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ロゼとユッカ~二人がおうちに帰るまで~  作者: 猫宮蒼
二章 ノーヒントにも程がある

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状況もさっぱりです



 像の前にいた御使いたちは魔物を連れていたわけではなかったので、奇襲攻撃を仕掛けた時点で勝敗はほぼ確定した。

 ちなみにユッカはそれを見ていただけである。どう足掻いたところで自分は非戦闘員なので。


 ロゼはさておき、荒事は苦手だと言っていたディオスも中々に鮮やかな手並みでもって御使いの半分を倒していたので決着がつくのは本当にあっという間だった。


 せめて一体残っていれば一応情報を聞き出せやしないだろうかとも考えたが、下手に残した事で一瞬の隙を突いて魔物を呼ばれては堪らない――という考えがロゼやディオスにはあったのだろう。

 決着がついた時点で、御使いは誰一人として動く事はなくなっていた。



「……倒したはいいけど、結局何もわかんない状況なんだよね」

 戦えない自分があれこれ言える立場ではないが。


 どうしたものかなー、と思いながらもユッカは改めて像を見た。


 現実の、というよりはユッカが知るゲームやアニメに出てきそうなタイプの聖職者っぽい印象の男。

 一見すれば人当たりがよさそうな柔和な印象を受ける。

 その印象は聖職者っぽい、という点でより強調されているような気もした。


 だが、それ以上の情報は像から得られる事もなく。


「一体なんだっていうんだろうね?」


 答えがくるとは思っていないが、ユッカは思わずそう呟いていた。


「ダミアン様の像だよ、それ」

「うわ」


 答えがくるとは思っていなかった。だというのに突然そんな声がして、ユッカは思わず声がした方に凄い勢いで振り向いた。

 いつの間にやらユッカの背後に小さな子どもがいた。

 見たところこの町の住人だろうか、むしろそうじゃなかったら怖い。


「えっと、きみは?」

「トム。おねーさんは?」

「……ユッカ。この地区には来たばかり」

「そっか」


 そこで一瞬静寂が訪れる。


「一応聞くけど、君ここの子?」

「そうだよ」

「他にも町の人、いる?」

「いるよ」

「お話とかはできるかな?」

「どうだろ?」


 ユッカの言葉にこてんと首を傾げるトムに、ユッカとしても何をどう言えばいいのかわからない。


 大人であれば事情を聞くのに躊躇う事もないが、トムはユッカが見る限り、五歳以上十歳未満、といったところだろうか。生憎子どもと関わる機会があまりないので、よくわからない。

 最近の子は発育がいいから……

 とはいえ、それはユッカの世界での基準であって、こっちの世界じゃ何の意味も無い事はわかっている。

「大人の人たちは何してるの?」

「地下に隠れてるよ」

「それ言っちゃっていいやつ? 私たちがあの御使い側だったら今ので大ピンチだと思うけど」

「でも、倒してたじゃん」

「そうだね」


 どうやらロゼたちが御使いたちを倒していたのを、トムも見ていたようだ。

 一体いつから……と思ったものの、それを聞いたところでどうなるものでもない。


「えっと……私たち、この近くの村から来たんだけどそっちでもあんまりここの状況がわかる情報が得られなくて……転移装置で他の地区に行こうにも、魔物がいるしそれは倒せるけど、倒したらあいつら死ぬ間際に仲間呼ぶからさ……その時に御使いもやってきたりすると、脱走者が出た、って事でこの地区の人たちも脱走するだろうと見なされてそうなる前に……みたいな事になるかも、って思ったらさ、そのまま他のトコ行くのも躊躇うわけ」


「おねーさんたちいい人だね」

「そうかな? 単純に自己保身が大きいと思ってるけど」

「顔も名前も知らない人のためにそこまで考えられるんだからいい人だよ」

「そうかなぁ」

「だって、知らない人なんて見捨てたところで何日か美味しいご飯食べて楽しい事してぐっすり眠ったら他の思い出で埋もれるでしょ」


「トムくんちっちゃいのに随分とシビアな考え方するね。最近の子って皆そんな感じ?」


 最近の子、なんてユッカだってまだ未成年だというのに、まるでばあちゃんみたいな事言っちゃったな……と思いつつも、ユッカが十歳前後くらいだった時は間違いなくこんなシビアかつドライな考え方はしていないので、やはりそう言わざるを得ない。


「ユッカ? どうかしたの?」

「あ、ロゼ」


 ロゼとディオスが御使いたちと戦っていた時、ユッカは離れた場所で隠れるように見ていた。

 だから、倒した今でも特に動く様子もなかったからだろうか。様子を見にきたようだった。


「えっと、この町の子。一応他にも生存者はいるっぽい」

「そうなんだ」


「猫が喋ってる」

「喋るよ、そりゃあ。だってボクはソルシエルロスのお供だもの」

「使い魔」

「そうだよ、知ってるじゃないか」


 目を丸くして言うトムに、ロゼもしれっと嘘を吐いている。

 その反応から、トムもソルシエルロスの事は知っているようだった。


「生存者がいるんですね。それは何よりです」

「……なんで目隠ししてるの?」


 次に姿を見せたディオスに、トムは見上げて当たり前のように問いかけた。


「これには色々な事情がありまして」

「そうなんだ」


 だがしかし、それ以上深くは突っ込まないあたりトムはそこまで気にしていないのかもしれない。


「えっとさ、そういうわけだから、色々とお話できる大人の人とかこの町の責任者とか、そういう人に取り次いでもらえるととても助かるんだけど」

「……まぁ、いっか。いいよ。こっち」


「いいの? そんなあっさりと? もっと警戒心持と? 私たちが悪い大人じゃないってまだ確証も何もないんだよ?」


 話が早いのは助かるけれど、それとは別にユッカとしてはとても心配になってくる。

 大丈夫かな……この子うちの世界だったら、公園で遊んでた所に知らない大人が君のお母さんが事故にあって病院に~とかそんな話で簡単に連れ出されて誘拐されそうなんだけど……と、本当に今どき使われていない手口ではあるけれど、引っ掛かりそうだな、なんて余計な心配をする始末である。


「おねーさんたち御使い様より強いから」


 こっち、と言いながら歩きだして、それからトムはユッカの言葉にそう返した。


「強いから、ここで逆らって力尽くっていう方法に出られたら太刀打ちできないし、それなら素直に言う事聞いた方が痛い目をみる事はないかなって」


「考え方がこどもらしからぬやつぅ……」


 強いから頼りになりそう、とかでないあたりに闇を感じる。


 ともあれ、トムに案内されて辿り着いたのは、町の中でも一際大きな家だった。


「ここだよ」

 言いながらドアを開ける。

 てっきり鍵でもかかっているかと思ったその家のドアは、あまりにもあっさりと開いた。

「いや不用心」

「大丈夫」


 何が大丈夫なのかはわからないが、トムにとっては大丈夫らしい。

(いや、うちのばあちゃんの家だって田舎にあるけど、それでもカギはかけてるんですが……)


 一応ご近所さんとの付き合いもあるけれど、しかし昔と違ってそれなりに物騒になっているとの事で、どの家も最近ではカギをかけているのに。無施錠ってそんな……え? という気持ちになるのも無理もなかった。

 だってこっちでは御使いとかいうどう見ても餓鬼にしか見えない挙句発言もいちいちなんか危険そうなのがいるのに。しかも魔物を連れていたりもするのだ。


(……まぁ、魔物がいるから、カギをかけたくらいじゃ意味がないのかも)


 クマが出没する地域も、クマがその気になればドアなんてぶち破られたりするだろうしな、と思い直す。

 いや、それでもカギがかかってないドアならクマともなれば普通に開けるくらいの知能は余裕であるから、やっぱりカギをかけておいた方が多少時間を稼げるとは思うのだが。

 クマと魔物、この場合どちらがより危険なんだろう……? なんて思い始めるも、今はそれを考えても答えが出るわけでもない。気にはなるけどひとまずユッカはその疑問を心の棚にぶん投げる事にした。


 家の中は静かで、人がいるような感じはしない。

「おじゃましまーす」

 トムがスタスタと中に入っていくのを、一声かけてからついていく。

 恐らくリビングと思しき部屋に到着するも、やはり誰もいない。


「こっち」

「え、そっちって……プライベートルームとかじゃないの? いいの? 私たちここで待ってた方が」

「いいよ」

 トムは首を横に振ると、いいから来いとばかりに手招きする。


「えぇ……」


 いいのかなぁ……? という気にしかならないが、いいと言うのなら行くしかない。

 リビングから更にその先、夫婦の寝室と思しき部屋に足を踏み入れるも、そこにも誰もいなかった。


「えっと、トム?」


 個人の私室以上に気まずい。

 普通に友達の家に遊びに行く時だって、友達のお父さんとお母さんの寝室とか足を踏み入れる事なんてないのだから。

 けれどもトムはそんなユッカの気まずさなんてこれっぽっちも気にした様子もないままに、おもむろにクローゼットを開け放った。


「ここ」

「え?」


 言いながらトムはそのままクローゼットの中に入ってしまう。


「えっ?」


 かくれんぼにしたって、目の前で隠れられましても……という気にしかならない。

 けれどもトムは中に入ったっきり出てくる様子もなかった。


「おや、ユッカさん、ここ隠し通路がありますよ」

「マジで!?」


 どうすればいいんだ……と戸惑っているユッカを追い抜いてクローゼットの中を覗き込んだディオスがそのままクローゼットの中に入っていく。

「うわちょっと」


「ボクらも行こう、ユッカ」

「そうなんだけどぉ……」


 行くしかない。わかっている。

 わかっているけれど、しかし人様の家のクローゼットの中に入る、というのがどうしても抵抗感たっぷりすぎて、どうにも気が乗らない。


 ディオスもロゼも気にならないってどうなの? と思いながらも、覚悟を決めて入る。

 クローゼットの中は薄暗く、通路とディオスは言っていたがその実階段状になっていたので、危うく足を踏み外すところだった。


「そこ段差になってるよ」

「もうちょっと早く言ってほしかったかな」


 おめめを真ん丸にしながら言うロゼに、ユッカとしてもそう言うしかなかった。

 ともあれ、一歩一歩慎重に下りていったその先で。


「ようこそ旅の人」

 白衣を着た人たちにユッカたちは出迎えられたのである。

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