのが殺されたからね。多分他の町や村でも見せしめにそうされてるだろうよ。だからイヤでも様をつけて呼ぶようにしてる。じゃないと咄嗟にまた御使いって言っちまいそうだからね」


「それは確かに」


「で、作物に関してだけど、もうあたしらの手から完全に離れちまってる。いっそ育てないように、とか思っても勝手に育つようになってるんだ」

「ノルマが増える一方って事?」

「あぁ、で、畑のアレ、見たかい?」

「心臓みたいなやつですよね」

「あぁ、あれがどうやら畑に何かの力を働きかけて作物を育ててるようなんだ」

「うっわ」


 畑の上でドックンドックン脈打ってるだけでなんか得体の知れないエネルギーを大地に送り込んでるようにしか見えなかったが、アレがまさか作物を育てていると聞かされるとただひたすらに気持ち悪い。

 せめて御使いが畑仕事してる、とかの方がマシだった。

 それならお残しは許さんぞーとか言っててもまぁ、一生懸命作ったもんね……という気持ちになれなくもないので。


「じゃあアレ壊せば作物が勝手に畑で量産されたりしなくなる?」

「いいや。あたしらも一応アレを破壊してみようって事で試したんだけど、傷一つつきやしなかった。

 その時に御使い様が言ったんだ。大本は別の場所にあるから、そこで抵抗したって意味がない、ってね」

「すごい情報落とすじゃん……」


 この地区の人たちは恐るるに足らず、みたいな気持ちだったんだろうか。

 圧倒的勝利を確信したからべらべらここの人たちに教えちゃってるあたり、やっぱり御使いが三下悪役ムーブかましてるな……とユッカは割とどうでもいい事を思った。


「なんでも魔石がどうとか言ってたんだけどね……生憎難しい話であたしらには理解しきれなかったんだよ」

「成程」


 すまないね、とばかりに肩を竦めた村長さんに対して今まで大人しく聞いているだけだったディオスが「わかりました」と頷いた。

「え、ディオス何がわかったの?」

「この地区の作物に関して」

「えっ、今の話で!?」

「ダミアンがやった事、という点では。すいません、この地区の地図とかあります?」


 ユッカの言葉にあっさりと返すと、ディオスは村長さんに地図を要求する。

 困惑しつつも彼女は一度家の中に入って、そうして地図を持ってきた。


「はー、これがククルビタ地区の全容……って、こと?」

「畑を作る際に、考えなしに作ったら後が困るからね。だからご先祖様方が計測してくれたものなんだよ」


 どうやらこの地区は一つの大きな陸地だけが広がっているだけらしく、けれどもその地図にはどこに何の村や町があるのか、細かく記されていた。

 最初の村や一つ前の町で教えてもらったものと比較するのもどうかと思う程に。


「とりあえず……ダミアンが来る以前の状態にまで戻すだけなら可能です。

 ただ、戻したところで作物が育たない原因がわかるわけでもないのでそこはなんとも」


「できるのかい!?」


「あくまでもダミアンがやらかす前の状態に戻すところまで、ですが」


「頼むよ! 確かに作物が育たない原因を探らないと事態の完全解決になんてなりゃしないけどね。でもこの状態が続くよりはずっとマシさ」

「まぁ、そこまで戻せば御使いや引き連れてる魔物もどうにかなるので他の地区に行く事も可能にはなるでしょう」

「なんてこった、あんたたちの方がよっぽど救世主みたいだよ!」


 感極まって抱きついてきそうになった村長さんをディオスがすっと避ける。結果としてユッカが村長さんの熱い抱擁を受ける形となった。

「ぐぇっ」

「あ、ごめんよ」


 想像以上に力強い抱擁。

 たまらず声を上げたユッカに村長さんもすぐに離れてくれた。


「この地図ちょっと写しとかあります? なければ写させてもらっても?」

「構わないよ。あぁ、そうだね、紙とかあったかな……」

「あぁ、ありますので。少しこの地図と写す場所をお借りしても?」

「わかった」


 ディオスと村長さんの会話がポンポン進んでいく。


 そうして村長さんの家にディオスが案内されていった。


「ロゼ、わかった?」

「ううん、なんにも」


 もしかしたらロゼも理解してるのかな、と思って聞いてみたけれど。


 ロゼもユッカと同じくなんにもわかっていなかった。

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